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悪魔の仕事

ここは、とある『悪魔養成教室』
今日も新入生に対して先生が授業を行っている

先生 :『はい、今日は悪魔の仕事についてみなさんと一緒に勉強していきたいと思います』

生徒 :『先生!なんで悪魔なのに仕事をするんですか?なんか怠けて、何もしなさそうなイメージがあります』

先生 :『あはは、確かにそうですね。少数ですが、そういうお仕事をしている悪魔もいます。でも全員ではありません。みんながそんな悪魔ならば、この地球はとっくの昔に滅びているでしょう?』

生徒 :『じゃあ一体どんな仕事があるんですか?』

先生 :『我々の仕事は多岐にわたっています。簡単に一言で言うならば、人間を惑わすのが仕事と言えるでしょう』

生徒 :『えっ??? なんのために???』

先生 :『我々悪魔は、一人では生きていけません。無理です。そこはさっさと諦めることです。ならば誰かと一緒にいなければならないということになります。適当なヤツといたら自分が困ります。あなた方は、困りたいですか?』

生徒 :『ぜーったい、嫌です』

先生 :『そうでしょう。ならば、考えなければならない。悪魔もだらっとしているわけにはいかないのです。でも1つ疑問が出てきますね。皆さんに質問です。なぜ我々が人間を使うと思いますか?別に使わなくても、良さそうですよね?自分たちで好き勝手やればいいのに、なぜそうしないのか???』

生徒 :『う~ん・・・』

先生 :『その昔、我々の祖先がこの地球に降りてきた頃、もうすでに人間ていうのはいたんですよ。この地球に1000人だけ。彼らは我々悪魔にはない特殊能力がありました。魂の命を永遠に続かせる能力です。悪魔の寿命は平均で160歳くらい。死んだらどうなるのか分からない我々にとって、死は恐れるものなのです。死さえ来なければ、こんなに不安がって生きていなくてもいい。だから、この1000人からあらゆる事を聞き、あらゆるデータを集め、永遠の命を手に入れようと画策しました。聞いても聞いても作り方のコツが分からない。祖先は、悩みます。この1000人は体を失うとどうなるのかと。この地球から、我々の前から元いた場所に戻るんじゃないかと。手放したくない。自分たちが欲しくてたまらない答えを、彼らが持っているんだから。答えが分かるまで、人間を引き留めておきたいと思った祖先は、ある一手に出ます。なんだと思いますか?』

生徒 :『う~ん、結婚する?』

先生 :『発想的にはかなり近いですね。彼らとの間に子供をもうけることにしたのです。ところが困った事態が起きました。彼らには性別がなかったのです。つまり生殖能力が無い体だったのです』

生徒 :『えっ?じゃあどうやって子供を作るんだ?』

先生 :『一度は絶望した先祖でしたが、決して諦めなかった。彼らの体を調べ上げ、臓器を模倣して生殖器を自分たちの手で作ることにしたのです。この頃の1000人は実に素直で、いい物があるよと話したら乗ってきてくれました。1000人が体を作り替える機械に入ると、ある者は体が男になり、ある者は体が女になりました。これが性別の誕生です。そうしてやっと、子供を作ることに成功しました。彼らとのつながりが出来たのです。これが実は日本の書物に残っています。古事記に。少し気持ちに余裕が出来たからなのか、自分たちの功績をあとの世代まで残したかったのでしょう、かわいらしい祖先ですね』

生徒 :『あはは・・・』

先生 :『あとは、自分たちから気持ちが離れていかないように、自分たちをより魅力的にしました。相手の好みを調べ、弱点は徹底的に利用しました。我々と同じように、良いことだけしか起きない世の中ならば、人間は何も学びません。ということは、我々は何も答えを手にしないということです。これはゆゆしき事態です、我々は死に向かって生きています。時間がありません。かといって悪いことだけしか起きない世の中ならば、命をさっさと放棄するでしょう。あんばいがとても難しいのです。我々は努力が報われなければなりません、投資をしたら必ず回収するのです。損は出来ません、いいですね?』

生徒 :『はーい』

先生 :『手始めにやっていただくお仕事は、人の体に入って”嘘をつく”ですね。一人では嘘をつくことは出来ません。一人では嘘をつく必要が無いでしょ?例えば、”本当はお気に入りの服で行きたいけど、変に思われるのが嫌だから”と人間は自分の気持ちに嘘をつき、服を替えたりしますね。あれは、本当は我々が操作しているんですよ。人を意識させることが重要です。成功への近道です』

先生 :『”嘘をつく”って、結構嫌な仕事をするんですね』

先生 :『ただでは生きていけません。人生は戦いです。最初は慣れていないから、嘘をつきにくいかもしれません。入る体も吟味しなければなりません。人とつるまないような人は、嘘をつく機会が極端になくなるので、仕事をするには大変不利になってきます。人選びは慎重に。今日の授業はここまでですが、皆さんに宿題を出したいと思います。嘘を1つついてくること。そして、誰にどんな方法でそれをしたか、ノートに書いてきてください。1つでいいですよ』

生徒 :『あの~先生、気がのらな・・・いや、先生、僕自信ないです・・・』

先生 :『気持ちは分かります。じゃあ代わりに、最初から殺人とかの専門部署に配属されてみますか?おそらく今回の仕事は、そういう仕事よりマシな方でしょう。誰でも通る道です。最初の一歩が踏み出せないと思ったときは、これを思い出しなさい。人間の中に入った我々の心は、人間の体に守られてうまく隠すことが出来ます。そこをよーく利用するんですよ』


~生徒が帰り、教頭先生との談話~

教頭先生:『今日もキレッキレの授業でしたね、あなたに任せて正解ですよ。次もよろしくお願いしますね』

先生 :『ありがとうございます。お褒めにあずかり光栄です。でもただ1つ、心配なことがあります』

教頭先生:『ん?それはなんだね?』

先生 :『なんだか、悪魔にしては彼らは少々素直な気がします。この先やっていけるかどうか・・・』

教頭先生:『なーに、心配あるまい。最初の1回目が肝心なんだ。1回経験してしまえば、2回目のハードルはぐんと下がる。優秀な君なら、わかるだろう?』


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