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Government Affairs

(1)定義
Government Affairsという部署を設置する会社が増えてきた。Government Affairsとは、様々な定義を目にするが、ここでは一応、当局や政治家等の関係者と折衝し、立法過程に影響を与え、自社のビジネスをさらに推進することが可能な規制環境を創出することを意図した機能とでも定義しておくべきであろうか。Public Affairsなどとも呼ばれることもあるようだ。

(2)企業においてGovernment Affairs機能を担う部署

Government Affairsが伝統的に特に部署として設置される業界(企業)には、IT・通信、製薬、またいわゆるGAFAMなどがあり、いずれも社会に対しインフラを提供するなど大きなインパクトを持ち、法規制、当局による厳しい監督を受ける点で共通している。特に近年の華為(ファーウェイ)の市場からの排除の問題などを見れば、地政学的な影響を受けやすいという極めてセンシティブな面を併せ持つ。

しかし、規制業種であってもGovernment Affairsが設置されない、あるいは設置されてもそのプライオリティがさほど高くない、又はプレゼンスが限定的な業界もあり、そのような企業の場合、Government Affairs機能が法務部門やコンプライアンス部門といった近接機能により担われていることがある。

(3)Government Affairsのスタープレイヤーたち

立法機関や政治家との折衝が必要とあれば、説得力や影響力の観点からGovernment Affairsにビッグネームを必要とするのはある意味自然な流れというべきであろう。米国ではこのエリアで突出したスターがおり、例えばGovernment Affairsではアメリカ政府の米国民のデータへのアクセスをめぐって困難な舵取りを迫られたマイクロソフトの副会長兼プレジデントのBrad Smithが有名である。Bradについては弁護士資格を持っているが、弁護士資格が必須のエリアではなく、Inhouse Counsel Revolutionの著者で、このエリアからGEのGeneral Counselに移り、GCの職責を拡大する画期的な提言を行ったBenjamin Heinemanをも挙げることができるだろう。

(4)Government Affairsに求められるスキル・経験

日本でもGovernment Affairsのポジションは外資系企業を中心に募集が増えているが、必ずしも弁護士資格を必須としているわけではない。実際、当該職種で活躍する人のバックグランドは公共政策、心理学等多種多様である。また当該会社のビジネスエリアでの経験や知識は必ずしも求められていないようだ。むしろコミュニケーション能力や政府関係者との折衝といったことに強みを持つ人材が求められ、一般的な傾向としては当該会社のビジネスに関する知識は入社後のキャッチアップでも足りると考えられているようだ。但し、製薬・医療機器業界などは非常に専門性が高く、このエリアになるとおそらく業界経験者が有利であろうと思われる。

(5)「クリエーション機能」との関係

国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書にいうところの「クリエーション機能」は、このGovernment Affairs機能と、制定法について従前なかったような新たな、柔軟な解釈をすることによりビジネスの可動領域を広げる活動を、同じ「クリエーション機能」として一括りにしているようだ。

しかしこれには個人的には違和感を感じている。制定法について柔軟な解釈を試みることは制定法をあくまで前提にするもので、制定法が企業の行動を規制するのと同時に、その反面で、自らの稼働領域を明確に文言をもって画することで企業の自由をも守ることにもつながっているということを前提にする。しかし、当然のことながら企業が手前勝手な解釈をして社会にネガティブな影響を与えることがあれば、制定法の文言の解釈により当局のサンクションに絡め取られることもありうる。このため制定法について柔軟な解釈を試みるというアプローチは、法律事務所の意見取得や当局とのディスカッションによるクリアランスなど、手続的保証を伴うことが必須である。また当然、法令解釈の高いスキルを要するため、弁護士や法務部門の領域と言えるであろう。

これに対し、Government Affairs機能は、制定法に従う、制定法ありきの態度を前提にする新たな制定法の解釈のアプローチというよりはむしろ、制定法自体を変え、時にはそのスコープを狭め、もって企業の可動領域を拡大することを目指す活動であり、寄って立つポジションが全く異なる。下記のチャートの通り、前者の制定法の解釈アプローチは緑、Government Affairs機能は赤というベクトルであり、逆のベクトルの活動であると個人的には考えている。そして、Government Affairs機能については上述の通り、弁護士資格や法解釈というより、コミュニケーションの力や影響力を持つ人材を必要とすることは言うまでもない。

さらに、制定上の解釈を問題とする場合と制定法を変えることを目的とする場所では、文脈にもよるが同じ省庁でも異なる部署にコンタクトすることになることも多い。

したがってこれら異なる二つの活動を法務部門に期待されるものとして同列に扱うことで、それら各活動の特性が見えにくくなり、目的に適合した十分なリソースを配置することから企業を遠ざけてしまうのではないかという懸念がある。

(6)Government Affairs機能の必要性

規制業種にも様々なものがあり、比較的ビジネスのスキームが安定しており決まった枠組みで常にオペレーションすれば足りるものから、常に法規制の枠を超えた新たなオポチュニティをチェイスしなければならないものまで様々である。また、ビジネス活動で国民への悪影響が生じることがあるような「悪名高い」ビジネスもあれば、ネガティブなインパクトはもたらさず、又は少なくともそれが見えにくいようなビジネスも存在するであろう。そうした観点では目立ちにくい、普段は規制機関からもさほど問題視されにくいビジネスも、国の政策との関係で突然スポットライトを浴びることもありうる。そのような場合、従前特段の必要性も感じないため行ってこなかったGovernment Affairsの取り組みを突然強いられることもあり、そうでなければ規制環境についていけないという事態も発生しうる。規制業種においては特に、今現在のビジネス上の必要性という視点にとどまらず、幅広に時間軸を捉えて、平素から知識をアップデートし、ネットワークを広げておくことが期待される。



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