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短文学集

25
筋も思想も体系も、全部気にせず楽しむことを短文学と称して日々の感傷を綴る。
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2021年9月の記事一覧

落果の汀

落果の汀

風は湖面を滑る時のような冷たさで、私を一巻きして過ぎていった。
その目指す先の彼方で、夕陽が今にも沈もうとしている。
薄雲の張った西の空に、艶のない黒が押し寄せている。
わずかに残った空色が、雲と夜と橙色で滲んでいた。
それは黒い大地の片隅の、小さく澱んだ池のように見えた。
せっかくの夕陽は、その澱みに落ちて濁ってしまう。
濁りの膜の向こう側で、辛うじて輪郭を保っていた。
落ちた果実が、水際でふや

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