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エッセイ【野辺送りの葬列】

末っ子である父の実家は滋賀県にある小さな村。
小学生の頃、長期休みの時にお祖母ちゃんおじちゃんおばちゃん従兄姉たちのいる父の実家に、ひとりで何日も泊まらせてもらうのが楽しみだった。自然に囲まれた中で思いっきり自由に転げまわって遊んだ田舎での明るく楽しい思い出が沢山。

そんな大好きだった田舎だけど、父の子ども時代の話を聞くと、山で狐に化かされたとか川で亡くなった友達の幽霊に出会ったなど、ちょっと怖くて暗い話が多かった。だからか私の中では、楽しい思い出いっぱいの「お父さんの田舎」の明るさと、「お父さんが子どもの頃いた村」の暗さがあまり結びつかなかった。

高校生の時、お祖母ちゃんが亡くなった。
家族で東京から駆け付け、生まれて初めて出席した葬儀。亡くなった祖母の膝の骨を折り、胡坐座りにさせお棺に入れるということに衝撃を受けた。父の村では、遺体を横たえて納める寝棺で火葬するのではなく、遺体を胡坐座りにさせ納める座棺で土葬するのだ。死者の魂が出ていかないよう結界を貼った部屋で行う儀式、土葬墓地までの出棺の参列儀式。それらはまるで、横溝正史の金田一耕助が活躍する世界のようだった。まさに、ちょっと怖くて暗い「お父さんが子どもの頃いた村」。自分の中で「明るい田舎」と「暗い田舎」が結びついた日。そんなことを課題本『先祖探偵』を読みながら思い出した。でもあの儀式、土葬……私の記憶違いということはないだろうか?気になって土葬について調べたら『近江の土葬・野辺送り』(高橋繁行著)という最近出版された本を見つけた。

そこに書かれていたのは、祖母の葬儀で喪主を務めた父の兄(私の叔父)が村の古老として語ったという土葬・野辺送りの証言だった。数年前亡くなった叔父にはもう確認できなくなっていたあの日のことを、詳細に知ることができた。きっとこの本との縁を先祖がつないでくれたに違いない。

★エッセイの元になった課題本

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