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恐れてることの8割くらいは自動ドア説

「はじめてのおつかい」が好きで、みるたびにボロボロと泣いていた。『STAND BY ME ドラえもん』とか、御涙頂戴系の映画をみても瞳カラッカラな僕が、である。

そんな僕が、数あるおつかいのなかでも、ひときわ印象に残っている回がある。

それは、ある女の子と、自動ドアの話だ。


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ある女の子が、おつかいにでかける。なにを買ってくることになってたのかは忘れてしまったけど、四苦八苦しながらお店の扉の前まできた。

が、女の子は一歩がふみだせない。とにかく不安でたまらない、という顔で、あたりを見まわしたり、うつむいたりしている。

その子にとってその扉は、登山家にとってのエベレスト、ケイン・コスギにとっての25段のモンスター・ボックスのように、おそるべき威容をもって立ちはだかる壁なんだろう。一歩をふみだせば、もうそれまでの自分に後戻りはできない。とんでもない恐怖の底に突き落とされるかもしれないのだ。

けれど、彼女は意を決した。口をむんずととじて、えい!とちいさな一歩を踏み出す。

すると扉は、ウィーン、とあいた。難攻不落の壁に思えた扉は、自動ドアだったのだ。

たぶん、他の人にとってはとるに足らないシーンだ。だけど僕は、どうしようもなくその子の姿に胸を打たれてしまったのである。


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やってみたらなんてことないんだけど、やるまでめっちゃこわいことがある。

たとえば僕にとって、メールを開くこと。取材させてもらった方に、確認のために原稿を送って、その返事がきたときなんか、もうマジでめっちゃこわい。

「あ〜どうしよう、失礼な表現があって怒らせちゃったか?それとも文章がビミョウで修正だらけか?あ〜どうしようどうしよう…」

てなぐあいに、ビビりまくってメールを開けず、しばらく寝かせてしまう僕がいる。

数十分とか、長い時は1時間以上たって、ちょっとお茶とか散歩したりして気を紛らわせたあと、あんまり放置するわけにもいかないしなぁ、ということで、ノールックでエンターボタンをばちこーん!と押して、おそるおそる文面をみることになる。

すると、たいてい「いい原稿ありがとうございます!」と、感謝の言葉が書いてあるのだ。

その言葉を見て、いつも思う。あ〜、また自動ドアだったわ、と。


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ビビりの僕にとって、恐れてることの8割くらいは自動ドアだ。

誰かに伝えづらいことを伝えること、入りづらいお店に入ること、やったことない仕事に挑戦すること、etc…。それらはだいたい、みずから1歩ふみだせば、むこうからひらいてくれる。

胃に穴が開くくらい悩んだことが、えいやと踏み出してみたら「え、こんな簡単なことだったの!?」と拍子抜けしたことが何度あるだろう。逆に、めっちゃ好きだった人に想いを伝えられず、「なんであのとき告白してくれなかったの?私も好きだったのに」と言われ、枕を濡らした夜が何度あっただろう。

なので最近では、メール開くとき「これは自動ドア!これは自動ドア!」と念仏のように唱えるようになった。実は今日も、念仏を唱えた。あの「はじめてのおつかい」でみた女の子の勇姿を脳裏にうかべながら。

で、おそるおそるメールをひらいてみた。そこには、「とってもいい記事でした。ありがとう」という一言があった。

自動ドアのさきには、ちょっとしたご褒美が待ってたりするのだ。

サポートがきましたって通知、ドキドキします。