20歳冬、東京-5

彼の家は芝浦の高架を越えた、モノレールの線路沿いにあった。

日のささない、秘密基地のような風変わりな家。窓を埋めるように置かれたベッド。壁に立てかけられたアコースティックギターと、部屋の一角を占めるデスク。あちこちに積み上げられた本。大きなディスプレイの下にあるキーボードは、叩くとタイプライターの音がした。

部屋の真ん中に鎮座しているのは、灰色の大きなペンギンで、彼の名前は「銀座ペンギン」といった。


大学の先輩が彼氏になってから、数日。


相変わらず三田キャンパスでとりとめもない話をして、夜はどちらかの家でご飯を食べて、朝は一緒に家を出て大学まで歩いて通う。


そんな日々が続いていた。


クリスマスの前日は熱を出して寝込んだ。心配した彼が家までやってきて、玄関で何かモゾモゾしていると思ったら、サンタクロースよろしく当時欲しかったビアレッティの直火式エスプレッソメーカーをくれた。掌に乗る小さなエスプレッソメーカーは、粉と湯を入れて火にかけるとくつくつくつと一生懸命にエスプレッソを抽出する。

翌朝、目を覚ますとドレッサーの前に小さな小箱があった。私の好きな淡いグリーンの石がついたネックレス。どうやら本当のサンタが来ていたらしい。


穏やかで幸せな、普通の大学生の日々だった。




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