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いっそネコならよかったのに  2

「変だな」
「何がですか?」
「いや気にするな」

“おかえりなさい”ツカサはさっき確かにそういった。生まれてから今日まで、今回を抜きにしてこのマチに住んでいたことはもちろん、友人、知人すらいない。

第一公務員になったというツカサの言葉が本当だとは思えない。そもそもオレもそうだが、ヤツのテリトリーは世田谷区から新宿、渋谷、目黒界隈で、ここじゃない。やつの言う公務員ネットワークはウソだろう。ということは、オレとツカサ、そしてオレのことがキライな誰かさんをつなぐミッシングリンクはなんだろう。今この場でツカサに迫っても、今の様子だとこれ以上の情報は得られないだろう。違う方向からいってみよう。

「なぁツカサ。当たり前のことを聞くけど、オレの知ってるやつなんだろ。それにしても3ヶ月ってなんだ」
ツカサはちょっとこまったような顔になった。

「おかしいですよね。ホントの話。どう考えたってアンタが納得する訳はないのにね。それを見越してオレにこんな役を」

「やっとお前らしくなったじゃないか」そうだ、その俺様ぶり。それでこそツカサだ。

「ここまできたらクライアントはだれだか、教えて欲しいもんだ」

「さすがに、そこまで恥知らずってわけには行きませんよ。センパイ」
自分のことはわかっていないのかなとも思ったが。これはツカサなりの美意識というやつなのだろう。

「お前ほどの恥知らずはいないと思うが、見解の相違かな。で、オレはどうしたらいいんだ。いやどうしてほしいんだ。今日は機嫌がいいんだ。聞いてやるよ本音でな」

100人女がいたら99人までは騙せそうな笑顔を浮かべると、ツカサはこういった。「ですよねセンパイ。とりあえず用意しときましたんで、今日はこれを持ってお帰りください。詳細は後ほどメールで」

「お前さ、オレがいまでもあの頃のアドレスを使ってると思ってるの」

「◯◯◯◯@××srb◯.comですよね」確かにオレのサブメールだ。こいつどういう。
「その程度のスキルはあるってことですよ」いうなりオレの手に革製のバックパックを押し付けると振り返ることもなく立ち去った。

一瞬追いかけようかと思った。だが、追いかけて問いただしたとしてもツカサが応じるはずはない。ヤツがメールアドレスを口にしたということは、連絡するつもりがあるということだ。バッグの中身は分からないが、オレの勘はいまここで開けるべきではないと伝えていた。

少しだけハイになっていた気分はすでにどこかにいってしまった。いままでの流れから考えると思いもよらぬ監視がついているようだ。用心しておいたほうがいいだろう。とりあえずは部屋に戻るか。当然盗聴器とか、監視用の機器なんかも設置されている可能性がある。

だがそっちの方はさほど心配はしていない。オレにだって困ったときに助けてくれるネットワークはある。

とりあえずできることは、ツカサの依頼者だが、どう考えても思い当たらない。そいつは、オレがこのマチに越してきたとたんに行動を起こした。そしてその事実を隠そうとしてはいない。これは多分やんわりとした警告なのだろう。キーはオレとソイツとツカサ。そして、そしてソイツはオレがこのマチにいることを快く思っていない。手持ちのカードだけで、勝てるゲームではなさそうだ。
オレの行動が漏れたとしたらどこからだろう。

すべてを偶然と考えるほど楽観的な状況ではないはずだ。いやそもそもいつからオレの行動はチェックされていたと言うんだ。いまのところ、危ない組織と敵対関係になったことはないし、非合法の薬物や同じく非合法のもろもろに手を出した覚えもない。

だが、ツカサにプレッシャーをかけたからには、少なくともかなり以前からオレという存在を認知していたはずだ。根が深いな。
転出届は昨日行ったばかりだ。そして転入届が今日。そのタイミングで、特定した個人の引越情報を入手するなどそう簡単にいくわけがない。だれかがオレの行動をチェックしている。だれだ。

不動産屋・・・。考えられるキーはそれしかなかった。不動産屋の守秘義務をどこまで信用すべきなのだろう。レインズに個人情報、それもオレという人間を特定して検索できるなんてことがあるだろうか。そもそもあれは売買を対象としたもので賃貸契約とは関係がないだろう。

引っ越しの話を誰かにしたか。不動産屋の他にはアパートの隣に住む大家。後は・・・ダメだ思い当たらない。

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