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第六夜 花探し

 こんな夢を見た。
 知らない花を探している。姿も形もわからないのに、いつかその花を見つけた時には、たしかに、私はこの花を探していたと言えるような気がしていた。
 二つ先の角を右に曲がった畑に咲く黄色い花の隣に座ってみたり、山のてっぺんに咲く真っ赤な花にただ見惚れてみたり、道端に凛と咲く小さな白い蕾に水をやってみたりするも、どの花も私の探しているものとは違う気がしてならないのである。
 首を傾げた目線の先にふと現れたサンタクロゥスが
「多くの花ばかりみるものじゃあないよ」
 と朗らかに笑ったので、
「花のないところに連れて行ってください」
 と返した。
 すると、景色がぐにゃりと歪んで、次に気がついた時、私は熱い砂の山に立っていた。足の裏に吸い付く砂はどうしようもなく熱を帯びながら水分を欲し、吹き抜ける熱風は私の首元に汗となってじっとりとまとわりつく。
 この砂に囲まれた大地ならば、美しい花をすぐに見つけられるだろう。
 私は安易にそう考えたが、灼熱の大地を歩き回り、やっとの思いで見つけた花たちは、手に触れると瞬く間に水気を失って、脆く儚いドライフラワーになった。
 何日か砂の中を彷徨っていると、両手に色とりどりの花を抱えたサンタクロゥスが現れ
「美しさのまこととは?」
 と問うたので
「自分がまだ見たことのないもの、ではないでしょうか」
 と答えた。
 どこまでも続く水を失った砂の大地は、荒んだ私の心を惑わせる。なぜ私はこんなに苦しい思いをして花を探しているのだろうかと考える。
 それでも私は砂の中を歩き、通り過ぎる誰かの花を羨み、そしてまた歩いた。
 どのくらい時間が経っただろうか。
 熱い砂の上で座り込んだ私は
「もうやめてしまいたい」
 そう嘆くと、どこからともなく現れたサンタクロゥスは
「すぐそこにあるじゃあないか」
 と優しく微笑む。
 思いがけず流れた涙の滴が花弁を這う露のように、私の頬をつたった。
 花はもうずっと前から、私として咲いていたのだなと、その時はじめて気がついた。

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