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ゴーン氏逮捕で会計士に責任はあったのか?

こんばんは。昨日、日産自動車のカルロス・ゴーン氏が有価証券報告書の役員報酬を虚偽記載した疑いで、逮捕されましたね。

今日はみなさんそのニュースで1日持ちきりだったのではないでしょうか。

僕も、そんなことなんてあるのか...? なんて不思議に思っていたら、

Twitterで気になる呟きがありました。

おおお、まじか。

めっちゃ公認会計士叩かれてる...! 


昨日、日産の西川社長が内部通報をきっかけに、検索当局と協力して社内調査を進めてきたことを会見で話されていました。

東京地検によれば、2011年3月期から2015年3月期の5年間で、50億円の役員報酬を過少計上したという疑いが持たれています。

そこで、事実は当局が調査するとして、少ない情報の中で正確なことは言えないのですが、ここではフリーランスの会計士として、本件における監査法人勤務の会計士の責任について、僕の意見を述べたいと思います。(あくまで一個人の意見です)


会計士の責任を追及する世論の声は主にこの2つかなと。

① 財務諸表に記載している役員報酬の過少計上を見抜けという意見

② 経営者の不正行為を見抜けという意見


僕個人の結論を言うと、①②ともに公認会計士の業務や責任の範囲を大幅に超えており、今回会計士が当問題を発見することはほぼ不可能だったと思います。


まず、①に関しては、リスクアプローチという観点と、役員報酬という取引の性質の2点から限りなく不可能に近いと考えます。

・リスクアプローチという観点

一般的に会計監査は、リスクが高い取引項目を重点的にチェックするのですが、そのリスクについては定量的・定性的に測定を行います。

そこで、2015年3月期の有価証券報告書を見ると、p.49にてゴーン氏の役員報酬は10億35千万円だったと記載されています。

同期の、日産グループの売上高は11兆3752億円、当期純利益は4576億円です。そのため、報酬の占める割合は、それぞれ0.01%、0.2%

一般的に、役員報酬自体は経営者に関わる取引ですので、定性的にリスクは高く見積もられますが、これだけ売上高や利益に影響を及ぼさない場合、通常、財務諸表に与える影響は軽微と考えられます。

そのため、期限が決められている監査手続の中で、他に重点的に監査すべき項目、例えば売上取引や、仕入取引にリソースが割かれてしまう以上、役員報酬のチェックが限定的になってしまうのはやむを得ないと考えます。


・役員報酬という取引の性質

また、役員報酬には、現金で支払われるもの以外にも、資産や権利を無償・低額で譲渡した場合には、報酬に含まれる可能性があります

今回問題となっている役員報酬の過少計上の場合、本当はもっと物や権利をゴーン氏に譲渡していた可能性があったにも関わらず、少ない金額で財務諸表に計上されていたという話になります。

その場合、”資産や権利を無償・低額で譲渡したこと”を立証しなければならないので、これは取引の性質上、かなり検証が難しいと言えます。(厳密にやるとするならば、会社の資産の権利関係を全部把握したり、海外にあるゴーン氏の資産を直接見にいく等の手続きが必要になってしまいます...)

そのため、取引の性質上、会計士が出来ることは限りがあります


② 経営者の不正行為を見抜けという意見

これについては、そもそも会計士の仕事ではありません

そんなことを言うと、”高い監査報酬を支払ってるんだから、その分会計士が全部チェックしろ!”と企業人の方から叱られそうですが、会計士も生身の人間で、期日までに監査意見を表明しなければならない以上、活用出来るリソースに限界があります

そのため、会計士の仕事は、「財務諸表を一定のルールに基づいて検証し、重要な虚偽表示の有無について意見を述べること」となっています。言い換えると、責任の対象は財務諸表という決算数字のチェックのみであり、役員や従業員の行為のチェック自体には、何の責任も持たない、というルールが決まっています(それを監督するのは、内部監査役で、今回は適切に内部でチェックされていたからこそ、内部告発があったようですね)


ということで、つらつら仕事の合間に書いてみたのですが、

個人的な結論としては、①②の意見から、公認会計士や監査法人の責任はほとんど問われないという形になるんじゃないかなと思っています。


これから、会計士業界も採用シーズンですし、あんまり無理難題な責任を監査法人が押し付けられてしまうと、監査法人で働く会計士がどんどん疲弊してしまうので、そんなことにはなって欲しくないなあと願うばかりです。

2018. 11. 20


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