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アクティビストと国会前のデモ隊

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なんかガラ悪そうなイメージ

PE業界に出入りしていると、アクティビストの存在を感じることがたまにある。投資検討先にアクティビストが入って株価つり上がってとか、コンサル時代のクライアントがアクティビストに悩まされて〜のように実体験ではないのだが、「この会社は過去にアクティビストに入られてファンドはトラウマなんです(PEとアクティビストは違うのだが・・)」とか、後はまあ例のT芝の話とか

基本的にはガラが悪そうなイメージの人々である。金の亡者、事業や会社の未来を考えない、等々。日本は言わずもがな、保守的なヨーロッパでもイメージは悪いようだし、本家アメリカでもやっぱりネガティブなイメージを持つ人は多い模様

自身も割とそういう表面的な知識でなるべく関わりたくないなあと思っていたのだけど、マジョリティを取りに行くPEファンドと違って少数(大抵は10%未満。5%未満のケースも)の株式しか取得しないのに影響力強そうなのはどういう仕組みなのか??と疑問に思い少し勉強してみたので、備忘として書く。業界を熟知したわけではないので悪しからず。主に↓の受け売りです

なぜ5-10%の株式で発言力があるのか?

なにかマジックがあるわけではない。(少数)株式を持ってること自体だけだとできることはそんななく、

(i) 経営陣と面談して提案する/プレッシャーかける 
(ii) 世間に対してレポートとかを発行して外堀を埋めてく など

結構間接的である。個人的には国会の前でやってるデモ隊みたいなもんだと理解した。彼ら自身だけでは影響力ないんだけど、他の人たち(株主)をそそのかして、「これやったろーぜ!!」って扇動してくキャラの人たち。まぁデモ隊よりももっと業界・対象会社の理解はきちんとしているだろうし、アプローチとしても「大声を出す」というよりもじわじわ外堀埋めてくので大人だなとは思う

表立ってるアクティビストはガラ悪そうなんだけど、結局他の株主も巻き込まないと発言力はないので、結局は他の株主も含めた総意ということになる

意外とこういうアクティビスト(ファンド)に対してお金出してるのは、(非常に見栄えの良い)大学の運用部門(ハーバード大学とか)だったり、年金基金(カリフォルニア州職員退職年金基金など)とかだったする。ジャイアンが叫んでるんだけど、実は出来杉君も激推してるのである。こういう見栄えの良い人達も、純粋に運用益を出す必要があるので、リターンの良いアクティビストファンドに出資は普通にしたりするわけだ。そういう人たちが大企業自体の株も持ってたりするので、自身が出資しているアクティビストファンドの叫びのサポーターになったりする

なお、こういう、口には出さないんだけど裏ではけしかけてるのはなんとなく日本の国民性にあっている気がしたが、実際それはデータでも裏付けられている。米国ではアクティビストを支持する投資家は55%であるのに対し、日本は8割*という調査データもある(BCG, 2019)。まあ村上ファンドのトラウマかなのか、皆表立ってやんややんや言いたくないが、裏では企業のガバナンスに課題感を感じており、「やったれやったれ!」と思ってるわけだ

*すべてが日本人というわけではなく、日本企業に投資する内外の投資家

実際どうやってプレッシャーかけてくか

 実際にできることといえば、株主総会における株主提案。そこで、

(a) 具体的な施策の提案(例えば、配当をしろとかこの事業売れとか)  
(b) 取締役の推薦

 などを行う。実際には(a)と(b)の合わせ技が多くて、まず(a)をやって、穏便に行けばそれで影響力を及ぼして、あんまり動かない感じだとやや強制的に(b)の取締役会に人を送り込む方向に行く。取締役会に人を送る際には、アクティビストファンドが探してきた第三者のこともあるし、自分自身を推薦することもある

結局、取締役会に人を遅れたとしても過半数をとれることなどなく(まあ10%未満なので当然だけど)、10人中1人とかなので、間接的ではある。だけど、↑に書いたように多くの株主のバックアップを受けてたりするし、他の取締役も自分がクビになる可能性が高まるので、結構(本場のアメリカでは)意見が通ったりするようだ

実際の例

例えば製薬企業だと、例えば過去にアラガンがアクティビストと結託した製薬会社(Variant Pharmaceuticals)に狙われた例がある。バリアントという、ロールアップ(同類企業の連続的なM&A)で成長してきた会社がアラガンを買いたがったんだけどアラガンが拒否して、それにキレたバリアントがアクティビストと結託して株を買い増して、おい買収受けろやーいみたいなことをした(結局、すったもんだしたけど過半数の株主の賛成得られず失敗)

あとは、Yahoo(アメリカの)がパッとしないから会社の事業・資産をバラバラに売って(Yahoo Japanの持ち分とか)現金化して株主に還元させたり(結局米国Yahooはズタズタに)、Microsoftの前社長(スティーブ・バルマー)がイケてなくてクビにして新しい社長(今のインド人)に変えることを扇動した例もある

結局悪い人たちなのか

「金の亡者」と言われても仕方ないことはしているので(例えばアラガンの場合、研究開発費を90%削って株主に還元しろとか)、批判の対象にはいつもなる。一方で例えば暴走する経営陣を止める役割を果たし、プラスの影響を及ぼしてきた事例もある。マイクロソフトなどでは、晩年には血迷ってノキアの携帯電話事業を7,000億円で買収した[なお、翌年7,000人のクビ切って全減損]スティーブ・バルマーを切って、サティア・ナデラに変えてクラウドに踏み切った過程に一役買っている。その後の株価はご案内の通り

経済がたるんできたときの起爆剤みたいなもんで、必要悪とも言える。必要なときもあるし、ただただ強欲なこともある。ただ、上記のように間接的ではあるからこそ、公開情報や面談から得られる情報をめちゃくちゃ読み込んで、レポートであったり改革のための戦略を考える。アメリカのOlive Gardenというイタリアンレストラン(サイゼというか、カプリチョーザみたいなもん)では、アクティビストファンドが200ページのレポートの中で「パンの食べ放題が原価を圧迫してるから都度出す(パンを)スタイルにしろ」という提言した例もある

個人的には、日本においてはもっともっと盛んになったほうが良いと思っている。今年の株主総会の結果を見ても、たしかに東芝ではひと悶着あったけど、それくらい(ちなみにアメリカでは2010-15年の間、1500件の株主提案のうち約500件が承認されている)。「アクティビスト」って言うとネガティブな感じだけど、普通にファイナンスの教科書通りのことを言っていたり、普通におかしいでしょ(関連会社からの天下りやめろとか)てこと指摘してたりするので、もっともっとやれって思う

PEファンドならマジョリティとれるからぐいっと変えれるとは思うが、投資に至るまでの道が(特にラージキャップは)遠い。いわゆる日本を代表する大企業の中枢の人と話してても、結局株式市場なんか全く気にしてなくて保身が多い。それならば。上場株の売買なのでより機動性が高く、そして過大に恐れられてるアクティビストファンドのほうが実は影響力及ぼせるのでは(そして余地もたくさんある)、と希望も抱いた。でも直近の株主総会の結果見ても結局否決されちゃったものが多くて、なんか日本は結局かわんねーなとがっかりはしてる


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