包まれた僕らの味は。
「肉まんが!!!たくさん食べたい!!」
サークルごとの文化祭の出店、どうしても肉まんが良いと言い張ったのは彼女だった。
「でも肉まんはコスト的にも調理の行程的にも無理があるよ」
意志を否定したいわけではないので、なるべく現実的な方向で諦めさせることを試みる。
僕らがこの大学生活で加入したのは「世界グルメサークル」などという、実質食にしか興味がないであろう人間が集まる小規模サークルだ。
普段の活動は、月に数回メンバー同士で色々な国の料理を食べに行く。もちろん国内で。
飲みサーならぬ食べサーである。
入学当初、たまたま隣の席になったことから仲良くなった彼女は、サークル内の誰よりもよく食べる。
僕も人より食べる方ではあるが、たくさん食べる姿が可愛いとはこのことかと思い知らされたのは彼女が初めてだ。
痩せなきゃと思いつつ美味しいものを前にした時には負けちゃう、と愛嬌のある笑顔で笑うので、サークル内では皆に好かれているのであった。
「じゃあ肉まんは一緒にたくさん食べに行こう。文化祭とは別に。」
彼女は納得のいかない様子であったが、素早くコストを計算してくれた後輩の数字と、僕の一言で折れたようだった。
「......今日行ってくれる?」
「もちろん、どこでも行こう」
「わかった!じゃあ場所は私が決めるね!」
すっかり切り替えたのか、嬉しそうにそう言った彼女が指定した場所は、大学最寄駅からすぐの公園だった。
「公園に肉まん売ってたっけ?」
「公園に肉まんが売ってるわけないでしょう〜」
ケラケラと笑いながらマフラーを巻いた彼女は、長くて綺麗な黒髪を邪魔そうに払った。
「コンビニの肉まん食べ比べましょう大会!」
「大会名に敬語入ってきたね。」
「細かいことは良いの、さぁ、コンビニ巡るよ〜」
元気よく歩き出した彼女の横、車道側を選んで歩く。
「中華まんは何が一番好きなの?」
「んー肉まん?」
「豚とかじゃなく、普通のやつ?」
全部好きだけど、と付け加えた彼女は、なお上を向いて考えた。
「....似てる丸いの、全部並べてわからないまま食べたいかなぁ。なんか、ワクワクするじゃん。」
「しょっぱいの食べたくて、あんまん食べちゃったらどうする?」
「それはそれで、あなた甘かったのね、って受け入れる。彼らに悪気はないもん。」
どっちも好きでいたいって欲張りだけどね、と照れ笑いをした横顔が美しいと思った。
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女の子は恋をすると変わる。
彼女は変わった。
「好きな人ができたから綺麗になりたい」
真っ直ぐな瞳でそう言った彼女は、それから僕の食事の誘いを断るようになり、サークルにもなかなか顔を出さなくなった。
「初めて彼氏ができたの、応援してくれてありがとう!」
彼女はすごく痩せて、きれいになった。
自分に自信が出たと言って、色々な友人を作った。
「みんな綺麗になったねって言ってくれるのすごく嬉しい、今度パーティーに誘ってもらえたんだ!」
嬉しそうに話す彼女は、なんだか別人みたいだった。
「僕は前から綺麗だと思ってたよ」
「もう、''僕''って言わないの、女の子なんだから」
彼女は変わった。
僕だけが変われなかった。
「中身は割ってみないとわからないのが楽しいでしょう」
そう言って大きな一口で頬張った彼女が恋しい。
「ずっと友達だよ」
その一言に全部包まれている気がして、
中身の味はまだ教えてあげられないまま。
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