今週の振り返りと来週の方針(景気後退初期/ディスインフレ加速) 2023/03/17

今週の振り返りと来週の展望を書いていきたい。
今週は数多くのイベントが起こった週だった。特に金融機関やクレジット周りでのニュースが多く、ヘッドラインで大きく振り回される週であった。しかし、根底にあるのはディスインフレーションと景気後退初期であると考えている。

今週の流れのおさらい

週末から月曜にかけ、SVBに加えてシグニチャー銀行の破綻が伝えられると、米当局は当初の方針を変更し、全預金が保護されること、金融機関向けの追加融資枠を設定する旨のニュースが出た。しかし月曜日に欧州時間が始まると金融不安と言えば本場は欧州だ、と言わんばかりに欧州金融株が大きく下落し、金利は急激に低下した。2年金利などはわずか3営業日で1%の下落となった。一方で米国時間に入ると債券が売られ、株には買いが入った。火曜はCPIの発表があった。が、予想通りということもありほぼ無視であり、基本的には全面的に月曜の巻き戻しが入っての株↑金利↑という流れであった。水曜になると今度はサウジ国立銀行がCSへの追加支援を否定したということを発端にCSを巡る懸念が加速し、株売り債券買いの反応が起こった。木曜日になるとスイス国立銀行が流動性供給を行うことが発表された。加えて、SVB後に経営不安が囁かれていたファースト・リパブリック・バンクに対し、米大手銀行が共同で300億ドル程の預金する支援が行われることが報道され、信用不安が大きく後退、株買い債券売りの反応となった。

週間を通して言えば、1)欧州時間に債券買い株売りが入り、米国時間にその巻き戻しが入る、2)景気後退懸念と金利低下の狭間で、景気敏感株、中小型株が売られる一方、大型テックに買いが入る、というのが傾向となった。

SBVの破綻とその後の対応について(+CSも少し)

今週のトピックとしては、まずは金融機関を巡るアレコレだろう。先週書いた通り、SBVの破綻の引き金は預金引き出しであった。シグニチャー銀行にも問題が波及した時点で預金の全額保護と、流動性供給枠が設定されたのは正しい対応だっただろう。しかしそれでも預金の移動を止めることは困難だった。個人だろうが法人だろうが、メインの預金口座を移動するのは極めて簡単なことである。念のため移しておこうと考えるのを止めるのは容易なことではない。その点、米大手銀連団による預金の「還付」は大きな安心感を与える材料であったろう。さて、では根本的にこの一連の騒動がどういう効果があるのか?流動性供給は事実上のステルスQEであったという意見もある。実際、Global Liquidity Indicatorも今週上昇しており、FEDのバランスシートでもQTの巻き戻しが確認されることから、これには一理あるだろう。しかし、銀行の融資への姿勢や景況感への影響、規制の強化等総合して考えれば、全体として中期的に景気支援的/インフレーショナリーな効果になるとは思えない。なにより、FEDは今回の流動性供給を「引き締めを続けるため」に行っているのである。総じて言えば、中期-長期的には景気引締的/デフレーショナリーな効果が強いと判断している。CSの件は基本的にはSVBのようなファンダメンタルな時柄があるわけではなく、事実無根、パニックからの八つ当たり的な話である。こういう地合いになれば弱いところから狙われるというだけの話であり、特筆するようなことは特に無い。

景況感/インフレについて

金融を巡るパニックによって完全に隠れてしまっていたが、今週は景況感/インフレに関する指標が多く出た。CPIは予想通りに総合6.0%、コア5.5%。PPIは大きく下ぶれ、総合4.6%、コア4.4%。Indeed求人数は引き続き年初来の急速な減少ペースを維持。NY連銀製造業景況感指数、フィラデルフィア連銀製造業景況感指数は大きく下ぶれ、ISM製造業の落ち込みを示唆。新規失業保険は予想よりも強く、失業の増加は今週は確認されなかったものの、フィラデルフィア連銀製造業景況感指数の雇用指数は年末寒波での落ち込み→年初にリバウンドから再び下落し、底抜けした。まだ年初のリバウンドの緩い戻しの域を抜けていないため見ていく必要があるが、クレジットカード売上も引き続き下落を続け、小売も下振れした。ミシガンの期待インフレ率も低下した。全般的に言えば、景況感の悪化及びディスインフレは年初からの踊り場を抜け、再度加速したと見てよいだろう。クリーブランド連銀のInflation Nowcastingでは3月のCPIは総合が5.22%、コアが5.66%とされている。PPIがCPIに先行することも考えれば、4月のCPIは4%台に突入する可能性が高いだろう。5月に4月のCPIが発表された際には、4月の時点で政策金利がCPIを上回っていたことが明らかになろう。以前、「2月-3月前半は強い指標が連発する」と書いていたが、逆に「4月-5月前半は弱い指標が連発する」可能性が高い。注意しておきたいのは、「景況感悪化は順調に進んでいる」ということは、逆に言えば「景気が悪くなれば破綻・破産する企業が増える」という当たり前のことが引き続き起こっていくということであり、SVBが大丈夫だから、CSが大丈夫だから、だからおしまい!ということでは無いということである。SVBのようにファンダメンタルに問題を抱え、破産に追い込まれる会社も、CSのように八つ当たり気味にとばっちりをくらう会社もまだまだ出てくるだろう。

ECBの決定について

ECBは50BPS利上げした。金融状況については注視しており必要があればあらゆる対応を講じるとしつつ、将来の利上げについてはデータ次第を通した。今回のECB会合は、あくまでも状況は「Business as usual」であると印象付けつつ、市場からの過度な反応を避ける、非常に巧みな手綱さばきであったと思っている。同日にその後米大手銀連団によるファースト・リパブリック・バンクに対する預金還付が報道されたため、直接的な市場からの反応は観測し辛いが、概ね安堵といったところだったのではないか。この決定と反応は、後述する来週のFOMCを考えるにあたり、参考となる。

来週のFOMCについて

政策金利について、来週のFOMCは25BPS利上げ織り込みが大勢となっている。自分の見立ても以前から書いていた通り25BPSであり、変更はない。パウエル議長議会証言後の50BPS織り込みも、SVB騒動での利上げ停止織り込みも、どちらもノイズであった可能性は高いであろう。その先の織り込みについては、現在は年内に100BPS程度の利下げが行われることが織り込まれている。先述した通り、FED含めた当局は利上げを継続するためにSVBの騒動において信用不安が拡大するのを防いだのであり、その逆ではない。足元の景況感も、悪化しているとはいえ利下げ織り込みを正当化するほどではない。もっと言えば、FEDが利下げをするのは多くの場合不測の事態が起こり、緊急的にスタートするものであり、今回の利下げ織り込みを支持するようなドッツが出る可能性は極めて低いと考える。現在まだ少量とはいえ織り込まれている来週FOMCでの利上げ停止織り込みが巻き戻される分も含め、声明文が出た段階では短期を中心に金利が上昇し、株は下落となる可能性が高いと考えている。一方で、その反応は短い間で終わり、長期債と株はすぐに買い戻されるのではないかとも思っている。理由はいくつかある。1)そもそも、去年から今まで、FEDが利下げを支持したことなど一度もない。市場はFEDの言葉ではなく、状況とデータに応じ、独自に利下げを織り込んできた。FEDのドッツと一致していないというだけで、利下げ織り込みがどこまで剥がれるかは疑問が残る。2)パウエル議長議会証言の際に50BPSが織り込まれた。その際に何が起こったかというと、長期金利は一瞬上昇したものの、すぐに買い戻され、結局むしろ低下した。短期の政策金利の上昇が長期金利の上昇に繋がるかは、短期金利の上昇という直接的な効果と、短期での金利上昇による長期的な経済/インフレ見通しの低下とのバランスで決まる。現在は必ずしも政策金利の目先の上昇/高め維持が長期金利の上昇に結びつかない可能性がある。3)おそらく、ECBと同様、会見では金融市場に注視しつつ、データ次第という話を貫く可能性が高いと思われる。ECB後の反応を見ても、むしろ現在は利上げ出来る状況であるとFEDが判断している、つまり緊急事態ではないということに市場が安堵し、安定する可能性がある。1)は金利株共に支援的であり、2)は長期金利、3)は株にそれぞれ支援的な材料となる。

自分の動きについて

今週は長期債のロングを持って入った週であったが、週初から見ているだけの時間帯が続いた。振り返れば、月曜日にパニック的に金利が低下したタイミングでは一旦利確をした方が良かったであろう。そもそも、週末にかけて預金保護が発表される中で、月曜日にあれだけパニック的な反応が起こることを予想していなかったのが甘かった。加えて、短期金利の急落と利下げ織り込みが長期金利に必ずしも支援的ではないという頭があったため、利確をためらってしまったことも明らかに強欲が過ぎていたと言えよう。結局金曜日のミシガンが発表されたタイミングで利確を行い、概ね4.0%で買った債券を3.5%のところで売る事となった。利確を行ったのは、前述の通り、FOMCにかけて一度は利下げ織り込みが剥がれ、短期的にまた金利が上がるタイミングがあるのではないかと思っているからである。一方で、全般的な景気後退/ディスインフレの進展を見る限り、2年金利の5%や長期金利の4%は言うに及ばず、今年ノーランディングが囃し立てられていたころの水準さえ戻る可能性は低いのではないかと思っている。前述の通り、ここからは弱い経済指標が相次ぐと見ている。FOMCで利下げ織り込みが剥がれることにより金利が上昇するなら、そこは押し目買い目線でいたい。株については、引き続き見ているだけの予定である。今週も、ヘッドライン相場ということもあり、一度も株を触りたいと思う場面はなかった。そもそも現在はディスインフレによる金利低下と景気後退が混じり合っていて、方向感が見通しにくい。値頃的にも3900-4000あたりと中途半端である。ここから先は徐々に景気悪化の方が話題として強くなってくるであろうこと、SVBやCSのような、突発的な下げイベントが起こる可能性は今後もあることを踏まえると、高値に上がってくればショートで入ることも考えてみたいが、今の値段帯では動く気にはならない。株買いは基本的に選択肢にない。結局、来週はノーポジでFOMCを迎え、金利が上昇する局面があれば債券買いに手をだす程度だろう。

追記:UBSとクレディスイスについて

スイス当局が主導で週末にUBSがCSを30億ドルで買収した。先週SNBが流動性を提供することを表明しておきながら、その後すぐのこの対応である。そもそも交渉相手をUBSのみに絞り、Due Dilligenceも当然する時間はない状況で、目一杯ディスカウントをされるのは当然と言える。まともな値付けなどなされるわけはない。法制度上も事後的に法律を変更するという、無理筋に近いような対応をしている。また、テクニカルに可能性としてはあり得たものの、多くの人が想定しなかったであろう「劣後債は全損しながら株は価値を一定程度維持」という事態を引き起こしており、劣後債市場へはかなりのインパクトがあると想定される。そもそも、CSはCET1比率14%超、流動性比率も140%超であり、破綻からは程遠い状態にあったはずだ。だからこそ、自分も「CSの話は事実無根、八つ当たりのようなもの」と上述していた。従って、基本的にはスイス国立銀行が後ろにつき、流動性さえ提供していれば問題はなかったはずだ。もちろんそもそもCSの経営基盤は脆弱なので、合併・買収の話が出る事自体は不自然では無いが、それにしてももっと時間をかけ、筋の悪くないやり方が出来たはずだ。その中でこのような「超緊急事態」的対応がなされる、それほど当局が焦っていたというのは、何か奇妙である。明らかになっていない何らかの事情があったのだろうかと勘繰らざるを得ない。「財務報告の内部統制に重大な欠陥が存在した」という報道があったが、それが関係するのだろうか?何より、仮に何らかの事情があった場合、それはCS固有の問題なのだろうか?それとも他の銀行にも起こりうる問題なのか?また、UBSとの合併で完全に解消されるのだろうか?いずれにせよ、不可思議なほどのスピード感で事態は進んだ。何故そういったスピード感が必要だったのか、納得のいく説明が出て来ない限り、これを好感する気にはあまりなれないというのが今の感覚だ。

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