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最強の神と、その弱点 (劇画 教祖物語を読んで その1)

 われは「元の神・実の神」である。
 百姓の家の主婦が、いきなりこんなことを言い始めた。

 子供やご主人さん達にとって、優しくお母さん、良い奥さんだった女性が、いきなり「われは、元の神・実の神である」と、喋り出したのである。
 うちの奥さんが、いきなりそんなことを言い始めたら、気が狂ったとしか思えない。
けれど、当時は、気が狂ったと思わせないよう、準備がされていた。

 つまり、そのとき、「中山みき」さんは、臨時に加持祈祷(かじきとう)の依代(よりしろ)になっていたのだ。
 だから、祈祷中に、神様が降りるのを、皆が待っていた。中山みきさんに、なにがしかの神様が憑依して喋りだすことまでは、予想の範囲内だったのである。

 ただ、それが、どんな神であるか、が問題であった。
祈祷を取り仕切る者が、御下がりくだされたのは、いかなる神様か、とお尋ねすると、「われは、元の神・実の神である」と、返事があった。

 この加持祈祷は、中山家の長男の足と、主人の眼、奥さんの腰の患いが、何の「たたり」であるか、知るためのもののはずだった。
 けれど、現れたのは、「元の神・実の神」と名乗った。
 つまり、全てを創造した最高神であるという。
 そして、とんでもないことを言い始める。

 「世界一列を救けるために天下った。みきを神のやしろに貰い受けたい」

 もう、意味不明である。
 だから、人間の側は、なんとかお断りして、神様にお帰り頂こうと、お願いする。
 しかし、神は、頑として、言うことを聞かず、さらに恐ろしいことを言う。

 「聞き入れなければ、この家、粉もないようにする」
 中山の家を断絶にする、という。
 しかも、この漫画の他の登場人物のセリフでは、「家」は、「世界」のたとえで、世界が消滅する、という意味だったと言うのだ。
 「元の神・実の神」は、世界や人間を作った「元の神・実の神」ということ。だから、造られた人間が、創造主の言うことを聞かねば、世界を滅ぼすというのは、理屈には合っている。

 けれど、いきなり現れた訳も分からない者に、「奥さんを差し出せ」と言われて、はい、と言えるはずもない。
 人間と神の問答は、3日も続き、依代になっている中山みきさんの衰弱も半端なく、一命も危ぶまれるようになってきた。
 ことここに至っては、お受けするより他はない、ということになり、「みきを神のやしろに差し上げます」と、答えることとなった。

 すると、依代の中山みきさんは、普段の状態に戻り、何も覚えておらず、しかも、長男の足、主人の眼、奥さんの腰の患いも、平癒していた。 

 ここまで読んで、うちの子供たちの感想。
 「いつもパパから聞いている神様は、優しい神様なのに、なんだか、神様が怖くなってきた・・・」

 それは、正しい反応なのです、娘たちよ。
「ワレワレハウチュウジンダ、オマエノオクサンヲ、ヨコセ」と、UFOが武器をチラつかせながら言っているのと、大差ないのだから。

 人間は、神のことを何も知らない。
 「元の神・実の神」と言えば、全知全能の創造主である。
 人間や世界など、強引にどんなことでもできる怖ろしい存在。

 だが、この最強の神にも弱点があった。

 人間が承知しないと、ことを進められないのだ。
 人間が、「はい」と返事をしない限り、この最強の神は、何も出来ないのである。
 
 これは、そういう神と人間の物語なのだ。

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