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同期会の夜によくあるいくつかのマチガイ 2

俊太はフリーランスのイラストレーターだ。仕事関係からその行方を探そうにもオレたちのだれも彼の仕事関係の友人などは知らなかった。
同期会のwebで緊急招集を呼びかけてみた。地味なやつだと思っていたが、駿太はあれで人望のある男だったらしい。身近にいたというのに、いやむしろ身近だからこそ気づきにくなったということかもしれない。ともかくその日、会場の居酒屋に集まったのは17人。女性も5人ほど来てくれた。

「そういえばイラストレーターってことは知ってたけど、どんな仕事をしてたかは知らなかったよな」

「金には困ってなかったぞ」

「最近じゃレンポジや生成aiばかりで仕事が減ったとか」

「でも毎日飲み歩いてたしな。海外だってしょっちゅうだろ」

「海外は出張とか、ロケハンとかじゃないの」

「イラストレーターって居職だろ。海外出張なんてあるのか」

「女は、あいつ女はいなかったのか」
確かに俊太から女性関係の話が出た記憶はない。高校時代まで遡ってもその関係の話はなかったように思っている。といってゲイというわけでもなかったような。

「いたよ」部屋の一番奥、暗がりになったスペースから声がかかった。寝てるとばかり思っていた吉池だ。

どうしてこいつが知ってるんだろ。だってお前は俊太とクラスも違えば部活だって違う。しかもブラバンの俊太と相撲部の吉池じゃ接点なんかないだろうに。偏見か。偏見ですか。そもそも仲間内の集まりになぜ吉池がいるんだ。

「確かにいた。というかオレが愛のキューピッドってやつかな」

顔だけなら美少年系のアイドル。ただし痩せていればの話だが。クリームコロッケに羽根が生えたような体型の天使を想像してみた。ウエスト120センチ、体重120キロ。天使ってぽっちゃり系だから成長すると…あぁそうね。意外とあるかもしれないな。妙に納得している俺がいた。

「オレと駿太、いや伊勢坂は塾で一緒でね。であいつは御神町、オレは黒牛丘だから、千沢の駅までは帰りが一緒なのね。で小学校時代は結構話してたってこと」

「あいつ実家は和歌山だろ」

「あぁそれね、おふくろさんのだから。4年生のときだったかな。引っ越してったの」

「親の転勤とかじゃないのね」

「そうよくある話だけど。お定まりの親の性格の不一致という」

お~お人に歴史あり。とんだ所へ北村大膳。んっ用法がちょっと違うか。小学校で転校して偶然にも高校で再会ってことか。世の中は意外と狭いんだな。

それにしても吉池も駿太も今までそんな話はしたことがなかったのはどういうわけだろう。吉池の態度がいかにも居心地の悪そうなそれに変わった。多分、周りからの訝しげな視線の一斉集中に気づいたんだろう。

「駿太って潔癖症っぽかったよね」あぁ確かに、無精髭はともかく、清潔とは程遠い吉池と駿太か。一緒にいるところを見たこともないな。

「変だと思うぞ」

「なんか隠してるっぽい」

「キューピッドのくだりはやりすぎだろう」

「そんな話始めて聞いたな。どういうこったい」

視線どころか追求の一斉口撃。そうそれに今の今まで黙っておいて、なぜこのタイミングでカミングアウトする。そもそも駿太から吉池の話なんか聞いたことがない。

「そうだな、やっぱり不自然だよな。いいよ説明するよ」意外にも吉池はあっさりとその理由を語りだした。

「俺の方が先なんだ」

「??? 」頭の中にこんな記号が浮かんだ。意味がわからなかった。周りを見た。みんなも何を言っているのかわからないようだ。

「頼むからさ、オレたちにもわかるように説明してくれないか」

「だから、オレが先だったんだって」

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