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旅する「しずく」の夏休み

子供たちの歓声が、しずくの一粒一粒に飛び移りボクのレンズを濡らす。
ここはマンハッタン、ローアーイースト・庶民地区。
水滴はアスファルトに落ちて、そしてどこかへ消えた。
でも本当は水蒸気に変化しただけ。いつか雨になって戻って来るんだ。
雨が空から降るのは当たり前。そう思いがちだけど、考えれば考えるほど凄いことに思える。
大昔から地球上の水はリサイクルされていて、消えたしずくは今もどこかに在るんだ。ボクが今朝飲んだコップ一杯のレモン水は、恐竜が飲んだ水が巡り巡って再利用されているってコトなんだろう・・・。人がどんなに水を汚しても、雨になって戻って来る時にはキレイになってる。

命を支えるこの循環システムは、人間には不可侵の領域。おまけに目に見えない部分も多いから、水の旅を辿るのも、その有り難さに気づくのも、簡単ではない。けれど、空に浮かぶ雲を見る時、「おーい」と声を掛けることで、旅の途中のしずくにシンパシーを伝えたくなるのは、ボクだけではないはず。

つい先日。
夏真っ盛りの8月8日、カメラを持って歩いた日のコト。
昔ボブ・ディランが住んでいた界隈に差し掛かった時、ふと空を見上げた。
大きな積乱雲が仁王立ちして見栄を切っている。
「よー、待ってました!」
ニューヨーク   夏空 歌舞伎   オンステージ。
ボクは「おーい」と声を掛けた。
すると途端に遠い記憶が湧き上がってきて


夏といえば
西瓜喰らう時の
ガブリという至福

夏といえば
「ドーン」と響く音よりも
花火の残像 電光石火

夏といえば
向日葵 朝顔 紫露草
 押し花にして母が仕上げた
 ボクの宿題 

夏といえば
はっぴいえんどの「夏なんです」
細野晴臣  眠い声
THE BOOMと矢野顕子が唄ってる「釣りに行こう」の ハーモニカ
石川セリの「遠い海の記憶」が
無性に聴きたくなる日暮れ時

夏といえば
蚊取り線香とキンカンと
汗と涙の甲子園 
ラジオから聞こえてくるよ必死のブラバン

夏といえば
蝉にトンボに甲虫
はかない命よ
子供時代
虫かごの中のボクの無責任

夏といえば
松尾芭蕉のあの一句
五七五の小宇宙
「夏草や 兵どもが 夢の跡」


絵日記にも似たボクの思い出たちは
どこに行ってしまったのだろう


・・
いまごろは
 上昇気流に乗って・・・
 あの入道雲のてっぺんあたりで 
 のんびり昼寝なんかしているんじゃないかな
だって
およそ70%のボクは
水で出来ているのだし







「おーい  8月8日生まれの入道雲よー。
そこからなら ワシントン広場が 見えるだろう?
ちっぽけな ボクらも 見えるだろう?」





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