野球界の勝利
夢を見ているかのような期間だった。
侍ジャパンが優勝した瞬間のみではない。
では、どこからか?
決勝戦のプレイボール
村上宗隆選手の逆転サヨナラタイムリー
侍ジャパンがアメリカラウンドに進んだ瞬間
侍ジャパンの初戦の中国戦
WBC開幕戦のキューバVSオランダ
どれも素晴らしい瞬間だったが夢の始まりはダルビッシュ有投手の以下のツイート
日本人メジャーリーガーでは先に大谷翔平選手が参加を表明していたが、大谷選手が参加することに特に意外性は感じていなかった。
だが、ダルビッシュ投手の場合は、意外性があった。
2009年第二回大会以降、発言などを見ていてもう日の丸を背負って投げることはないと思っていた。
本人もそこまでの気持ちはなかったようだが、栗山監督の直接訪問や大谷翔平選手の後押しもあり、心が動き、参加を表明したようだ。
昨年ダルビッシュ投手は誰よりも試合を作り続け、シーズン194.2回ポストシーズン25回 計219.2回 10月後半まで投げ切った。
さらに、その時点では2023年は契約最終年。
WBCは観てる側は楽しいが、出場する選手にはリスクが伴う。
実際松坂大輔さんは2009年のWBC前に股関節を痛め、その場凌ぎのフォームで挑み、MVPを獲得するほど活躍したもののその後フォーム崩したまま戻せなくなり、キャリアの後半は非常に苦しんだ。
だから、嬉しい反面心配もあった。
ダルビッシュ有と大谷翔平。
日本人野球選手のツートップがNPBのトップクラスの選手と同じチームでプレイする姿は想像するだけでも夢のような話だと思っていた。
それが実現する可能性がダルビッシュ投手の参加表明により一気に高まった。
だから、それ以来今日の優勝の瞬間まで、日本の野球ファンとして、夢を見ているかのようなひとときだった。
前置きが長くなってしまったが今回のWBCの雑感を残しておきたいと思い、noteに記しておく。
1.大会の価値
よくサッカーW杯などと比較されて、WBCは悪く言われることがある。
訳知り顔の人が「メジャーが本気じゃない」とか「盛り上がってるのは日本人だけ」とか言ってる場面は幾度となく見た。
そのクソデカい「メジャー」は何を指しているのか
機構なのか、選手会なのか、出ている選手なのか、各球団なのかを明確に示した上で批判している人はあまり見たことがないし
「本当に日本人以外は盛り上がってないのか」を明確に示した人もあまり見たことがない
というのは一旦置いておいて、確かにワールドカップに比べるとまだまだな大会だ。
何故ならまだ5回しか開催されてない大会。
これから大きくしていけばいい話じゃないか、といつも思う。
実際、今大会は特に中南米を中心に大きな盛り上がりを見せたし、東京ドームで行われた準々決勝のオーストラリアVSキューバは平日かつ開催国でないチームのマッチアップにも関わらず3万5000人以上の観客数を記録した。
大会の価値は間違いなく、上がっている。
2.各国の野球のレベル
一番驚いたのはイギリスのピーターセン投手が100マイルを超える速球でアメリカの中軸をねじ伏せた場面。
マイナーリーグに所属している選手なのでイギリスのレベルに驚いた訳ではなく、特にプロスペクト扱いされてきた訳でもない28歳の無名な投手が100マイルを超える球でアレナド選手を捻じ伏せる姿には驚きを隠せなかった。
中国の王翔投手が出鱈目なフォームで140近い球速を連発した場面やチェコのパディサック投手というアメリカの大学に留学中の選手が150キロを連発した場面にも驚いたが特にプロスペクト扱いされてきた訳でもない28歳の無名な投手が100マイルを超える球を投げてMLBのトップクラスの打者たちを捻じ伏せる姿はインパクトがあったし、世界の広さを思い知らされた。
上のレベルで見ると、
確かに今大会、日本の投手力の良さは際立ったが、佐々木投手や山本投手、今永投手等NPBのトップレベルのスターターでもグループCやグループDの強豪チームの打線には二巡目三巡目以降簡単に捉えられそうな雰囲気があり、世界の野球のインフレ具合に恐ろしさすら感じた。
3.侍ジャパンの優勝について
誰もが自分の仕事を果たしたのが大きかったように思う。
「ホームでプールC、Dに比べてレベルが低いプールBなら勝って当然」
という意見もあるし、否定はしない。
だが、普段見慣れていない球速やフォームの投手や野手を相手にする難しさは歴代最高のヒットメーカーであるイチローさんが中国戦で通算1安打しか打てていないこと、国際試合に強い上原さんが中国戦でホームランを打たれていたこと、第3回大会のブラジル戦で7回までリードを許していたことなどを考慮すると多分にある。
勝ち切るのは難しい中、中国戦も韓国戦も重苦しい雰囲気を切り拓いたのは初の日系アメリカ人として日の丸を背負ったラーズ・ヌートバー選手のヒットや熱気、守備、走塁だったように思う。
30年近くあらゆるコンテンツの野球を観てきたが準決勝のメキシコ戦はその中でもトップクラスの試合だった。
あえて長く書く必要もないが、個人的なポイントとしては、メキシコの下位打線にヒットを一本も許さなかったこと。
攻守にノリに乗っていたアロザレーナ選手に最終回打席が回っていたら2,3点以上のビハインドで最後の攻撃を迎えなければいけなくなっていた可能性が高い。
そういう意味では源田選手の後方フライキャッチはすごく大きかったのかもしれない。
この試合は特に出場選手全員が自分の仕事を果たした。あの場面で吉田正尚選手に代走周東選手を出す采配も素晴らしかったし、周東選手のスピードには心底驚かされた。ヌートバー選手の選球眼、近藤選手の圧倒的なコンタクト力、大谷翔平選手の熱気とガイェゴス投手相手に先頭初球からいける思い切り、山田哲人選手の国際大会の強さを見せつける打撃守備、山川穂高選手の1点、失投以外は完璧だった佐々木投手、難しい場面で淡々と抑える山本由伸投手、テレス選手をあれだけ悔しがらせた湯浅投手のフォーク、コントロールに苦しみながらもきっちり下位打線で区切った大勢投手
まさに全員野球が詰まっていた。
そして、苦しんでいた村上宗隆選手の逆転サヨナラタイムリー
歴代のWBC全ての試合の中でも最高の場面になった。ほとんどの監督は3打席目の三振で代えていたと思う。使い続けるのも代えるのも勇気はいるが、この試合に関しては使い続ける方が難しかったように思う。
それが決勝戦のホームランにつながったのは間違いないし、1点差で優勝したことを考えるとあの決断が日本を優勝に導いたと言っても過言ではない。
栗山監督の勝利だ。
4.ダルビッシュ有投手について
ワールドベースボールクラシック2023は「大谷翔平の大谷翔平による大谷翔平のための大会」と後年語られてもおかしくない。
だが、やはりどこまでいってもダルビッシュ有投手が今大会を通して日本野球にもたらしたものはとてつもなく大きかったように思う。
「野球が全てじゃない。人生の方が大事。野球は楽しもう」
「戦争に行く訳じゃないんだから気負う必要はない」
「自分が自分にかける言葉は大事。自分に対してプラスの言葉をかけよう」
「結果が出ないとネガティヴな思考がどんどん出てくる。それをどう受け流すかはメンタルの強さ弱さではなく、スキル、技術。自分の声として聴いてるけどそれは自分の声ではなく、誰か悪い人が自分の声に似せて言ってきてるだけ。今に集中するだけ」
画面越しですら学べることがたくさんある。
仕事が全てじゃないし、気負う必要はない。
仕事を楽しむためには一生懸命今やるべきことに集中する。
自分のメンタルコーチは自分。一社会人に置き換えても非常に参考になる。
少し話が逸れたが、そんなダルビッシュ投手が春キャンプ初日から合流し、メディアの的になり結果的に若手の多い侍ジャパンを守り続け、一つのチームに仕上げた。
"宇田川会"の件でも
「1年前までは育成で、そこからいきなり侍ジャパン。それなのに、ここでも減量だとか、ボールがどうだとかと言われてしまう。それだとあまりにも一人の人間が背負うには大きすぎる。だからそれは嫌だった」とコメントを残しているが、"自分"が嫌だったというところがミソで、主体はあくまでもダルビッシュ投手自身というところに人間性の高さを感じる。
冒頭でも言及したが去年終盤まで投げきった上に早めに仕上げなければならない状況かつ、実戦不足も響き、MLBでの登板は全て先発をしてきた彼にとって中継ぎでの調整も非常に難しかったはず。
思うような姿では投げられなかったが、侍ジャパンの支柱は誰がなんと言おうと、ダルビッシュ有投手だった。
まずは今年健康なシーズンを送ってもらいたいし、例年以上に楽しみに彼の登板をチェックしたい。
そして、次回のWBCでも侍の一員として登板する彼の姿を見たい。
5.中日ファンとしてのWBC
中日ファンにとってWBCは、複雑な大会だ。
2006年は「生き返れ福留」があったし、最後を締めたのは大塚晶文さん
2009年は北京五輪の事件もあり、全選手が参加辞退。ファンとして肩身の狭い思いをしたが、こっちにも言い分はあるんだと思ったものだ。
2013年はもはや井端さんのための大会
2017年は心臓が止まるかと思ったオーストラリア戦の岡田投手の投球
そして、今回ー。
当落線上にいると思っていた髙橋宏斗投手が選出された。
ダルビッシュ投手にも大谷選手にも積極的に絡みにいくコミュ力にまず驚かされた。
投球としては、オーストラリア戦では真っ直ぐを運ばれるも、平均で日本人トップレベルを誇るストレートとゾーン内外自在に落とすスプリットで強豪国の打者を捩じ伏せた。
彼が高校2年生の時に球場に彼の登板を観に行ったが、当時からまっすぐの平均球速の高さは非凡だった。
連投でも回を重ねてもお構いなしに球場のスピードガンは140中盤〜後半を記録していた。
だが、まっすぐで空振りは取れないし、まっすぐならスピードが出ていても初見の下位打線でもわりとコンタクトされて前に飛ばされていた。
一冬越えて神宮大会で優勝。対戦した明徳義塾高校の馬淵監督には「松坂大輔以上のまっすぐ」と言わしめた。
コロナにより甲子園大会はなかったものの愛知県大会では圧巻だったし、交流試合では県大会の疲れがあり本調子ではない中智弁学園相手に延長10回を投げて完投勝利。
それから5年も経たないうちに世界最高の打者マイクトラウト選手と真っ向勝負し、156キロの真っ直ぐでファウルをとり、伝家の宝刀スプリットで空振り三振。
当時から今まで見たことのない成長スピードを感じていたし、それこそが髙橋宏斗の強みだと思っていたが、流石にここまでの成長曲線は想像していなかった。
今回の経験を糧に中日ドラゴンズで日本一を手にして、MLBで再びその名を轟かせてほしい。
(今度はブルペンの場所間違えずに、シャンパンファイトも参加しよう。)
井端さんはあの後半ば喧嘩別れのような形で巨人に移籍することになってしまったし、岡田投手はその後血行障害で苦しむことになった。
だからまだモヤモヤしていた中日ファンの方もいたと思うが、そんな複雑な心境を、髙橋宏斗投手が完全に晴らしてくれたように思う。
6.今後のWBC
開催時期、組合せなど、課題はまだまだ山積しているが、マイクトラウト選手もノーランアレナド選手もリアルミュート選手も今大会非常に熱いコメントを残してくれている。
ダルビッシュ投手や大谷投手は言わずもがな、ドミニカのアルカンタラ投手やメキシコのウリアス投手、ギリギリ辞退となってしまったがアメリカのカーショウ投手などMLBトップレベルの先発投手も誇りを持って参加する(しようとする)姿が見られるがアメリカの先発投手陣を見ると野手に比べるとまだまだオールスター級には及ばないのは事実としてある。
かつてブライスハーパー選手がオリンピックで大谷とマイク・トラウトが対戦したら凄くクールだと熱弁していたが、今大会まずは、それが最高の形で実現した。
次回は3年後。まずは各国のロースターを楽しみに、この大会を見守っていきたいと思う。
無駄に長いだけの雑感となってしまったがこの辺で。
今大会が盛り上がって、長年連絡とっていなかった友達から連絡が来たり、話題のタネになったりした。
野球が心を繋いでくれた。
メキシコの監督は言った。
「今夜は野球界の勝利だ。」と
野球ってやっぱいいなぁ