見出し画像

●ビートルズ英国盤 (BEATLES ESSAY 14)

父が出張で、世界一周の旅に出る事になった。僕が小学6年の頃だから,40年位前の事である。今と違って,当時、外国へ行くなんてとんでもない時代であった。なにしろ、お金の海外持ち出し枠などというものがあったし,何しろ,1ドル、360円だったし,ポンドに至っては1ポンド1000円だったのだ。僕はこの頃の値段で覚えているのは確か,タクシーに80円というシールが貼っていたという記憶がある。中学3年の時,初めて入ったジャズ喫茶のコーヒーが80円だった、なんだか,こんな事を書き続けていると,年寄りが戦争の頃を若者に話しているようで、まるで、今の人をやめてしまったようである。それのこの頃は,大概の家には,ジョニー・ウォーカーの黒ラベルや赤ラベルが居間のサイドボードの中などに,お飾りのように飾られていたのだった。その値段が黒ラベルが20000円だったし,赤ラベルは10000円だったのだ。どうしてこんな値段を知っているかというと,父がお酒が好きだったので,よくおこづかいを貯めて,父の誕生日にミニチュアボトルを買っていたので,覚えてしまったのだ。しかし,黒ラベルが20000円というのは今の人はきっと信じられないと思いますが,本当の事ですし,当時の初任給は恐らく30000円ぐらいだったはずです。すると,20日働いて,黒ラベル1本です。信じられませんね。今は,黒ラベルは2000円位で売っています。僕は当時の値段を知っているのでどうも,酒屋さんに行くと,思わず『安ーい!』などと言って,黒ラベルを買って
すごく得した気持ちになっています。
どうも僕には経済ってなんだか解りません。
 父は最初に英国を訪れる事になっていたので、僕はもちろんお土産を御願いしました。父は約束どうりのビートルズのレコードとビートルズのシャツを買って来てくれました。僕の御願いした,シャツというのは、ビートルズのイラストが入ったものでしたが,父が買って来てくれたのは立派な黒のタートルネックのセーターだったのです。それをビートルズシャツと言っていたらしいのです。それはとても肌ざわりのいいものでした。そうして,レコードです.2枚買って来てくれました。1枚は,“HELP"でした。そうしてもう1枚の方はというと,なんと,今まで見た事も聴いた事も無い,まさに,出たばかりの“RUBBER SOUL"だったのです。当時新譜の情報と言えば,雑誌のミュージック・ライフか,ティーン・ビート位のものでしたが、それらにもまだなにも載っていませんでした。確かにあのころはまだ、情報に時間差があったのでしょう。其の2枚のLPはともにモノーラル盤でした。僕が欲しかったのはステレオ盤だったのですが,今となってはモノーラル盤でよかったと思っています。“HELP"裏の面はモノクロの写真がとても新鮮でしたし、もちろん、”RUBBER SOUL"の方はと言えば最初,こんなレコードは無い。と言うのがその時の感想でした。本物なのだろかと思ったのです。一度も見た事も聴いた事も無かったのですからそうかも知れません。レコードをかけるとそれはまさに、ビートルズでした。しかも最高の・・・。
 それらのレコードには裏面にプライスがはっていました、5.8ポンドでした。その頃のアメリカ盤は5.5ドルでした.すると,英国盤は約6000円で,アメリカ盤は1880円ですから、英国盤は輸入するには高価すぎたのだと思います。これを考えると父は12000円(当時のお金でです。)で2枚のレコードを買って来てくれたのです。高かったでしょうね,当時マックはいくら位だったのでしょうか?父がこれを買った為におなかが減る事が無ければよかったと思います。3000マイル海を隔てていても父は僕の事を思っていてくれたのです。ありがたいものです。
こういう事も親になって初めて解るのですから困ったものです。

2006年 12月 29日 13時00 分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?