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夢幻鉄道 水本小春 編

この小説は絵本作家にしのあきひろさんの絵本「夢幻鉄道」の二次創作物です。





私の好きなもの。

ピンクがかったオレンジの夕陽
金魚柄の浴衣
夏の潮風
ひなちゃんの家のベランダからの景色
夏のもぎたてのキュウリ


高校生になった今も変わっていない。
あの頃から。


小学校5年生の夏休み。
日向子ちゃんの亡くなったおばあちゃんの家に泊まりに行った。

当時、私は母から借りた「夢幻鉄道」の小説にハマっていた。
何冊かシリーズが出ていて、読み終わっては次の一冊、また次の一冊と読みあさっていた。


そして、私は、ひなちゃんのおばあちゃんの家の庭先で「夢幻鉄道」に乗った。

「我ながら勇気があったな」と思っていたけど、きっと小説で知っていたから、躊躇しなかったんだろうと思う。
小説の表紙の絵のままの「夢幻鉄道」。列車の中も小説の描写のままだった。

誰だって1つや2つ、人には言っていない事がある。それは「特別なことじゃない」と、今なら、あの頃より少しは分かる。

言いたくない事や、言いそびれた事、ただ言えなかっただけの事。いずれにしても、そのせいで、心を重くさせること。

「夢幻鉄道」で、誰かの夢に入っていくと、その人の「心を重くさせていること」を知ることになる。「解決する。」なんて、おこがましい。でも「私にはやるべき事がある。行く理由がある。」という「使命感」のようなものをあの時は感じてはいた。
「行かなくちゃ。私はその人に呼ばれている。」と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・


小学校5年生、夏休み前日の帰りの時間。
私とひなちゃんはいつも通り、一緒に帰っていた。

毎日なんだから、今日もそうに決まってるのに、ひなちゃんは必ず毎日「一緒に帰ろう。」と声をかけてくれた。

帰り道で話すのは、他愛もないことばかり。
今日学校であったこと、昨日見たテレビのこと、好きなアイドルのこと。

でも、その日はちょっと違った。

数ヶ月前におばあちゃんが亡くなって以来、「お母さんの様子が心配だ」と、ひなちゃんは話し始めた。

「亡くなってしばらくは、おばあちゃんの写真の前で、ぼーっと座ってるだけだったんだ。でもね、最近、よく泣いてるんだよね。」

私たちにしては珍しく、ちょっと深刻な話しだった。2人で公園の中にそのまま入って行き、ブランコに座った。

帰り道の途中にあって、ときどきふらっと立ち寄る公園。もう少し話したいな、というときは、どちらからともなく、足が向く。


「おばあちゃんの写真を見ながら、別の写真を見て、また泣いてるみたいなの。」
「別の写真?」
「うん。私、なんか気になってさ。なんの写真だろうと思って、こっそり見てみたのね。そしたら、女の子が写ってる写真だった。」
「女の子?どんな子?知ってる子?」
「ううん。知らない子。ほら、おさげって言うの?2つに三つ編みしてるの。たぶん、私たちと同い年くらい。」

「亡くなったおばあちゃんの遺影の前で、女の子の写真を見てお母さんが泣いている。」
なんだか、不思議な話だな、と思った。

ひなちゃんのお母さんとその女の子はどんな関係なんだろう?

「その写真を見て何か気付いたことはある?」
「なんか、小春ちゃん、ドラマの刑事みたい。」
思わず顔を見合わせて笑った。

「気付いたことねぇ…。うーん。そういえば、写真が古かったかも。色がちょっと変色?しているっていうか、ほら、セピア色っていうんだっけ?」
「あぁ、色が褪せているって感じ?」
「あっ、そうそう。色褪せた感じ。」


ブツブツ言いながら、じっと一点を見つめて考えていた私に、突然ひなちゃんが言った。

「ねえ、小春ちゃん。今年の夏休み、おばあちゃんの家に一緒に来てくれない?」
「…へぇ?」
「『へぇ?』って。小春ちゃん!」とひなちゃんは爆笑している。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた。」

集中しすぎて周りが一切見えなくなる、私のいつもの悪いクセはこのころからだった。


「ひなちゃん、今、一緒におばあちゃんの家に来てって言ったの?」
「そう。毎年お母さんと2人で里帰りするんだけど、今年は何となく2人だと…ね。」

あぁ、確かに。そうだよね。ちょっと不安というか、何というか。ひなちゃんの気持ちは分かる気がした。

「うん、そうだね。私は、もちろんいいよ。でもお母さん達にはなんて言う?」
「おばあちゃんの家のそばにね、砂浜があるんだけど、夕陽がめちゃくちゃキレイなんだ。ピンクとオレンジのグラデーションで。お母さんがね、昔からよく『ここはきっと世界で一番夕陽のキレイな場所だよ。きっと世界一だと思う。』って言っててね。だから、それを小春ちゃんに見せてあげたいって言ってみる。」
「それでいいって言ってくれるかな?」

説得材料としては、なんだか頼りないような気がしていた。

「おばあちゃん亡くなっちゃったから、だれも住む人がいないんだよね、あの家。だからもしかしたら、今年が最後の里帰りかも知れないんだって。あの家、手放すかもしれないってお母さんが言ってた。だから、『最後かもしれないから小春ちゃんに見せたい。』って言ってみようと思う。」
「そっか。じゃあ、うちのお母さんにも、『最後かもしれないから』って言ってみるよ。帰ったら、すぐに言う。」
「うん。あたしもすぐ言うよ。」

そう言いながら、どちらからともなく、ブランコから立ち上がり、外に向かって歩き出す。
そのまま分かれ道に来るまで、ひなちゃんは「いっしょに行けるといいなぁ。楽しみだなぁ。」と楽しそうにおしゃべりをしている。
でも私は、ひなちゃんのお母さんの持っている写真のことが、気になって気になって。話はほとんど聞いていなかった。

「話してお母さんがいいって言ったら、お母さんの携帯から小春ちゃんのお母さんに電話してもらうね。じゃあ、ね。」
最後の「ね。」のところで、ひなちゃんは意を決したような、ちょっと思いつめたような顔をした。


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「ただいまー。」
「小春。おかえり。」
「ねえ、お母さん。今年の夏休み、ひなちゃんのおばあちゃんの家、一緒に行ってもいい?」
「え?ひなちゃんのおばあちゃんの家って、あの離島の?」

学校から帰ってすぐにお母さんにその話をした。ひなちゃんの亡くなったおばあちゃんの家に一緒に行こうと誘われたこと。そのおばあちゃんの家がもしかしたら、無くなってしまうかもしれないこと。行くチャンスは今年しかないかもしれないこと。
話しているうちになぜか熱が入り、一生懸命説得するような話し方になっていたかも知れない。

それが通じたのか、お母さんは思ったよりも、あっさ了承してくれた。

今ごろ、ひなちゃんもお母さんに話していると思う、その後きっとひなちゃんのお母さんから電話が来ると思うから、と伝えると
「分かった。じゃあ、ひなちゃんのお母さんから電話が来たら『一緒に連れてって』ってお母さんからもお願いしておくから。」と言った。
よかった。上手くいった。

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机に宿題を広げたのはいいけど、全然手につかない。
自分が思う以上に、離島に行くのが楽しみなんだな、と気付いた。

そういえば、毎年里帰りのたびに盆踊りに行くって言ってたな。浴衣を持っていくのかな?


頭の中であれこれ考えていたら、お母さんのスマホが鳴るのが聞こえた。

「はい、水本です。鳴海さん、お久しぶりですね。」
鳴海さん。ひなちゃんのお母さんからだ。

ドアに耳をくっつけて聞いてみても、聞こえるのは
「ええ。」とか「はい。」とか相槌ばっかり。
ドアから耳を話した瞬間お母さんに呼ばれた。

「小春。ちょっと来て。ひなちゃんのお母さんから旅行のことで電話よ。」

来た来た!

「小春。ひなちゃんのお母さんが、『今度のお盆休み一緒に島に行きませんか?』って。本当に連れて行ってもらう?」
「うん!行く行く、行きたい!」
「分かった、分かったから。」とお母さんはケラケラ笑っている。

「もしもし。本人も行きたがってて。はい。でも本当にお邪魔じゃないかしら?はい。はい。」
私は自分の部屋に戻った。

よし!やった!やったあ!


そうだ。今のうちに支度しておこう。
そう思い立ち、まずは持ち物のチェックリストから作った。

「着替え、歯ブラシセット、宿題…絵日記だけ一応持っていこう。それから…」

コンコン。
「小春、明日浴衣、買いに行こうか。」
「え?ほんと?ほんとに?」
「うん。ほら確か、去年袖の長さがギリギリだったでしょ?で、来年は買わないとだめね、って言ってたな、って思い出して。ひなちゃんのお母さんがね、浴衣を持ってきて欲しいって。島の夏祭りに行くからって。」
「あ、そうだった。うん、欲しい、新しいの。」
「うん。じゃあ、明日いこう。
「うん。」

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旅行の当日、浴衣と一緒に買ってもらった新しい服を着て、持ち物チェックも何度もした。きちんとチェックリストまで作って。
チェックリストを作るクセは今も抜けていなくて、リストを作ると安心する。

ひなちゃんたちとの待ち合わせ場所は、船に乗る港だった。
そこで、お母さんとは別れて3人で高速船に乗った。
普通の客船で行くと12時間くらいかかるのに、「高速船だと2時間半で着く」と、ひなちゃんが教えてくれた。


高速船は動いている間、席を立つことが出来ない。
シーバスみたいにデッキに出て景色を見たりすることは出来なかったけど、ひなちゃんと2人でずっとおしゃべりをしていた。そんな2時間半なんてあっという間だった。

今思えば、2人ともかなりテンションが上がっていたんだろうな、と思う。何でもないことで、やたらとクスクスケラケラ笑い声をあげて笑っていた。


島についてからは、タクシー移動。バスもあるけど、バス停から少し歩くから、とひなちゃんのお母さんは言っていた。

ひなちゃんのおばあちゃんの家について驚いた。思ってた以上に大きな家だった。

なんていえばいいかわからないけど、瓦屋根の昔の立派な家。庭も広いし、マンション暮らししか知らない私には、ちょっとタイムスリップしたような気分だった。


家の中に入り、ひなちゃんとすぐに庭に出た。

庭のはじっこには家庭菜園のキュウリがなっていた。
その左手には花壇があって、原色の花がきれいに咲いていた。

キュウリにも花にも水滴がたくさんついていた。
たった今、水をあげたばかりみたいに、強い太陽の光に照らされてキラキラしていた。

強い日の光の中、ふわふわ吹く風を受けながら、セミの声に意識を集中して目を閉じる。
こうすると、なぜかいつも時間が止まったような感覚になる。まるで自分1人だけ違う次元に行ってしまったような感覚。

今でも夏にだけ、この感覚が訪れる。私はこっそり、この感覚を「夏の魔法」と呼んでいる。


そんな感覚をじっと味わっていた私に、ひなちゃんは庭のキュウリを1本もぎとり、半分に折って渡してくれた。
「小春ちゃん、甘いキュウリ、食べたことある?」

キュウリが甘いなんて聞いたことがない。
「ないよ。キュウリって甘いの?」
そう聞くと、ひなちゃんはニコッと笑って
「食べてみて、食べてみて!」と言って自分もかぶりついた。
その時の幸せそうな顔は今でも忘れていない。

その顔につられて私も一緒にかぶりついた。
驚くほどみずみずしくて、何より本当に甘かった。

それに、本当の味を知ったことが、まるで大人になったみたいで嬉しかった。

驚きとうれしさで、ニヤニヤしながら2人でキュウリをほお張った。


ひなちゃんのお母さんは、お隣のおばさんが冷蔵庫に入れておいてくれた、とスイカを切ってくれた。
「スイカの方が甘いわよ。」と笑いながら。

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スイカを食べたあと、2人で2階へ上がった。
1つの部屋のふすまを開けるとベランダに出た。
坂の途中にあるこの家の、ベランダからの景色は最高だった。

少し下の方には、木の緑と、他の家の赤い屋根が点々と見える。その先には道路がありさらにその向こうには、砂浜があった。

そして、その砂浜から海、海から空へと続いていく。

強い太陽のせいで、すべての色がくっきり浮かび上がっているみたいに見える。本当にきれいだった。
あまりにもきれいだったから、思わずひなちゃんの顔を見た。

ひなちゃんもこっちを向き、「ね。」とだけ言って、向き直し、景色に見入っていた。
そのまま、ただただ潮風に吹かれてぼーっとしていた。

どれくらいたった頃だろう。
ほんのちょっとだけ、夕方になりかけた頃、ひなちゃんが「行こう。世界一の夕陽の砂浜。」と誘ってくれた。

「夕陽を見に砂浜に行ってくる。」というと、おばさんは「うん。行ってらっしゃい。暗くなる前に帰って来なさいね。太陽を直接見続けちゃダメよ。」と答えた。

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おばあちゃんの家から、砂浜までは子供の足でも10分くらいだった。
さっきよりもさらに日が傾きかけていた。

波打ち際で波と追いかけっこをしたり、水をかけっこしているうちに周りの色が一変していることに気が付いた。

空を見上げるとピンクからオレンジのグラデーション。

初めて見た空の色に、言葉が出なかった。
暗くなるギリギリまで、ひと言も話さずに空を見上げていた。

「ひなちゃーん、そろそろ帰りなさーい。」
びっくりして振り返ると女の人が立っていた。
「はーい。おばちゃん、スイカごちそうさまでした。」と手を振りながらひなちゃんは返事をした。

「お隣の桜井さんのおばちゃんだよ。」
「あぁ。」
「おばあちゃんが亡くなってから、おばちゃんが、庭の水やりとか雑草取りとかやってくれてたんだって。」
「そうなんだ。」

「島の人はみんなあんな感じなんだって。昔からみんなで、お互いに手伝ったりしてるんだって。」
「へぇ。」


「どうだった?夕陽。世界一だったでしょ?」
「うん。あんな色の空、見た事ないよ。すごかったね。」

あの景色はたぶん一生忘れないんだろうな、と今でも思う。
今なら間違いなくスマホで画像を残していたはず。
当時はまだスマホを持てなかったから、記憶の中にしかない。


家につくとおばさんに「夕陽、きれいだったでしょ?」と聞かれた。
おばさんは自分の宝物を自慢する子供みたいな表情で嬉しそうだった。

「うん。すごかった。あんな色はじめて見た。」と言うと、「でしょ?」とさらに嬉しそうに表情をくずした。

「さ、2人とも浴衣を持って来て。着替えなくちゃ。」
「はーい。」
「はーい。」

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2階から浴衣を持ってきた。
ひなちゃんはかわいい赤いトンボ柄の浴衣。おばさんと色違いのものだった。

私のは、買ったばかりの紺地に赤い金魚の柄だった。お店を何件も回って決めたお気に入り。
店員さんの「大人っぽくて素敵でしょ?」の一言で決まった。

小学5年生の女の子に「大人っぽい」は、本当に響く。

お母さんが風呂敷に包んでくれた浴衣や帯をそのまま渡し、開いた瞬間、おばさんの表情が固まった。

私が、不思議そうに見ていると、おばさんは
「小春ちゃん。この浴衣…どこで買ったの?」
「デパートのきもの屋さん。」
「そう。うん。かわいいわね。」

一瞬だけニコッとして、すぐにさっきの顔に戻った。
そのまま何もなかったように着付けをしてくれた。


ドドンドド、タカタッタ ドドンドド、タカタッタ
ドドンドド、タカタッタ ドドンドド、タカタッタ

「あ!始まった!」盆踊りの太鼓の音だ。思ったよりも近く聞こえた。
「音大きいね。」
と私がちょっと驚くと、ひなちゃんは
「坂の上の小学校の校庭だよ。すぐそこ。」
と教えてくれた。どおりで。

いつの間にか、おばさんも着付けが終わってた。
「さあ、行こう。」

いつものおばさんの顔に戻っていた。

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3人で坂を上っていると、後ろから誰かを呼ぶ声が聞こえた。

「山野〜、山野!」
ふり返ると男の人が、笑顔で手を振りながら、坂を駆け上がってきた。

「あ、涼君。」
おばさんが、つぶやいた。

「山野。久しぶりだな。」
「うん。涼くん、今年は帰ってきたんだね。」
「ああ。お袋がうるさくてさ。たまには帰って来いって。それより、おばさんのこと聞いたよ。残念だったな。大丈夫か?」
「うん。ありがとう。だいぶ落ち着いたよ。」
そう答えたおばさんの顔は、さっきの顔、私の浴衣を見たときの顔だった。

そして、おじさんは、今度は私たちの方を見た。
「え~っと、ひなちゃんは…」
「私です。」
「そうか。大きくなったなぁ。おじさん、ひなちゃんがまだ赤ちゃんだったころ、抱っこしたことがあるんだよ。すごいな。こんなに大きくなるだな。」
そう言って、豪快にニカッと笑った。

「じゃあ、君は親せきの子?」
「ひなちゃんの友達です。」
「そっか。小さい島のお祭りだけど、楽しんでってな。」
そう言ってまた、ニカッと笑った。

「それにしてもさ、これくらいの女の子が2人並んでると、みっちゃん思い出すな。山野とみっちゃん、いつも一緒だったよな。
双子みたいだって、よくお袋が言ってたよ。みっちゃんが生きていたら、これくらいの子供がいてもおかしくないんだもんな。」
と言ったあと、おじさんは、一瞬表情を変えた。

「ごめん。なんか、口が滑ったな。悪い。じゃ、またな。」と言って走って行ってしまった。


内容はよくわからなかったけど、大人たちのやり取りを見ていて、なんとなく聞かない方がよい話だったような気がした。


ひなちゃんもそう感じていたみたいだった。
「お母さん、行こう。」とだけ言って坂を上がり始めた。


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坂の上の小学校に着いた。学校の名前はそのまま「坂の上小学校」だ。

門を入ると、ちょうど正面にやぐらが組んであり、その上で太鼓をたたいている人がいる。
やぐらをぐるっと囲むように踊っている人たちがいる。

丸い校庭のカーブに沿って左右に出店が並んでいる。
どの出店も島のお店の人たちが出しているものだった。近所の人たちがフランクフルトや焼きトウモロコシ、かき氷や綿あめを作っている。

「二人とも。お腹空いてる?」
「う~ん、小春ちゃん、どう?」
「う~ん、まだ、かな。」
「今日の夕飯、ここで済ませようと思ってるんだけど。冷蔵庫からっぽだから。」
「お母さん、後でいいよ。小春ちゃんと踊ってくる。」
「分かった。小春ちゃんも、それで大丈夫?」
「うん。大丈夫。」
「じゃあ、お母さん、ここで見てるから。」

私たちは踊りの輪の中に向かっていった。
なんとなく後ろを振り返ると、おばさんはさっそく知り合いの人と楽しそうに話していた。

ここはおばさんの地元だから、知り合いが多い。みんな「さっちゃん、さっちゃん」と声をかけてくる。おばさんも楽しそう。

そこでふっと、さっきの涼おじさんとの会話を思い出した。あの時だけは、おばさん、ちょっと表情が違っていた。

「小春ちゃん。さっきのお母さんの顔見たでしょ?涼おじさんと話してる時の顔。あの顔、するんだよね。家でも。前に言ったおさげの女の子の写真見てるときに。」
「あぁ、前に言ってた写真だね。」
ひなちゃんを見ると、顔がさっきのおばさんの表情にそっくりだった。

「ひなちゃん、今、おばさんのさっきの顔と同じ表情してるよ。」
「あぁ。」
と照れくさそうに笑った。
それから私たちは、やぐらを何周も回った。

「あ~、楽しかった。お母さん、お腹すいた。」
「はい、お帰り。じゃ、なんか食べようか。小春ちゃん、ずいぶん上手に踊ってたね。」
「うん。おなじことの繰り返しだから、カンタンだもん。」
「ふふふっ。そうね。お腹は?すいてる?」
「うん。」
「2人とも、何食べたい?」

3人で、出店に向かった。

焼きとうもろこし、焼きそば、かき氷、フランクフルト。
こんな食べ合わせが許されるのは、お祭りならでは。

食べている最中におばさんが知り合いを見つけた。私たちに「ここで食べてて。挨拶に行ってくるから。」と言って席を立った。

「金魚すくい、やりたかったな。」
ひなちゃんは、歩いていくお母さんの後ろ姿を見ながら言った。

「え?金魚すくいやりたいの?じゃあ、後で一緒に行こうよ。」
「ううん。いい。やめておく。」
「なんで?」
理由を聞くと、ひなちゃんは言った。
「お母さん、金魚、嫌いらしいんだ。」
「そうなの?」
と思わず自分の浴衣の柄に目がいった。おばさんが私の浴衣を見て態度がおかしかったのはそのせいだったのかな、と思うとちょっと残念な気持ちになった。

「ひなちゃん、いつか、2人で行こうよ。金魚すくい。」
「うん。」
ひなちゃんは、ニコッと笑った。

私たちは、その間もずっとおしゃべりを続けていた。
お互いの浴衣のこと、盆踊りの曲のこと、出店のこと、島の景色、お隣の桜井さんのおばさんのこと。今日2人で経験したことをあれこれ話し続けた。


帰り道でも、話が途切れることはなかった。


………………………………………………………………………


家に戻ってからは、さっきまでしゃべってたのがウソのようにあっという間に寝てしまった。
並べて敷かれた布団に入って話したのはたった一言、「今日楽しかったね。」だけだった。
さすがにひなちゃんも私も疲れていたみたい。

どれくらいたったころだろう。
夜中になぜか目が覚めた。
しばらくぼーっと天井を見つめていた。
横を見ると、隣にひなちゃん、その隣におばさんが寝息をたてて眠っている。

ドドンドド、タカタッタ ドドンドド、タカタッタ
ドドンドド、タカタッタ ドドンドド、タカタッタ

「え?」
太鼓だ。とつぜん太鼓の音が鳴り始めた。
もうお祭りはとっくに終わってるんじゃなかったっけ?
でも、確かに太鼓の音が聞こえている。

ドドンドド、タカタッタ ドドンドド、タカタッタ
ドドンドド、タカタッタ ドドンドド、タカタッタ

間違いない。さっき聞いていた太鼓とまったく同じだった。

「ひなちゃん、ひなちゃん。起きて。」
どうしよう。全く反応がない。
ひなちゃんもおばさんも全く起きる気配もない。

ドドンドド、タカタッタ ドドンドド、タカタッタ
ドドンドド、タカタッタ ドドンドド、タカタッタ


どうしていいのか分からないまま窓の方に目を向けた。 カーテンの向こう側がぼんやり明るくなっていることに気が付いた。

私は、布団からそっと出て、窓の前に立った。

やっぱり窓の外がぼんやりと明るい。
カーテンの隙間から、そっと外をのぞいてみた。

「…あっ。え??」
思わず、声がもれた。

外で何かが、光っていた。明るさに慣れた目に見えたのは「夢幻鉄道」だった。

いつも読んでいる小説の表紙の絵と同じ、「夢幻鉄道」だ。「夢幻鉄道」が家の前の道に止まっている。
思わず走って階段を下り、外に出た。


はっきりと「夢幻鉄道」だとわかるところまで近づいて行った。

「わぁ……」
夢なのか、現実なのか、触ったら消えてしまうのか、訳が分からないまま、ただ、じっと見ていた。

すると、乗降口のドアがすっと開いた。

おそるおそる近づいてみる。

中には、ぼんやりとオレンジ色の光がともっていて、乗客らしき人の姿が見える。

すると、私の足がゆっくりと動き出した。
「えっ、わっ、わっ。」
一段ずつ乗降口のステップを上がり中に乗り込んだ。

そうだ。小説でもそうだった。
足が意思をもっていくべき場所に導いてくれる。
そのことに気が付いて、ちょっとだけ心強くなった。


私は、車内を見回してあいている席に座った。他の乗客たちは、みんなじっと前を見たまま座っている。こっちを見ることも表情を変えることもない。

音もなくドアが閉まり、「夢幻鉄道」は動き出した。

………………………………………………………………………

夢幻鉄道はどこにも止まらず、ずっと走り続けている。外を見ても真っ暗でどこを走っているのか、全くわからない。まるでトンネルの中みたいだと思った。
見えるのは、ガラスに映った自分の顔だけ。

そのまましばらく走り続けていると、トンネルを抜けたように外の光が車内に入ってきて、夢幻鉄道は止まった。
「…ここって…」

驚いてすぐに外に出た。
そこはさっきまでいた、「坂の上小学校」だった。
私たちがさっき夏祭りで来ていた場所。ひなちゃんと2人で盆踊りを踊った場所。

校庭にはさっきと同じようにたくさんの提灯がぶら下がっている。まだ昼間だというのに、やぐらの周囲にも同じように盆踊りをする人たちの輪が見える。


だけど、景色はあきらかに違った。太陽が出ている時間なのに、すべてがぼんやりとしていて薄暗い。
濃いオレンジの提灯も、木の濃い緑も、それを照らす強烈な太陽の光も、ぼんやりぼやけた色合いだった。

なんとなく違和感を感じながら校庭に入っていった。


夢幻鉄道に乗る前に聞こえていた太鼓の音が今はほとんど聞こえない。
遠くの方でうっすらと聞こえているだけだ。周囲にたくさんいる人たちの話声もざわめき程度にしか聞こえない。

そんな中、突然はっきりとした声で会話が聞こえてきた。


「ほら。みっちゃん。金魚すくいがあるよ。」
「あ、本当だ。でもなぁ…私、金魚すくい苦手なんだよね。だって全然すくえないんだもん。」
「ふふふっ。そうなんだ。じゃあ、おじさんが教えてあげるから、やってみよう。」
「うん。おじさん、やって見せて。」
「よし。これ、みっちゃんの浴衣の柄に似ているね。この金魚にしよう。」


また、足が歩き出した。足は校庭のカーブにそって並んだ屋台の前を通り過ぎていく。
屋台の列がとぎれた先、少し奥まったところに、金魚すくい屋さんが出ている。

金魚が泳いでいる大きなたらいの前に「おじさん」と「みっちゃん」らしき2人がしゃがみ込んでいた。

私は、みっちゃんの姿を見て驚いた。
おさげ姿のみっちゃんの浴衣が、私の浴衣とまったく同じ金魚柄だったから。
地の色も、金魚の色も大きさも全く同じものだった。

楽しそうにはしゃいでいるみっちゃんの姿に「おじさん」は目を細めていた。


今度は、金魚すくいの2人に背を向けて、私の足はまた歩き始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今度は、どこにいくんだろう。
誰に会うんだろう。
足は迷うことなく坂を下っていく。 

そして坂の途中を右に曲がったところで止まった。目の前にあったのは、ひなちゃんのおばあちゃんの家だった。今私が立っているのは、さっきまさに私が夢幻鉄道に乗った場所だった。

ゆっくりと、庭に入っていくとそこには、みっちゃんがいた。もう1人同い年くらいの女の子と楽しそうに話している。

そこに女の人が入ってきた。
「沙知子、みっちゃんも、ちょっとこれ見て。」
「なに?」
女の人が手に持っていたのは、浴衣だった。さっき金魚すくいでみっちゃんが着ていた、私と同じ金魚柄の浴衣だ。

「これね、お母さんが縫ったのよ。2人お揃いよ。」
「すごい!お母さんが作ったの?」
「金魚の柄だ。かわいい。さっちゃん、おそろいだね。」
「うん。今度の盆踊りに着ていこう。」

あの女の人の顔には、見覚えがあった。ひなちゃんのおばあちゃんの遺影。すぐに分かった。年齢はだいぶ違うけどあの顔は間違いない。
それに、ひなちゃんのお母さんは、地元の人から「さっちゃん」と呼ばれている。
私が見ていたのは、昔のひなちゃんのおばあちゃんと、お母さんだった。

みっちゃんは、ひなちゃんのお母さんの友達だったんだ。


そんな事を考えながら、庭から3人の姿を見ていたら、部屋の中がスッと暗くなった。
まるで、舞台を見ているようだった。


次に明るくなった時には、みっちゃんはいなくなっていて、さっちゃんとお母さんの2人だった。
お母さんは、電話で深刻そうに話をしている。

「…本当になんてお詫びすればいいか。申し訳ありません。本当に、本当に…。分かりました。」

「お母さん。誰から?」
「沙知子。今日、みっちゃんと約束してた?」
「うん。今日、夕方4時に校庭で会う約束してる。」
「夕方の4時?14時じゃなくて4時?」
「14時?14時って2時のことだよね?」
「そう。」
「…たぶん4時だと思うけど…。でも何で?」

さっちゃんのお母さんは、みっちゃんは『14時に約束している』と家族に言ってその時間に校庭に向かったこと、校庭で会った同級生に『ひなちゃんが来ないから、今から家にいってみる』と言っていたこと、その途中の道で事故にあったことを1つ1つていねいに伝えた。

お母さんの話を真剣に聞いていたさっちゃんの表情は、どんどんと硬くなっていった。まるで現実が、さっちゃんにじわじわと染み込んでいっているみたいだった。

「…お母さん、みっちゃんは?大丈夫なの?」
「…さっきね、病院で…亡くなったって…。」

さっちゃんの中から、スッとすべての色が消える瞬間が見えたような気がした。まるで、からっぽになってしまったみたいに。

「沙知子。お母さん、とにかくみっちゃんの家に行ってくるから。1人で留守番できる?大丈夫?」
さっちゃんは、ただコクリとうなずいた。

「じゃあ、行ってくるからね。隣のおばさんに頼んでいくから、何かあったら、桜井さんのおばさんに言うのよ?いい?」
さっちゃんは、またコクリとうなずいた。
そしてお母さんが玄関から出て言ったあと、小さな小さな声でつぶやいた。

「私のせい…なの?」


…………………………………………………………………………


さっちゃんのお母さんが帰って来た。
さっちゃんは、微動だにせず、同じ場所に同じ形で座ったままだった。

「ただいま。沙知子、変わったことはなかった?」
さっちゃんはコクリと頷いた。


「沙知子。みっちゃんに会いに行く?今から行く?もし辛かったら、明日でもいいけど、どうする?」
「私のせい?」
「…え?」
「私の、せいなの?」
「何言ってるの?」
「みっちゃんが死んじゃったのは、私のせい?」
「どうして?何でそう思うの?」

さっちゃんは無表情なまま、空(くう)を見ている。

「お母さん、みっちゃんのお母さんに謝ってたよね。『何てお詫びすればいいか。』って言ってたよね?『申し訳ありません。』って謝ってたよね?私のせいだと思ってるんでしょ?私のせいで、私のせいで…みっちゃんが…そう思ってるから謝ったんでしょ?」

最後まで言い切ると、さっちゃんはテーブルの上に顔を伏せ泣き出した。みっちゃんが亡くなって初めて、さっちゃんは泣いた。

……………………………………………………………………


ポツン        ポツン        ポツン

ポツン     ポツン     ポツン     

ポツン  ポツン  ポツン  ポツン  ポツン


雨が降って来た。
日に焼けた腕に雨粒がつぎつぎと落ちてくる。
思わず、雨宿りしようと周りを見回して、気が付いた。
金魚すくいのおじさんが、後ろに立っていた。


「小春ちゃん、こんにちは。」
「こ、こんにちは。」
「ごめんね。驚いたよね。」
私は思わず頷いた。
おじさんは、穏やかな笑顔でうんうん、と頷いていた。

「雨が降って来て。雨宿りしないと。」
と、私がいうと、おじさんはニコッと笑った。
「大丈夫だよ。腕を見てごらん。」

私は自分の腕を見た。まったく濡れていない。雨粒がつぎつぎと腕にあたってはスッと消えていく。
「あ。消えた。」
思わず、おじさんの顔を見た。おじさんは、またニコッと笑いながら、うんうん、と頷いている。

「ここで降る雨はね、濡れないんだよ。本物の雨じゃないんだ。」
「本物の雨じゃないんですか?」
「うん。ここで降る雨はね、悲しみの結晶なんだ。夢を見ている人が、悲しんでいるんだよ。」


悲しみの結晶。
ものすごく悲しい響き。この夢を見ている人は、きっと泣いている。夢を見ながら。

私はおじさんに聞いた。
「この夢を見てる人は…」
言い終わる前に、おじさんが縁側に向かって歩き出した。

いつの間にか、さっちゃんは部屋の中からいなくなっていて、お母さんだけが座っていた。さっちゃんのお母さんは、涙を拭いながら、ぐっと歯を食いしばって、何かに耐えていた。


「なっちゃん。」
「あ、てっちゃん…沙知子が…」
さっちゃんのお母さんは、ボロボロと泣き出した。

ん?なっちゃん?てっちゃん?

「てっちゃん、私、沙知子に、なんて言えば良かったの?私、みっちゃんが亡くなったって聞いて、みっちゃんのお母さんが電話口で取り乱してて、だから、私…沙知子があんな風に思ってたなんて…どうしよう…沙知子になんて話せば良かったの?」
「うん。そうだね。そうだよね。分からないよね。」
「沙知子は、沙知子は…」
「なっちゃん、ごめんね。ごめんね。」

さっちゃんのお母さんは、ふっと顔を上げた。
「どうしててっちゃんが謝るの?」
「僕が、もっと長生きできていれば、君たちの近くにいられたのに。そうすれば、こんな事をなっちゃん1人に背負わせる事も無かったんだ。沙知子に父親のいない寂しさを味合わせることもなかった。」

父親のいない寂しさ…そうか。おじさんは、さっちゃんのお父さんだったんだ。

雨が、強くなって来た。

もしかして、この夢って。


「なっちゃん。僕から、沙知子に話してみるよ。沙知子は?部屋にいる?」

おばさんは首を横に振った。


あ。私の足が動き出した。

でも、行き先はわかってる。雨は降っているのに、きれいな夕陽が出ている。さっちゃんはきっと、あそこに居る。


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足は、グングンと歩いていく。
今私の足が向かってるのは、きっとあの砂浜だと思った。
間違いない。この夢を見ている人の、思い出の場所。

家の前の坂を降り、車道に出たところで左に曲がって、港の方に向かって歩く。

間もなく右手側に砂浜が見えて来た。
「世界一夕陽がきれいな砂浜」だ。

砂浜を歩いてさっちゃんを探す。人影はすぐに見つかった…けど、そこに居たのは子供の姿のさっちゃんじゃなかった。居たのは、大人になった「ひなちゃんのお母さん」の方のさっちゃんだった。

「さっちゃん。」
私はちょっと迷って、そう声をかけた。
水平線の方を見ていたさっちゃんは、ちらっとこっちを見てすぐ向き直った。

「さっちゃん。お父さんとお母さんが探してるよ。」
さっちゃんは、コクリと頷くだけだった。


「本当は、わかってる。お母さんは、みっちゃんが私のせいで亡くなった、なんて思ってないって分かってる。自分が親になってみて、あの時のお母さんの動揺も、混乱もよく分かる。みっちゃんのお母さんが電話口で取り乱していて、お母さんはきっと何か言わなくちゃ、って。それでとっさに出て来た言葉なんだろうな、って、今はそう思う。」

私はただ頷いた。

「ふふっ。おかしいでしょ?もういい年をした大人なのに。」
「ううん。そんな事ない。さっちゃん。一緒に家に帰ろう。」

さっちゃんが、お父さんお母さんと3人で話せるチャンスはそう何度もないと思った。


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さっちゃんのお父さんとお母さんは、2人で縁側に座っていた。さっちゃんの顔が見えたとき、2人とも心からほっとしているように見えた。

「おかえり、沙知子。」
「ただいま。お父さん。」

そう言ったあと、さっちゃんは、お母さんの顔を見た。

「沙知子、ごめんね。お母さん、あのとき、何であんな事を言ったのか、今でも、今でも分からなくて。でも、本当にそんな風に思っているわけじゃないのよ。」
「うん。分かってる。思わず出ただけだって、分かってる。お母さんが、混乱して動揺してたんだって事も今なら分かる。ごめんね、お母さん。」
「あの時…2人で…一緒に泣けば、よかったね。あの時、ちゃんと一緒に…泣けばよかった。」


空を見上げると、雨はやんでいた。

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「小春ちゃん、スイカ切ったよ。」
「あ、うん。ありがとう。もうちょっとここにいる。」
「小春ちゃん、ほんとにここ、好きだね。」
「うん。ひなちゃんが、島に引っ越して行っちゃって、正直最初は寂しかったんだ。でもさ、思ったんだよね。これで、いつでもこの景色が見られるなぁ、って。」
「いつでも?ま、確かにね。家族でここに引っ越して来て以来、小春ちゃん、年に2回は来てるもんね。」

2人で顔を見合わせて、笑った。


「ね、今日のお祭り、金魚すくい行かない?」
「ひなちゃんがいいなら、私はいいけど。」
「私今年はね、新しい浴衣なんだ。見る?」
「うん。見たい。」
そう言ってひなちゃんは、隣の部屋に用意していた浴衣を持って来て広げた。

「あ!金魚の柄。それおばさん、知ってるの?」
「うん。お母さんに縫ってもらった。」
「そっか。そっか。うん、いいね。金魚すくい、行こう。」


「2人とも。スイカ、食べないの?」
「はーい。おばさん、いま行きまーす。」

 


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