「セイクリッド・トレジャー」1話


●あらすじ

AIが世界をゲーム化。全人類には世界ランキングが!
そんな世界に1%より上位の弟(凪人)、半分より下位の兄(エンジ)の兄弟がいた。
エンジは優秀な弟に劣等感を抱いていた。
ある日、二人は強力な魔物と遭遇。エンジは凪人を守り死亡する。のだがエンジはカプセル内で目を覚ます。
彼は自分が人間体験プログラム中の天使だったことを忘れていた。
後日、再び魔物に襲われた凪人の元に禁忌スレスレで武器として復活したエンジ(別の姿)が降臨。
難を逃れた凪人はエンジ蘇生の報酬のために高難度ボスに挑むと語る。

人間+天使? vs ゲーム+AI

駄兄と優秀なのに兄を慕う弟のコンビで贈る高次元存在に一泡吹かせるエモーショナル現代活劇!

●本文

(完全オープンワールド、自由度無限大、そんなゲームがあったらやってみたいか?)

(完全なる実力主義で、成功者は地位も名誉も金も、全てを手に入れられる)

盃を掲げ歓喜するサッカー選手、札束をひらつかせニヤリとするスーツ姿の女、豪華なソファで変顔するYouTuberの描画(成功の象徴の描画)。

(答えはNOだ)
(俺たちはそんなゲームを知っている)

100点の答案用紙で父親から褒められる少年を眺める43点の答案用紙を握りしめる別の少年の描画(凡庸の象徴の描画)。

(そう。"現実"はクソゲ―だ)

大型の狼のような獣に食われる青年(主人公)の描画。

※ナレーションは【】、セリフは「」、モノローグは()
 補足は※で記載。

【2043年、自己学習によりAIは人知を超えた】
【人知を超えたAIが行ったことは人類の想像の斜め上であった】

【現実をゲーム化したのである】
【AIは現実世界に多種多様なゲームをモデルにした"MAMONO"を出現させた】

・RPG(スライムのようなモンスター)
・シューティングアクション(機械的なエネミー)
・ハンティングアクション(典型的な獣モンスター)
などのモンスターの描画。

【MAMONOに通常兵器は意味を成さない】
【人類はAIの"おもちゃ"にされたのである】

銃を持つ人間がモンスターにやられる描画。

【絶望の淵に立たされた人類だが、そんな人類にも光明があった】
【特殊な武器"神器"が世界各地で発見されたのである】

【神器はMAMONOに対抗する唯一の希望であった】

剣や斧、弓、鞭などの武器の描画。

???「くらえ! 必殺"天破斬"」

屈強な男が横振りした太刀から出た飛ぶ斬撃で巨大な熊を叩き切る。

"おめでとうございます。Enjiさんのランクは7位です。"
と表示されている。
上記、携帯型ゲームの画面であり、ズームアウト。

エンジ「しゃぁあああ!!」

学ラン(金ボタン)を着た黒髪短髪で少し老け顔の少年(=エンジ)……が道端で、携帯型ゲームを片手にガッツポーズをする。
画面内にはMonster Killerと表記。

【天宮(あまみや) エンジ(17)】

凪人「またモンキラ? なんでこんなご時世に"ゲーム"なんてしてるんだよ(歩きながらは危ねぇし)」

別の学ラン(ホック式……海軍型)を着た金髪ツンツンヘア、やや目つきの悪い三白眼の少年(=凪人)が呆れるように言う。
※モンキラ=Monster Killer(エンジがやってるゲーム)

【天宮 凪人(なぎと)(15) エンジの弟】

エンジ「お、凪人も帰りか」

二人は学校からの帰り道でばったり出会った。@十字路

エンジ「なんでって、そりゃ……」

エンジが言いかけたとき、二人の目の前に空間ディスプレイがポップアップする。

"本日の最新世界ランキングを発表します。"
"天宮 エンジさんの最新世界ランキングは41億7212万8624位です。"
と表示される。

エンジ(そりゃあよ……現実の順位が……)

エンジは一瞬、寂しそうな顔を見せるが、次の瞬間には笑顔になる。

エンジ「お、また俺の世界ランキングが上がってしまった!」

エンジは幾分テンション高めに言う。

凪人「有能な人が死んで母数が減っただけでしょ……」

エンジ「まぁな……」

あきれ気味の凪人にエンジは苦笑いする。

エンジ「ところで凪人は何位だった? 久しぶりに見せろよー」

凪人「あ、ちょ……兄貴!」

エンジは凪人のディスプレイを横から見る。

天宮 凪人さんの最新世界ランキングは3025万6908位です。

エンジ「わ……また……随分と……」

自分で見ておいてエンジはショックを受け、誤魔化すように苦笑いする。

エンジ(それほどすごくなさそうに見えるが、凪人の順位は人口約50億人を鑑みれば、上位1%以下)

ピラミッドみたいな図で可視化。

エンジ(ランキングの上位は実際にMAMONOと戦ってる奴ら(遊士なんて呼ばれてる))

三人の人物(←遊士)の描画。
①二本の角が生えたイケメン(←三話で出てくる世界三位、日本一位)
②ハイエナを擬人化したような生意気そうな少女
③頭髪が薄いおじさんだがやたらオーラが強い男
※あくまでも遊士の雰囲気の描画のため、覚える必要なし

エンジ(そうでない俺らのような者は謎の指標により順位が決定するようだ)

学力? 運動能力? 人格? 容姿? みたいな文字コマ。

エンジ(兄の俺が言うのもなんだが、凪人は見た目の割に文武両道で何をやらせても優秀な奴だ(さぞかし人生楽しかろう……))

凪人が野球やってる姿※と銀縁のメガネをかけて授業を受けてる姿を背景に。
※左打ちにすること
 ┗バットを振る際に、左腕を奥側に構えること。凪人は右利きだが、野球は左打ちの方が有利な部分があるため、右利きでも左打ちの選手が結構いる。

エンジ(一方の俺は勉強も運動も平均より下の万年低空飛行……(ゲームの上手さは反映されない。。。))

2だらけの紙飛行機にされた通知表が地面スレスレを漂う描画。

凪人「こんなものに何の意味もねえだろ」

多少、焦るように言う凪人。

エンジ(そうは言うが、同じ兄弟なのに、片や上位1%、片や半分以下……)
エンジ(本当、現実ってゲームはハードモードが過ぎる)

しょんぼりするエンジ。

エンジ(この世界は高次元存在によるシミュレーションワールドなんていう偉人もいるが、仮にそうであるなら言ってやりたい)
エンジ(バランスが悪すぎる)

エンジはそんなことを思いながら、二人はT字路の角を曲がる。

エンジ・凪人「……!!」

角を曲がった先、二人の目の前に大型の狼のような獣が突如として現れる。

凪人「は……?」

エンジ「なんで……? ここは浸食されていないはずじゃ……"イレギュラー"って奴か!?」

凪人は咄嗟に護身用の棒を取り出す。
神器を模して製造されたレプリカである。
エンジもそれに続く。

凪人「っ!」

凪人は勇敢にも獣に向かっていく。

凪人「ら゛っ!」

そして獣の頭に勢いよく棒を叩きつける。

だが……

凪人「っ!? くそ……こんな模造品レプリカじゃ……」

獣は全くダメージを受けた様子はない。
凪人は怯むように一歩、下がる。

次の瞬間、獣が無慈悲にも襲い掛かる。

凪人「っ……」

反射的に腕で顔を隠す凪人……

しかし、凪人は無傷であった。

凪人「え……?」

凪人は恐る恐る前を見る。

そこには両手を広げ仁王立ちするエンジの姿と
そのエンジの胴体に食らいつく獣の姿があった。

凪人「兄貴……!!」

最大限の焦りの表情を浮かべ、叫ぶ凪人。
激痛に苦悶の表情を浮かべるエンジ。

凪人「あに……」

エンジ「逃げろっ!!」

凪人「っ!!」

エンジ「逃げるんだ、凪人!!」

凪人は戸惑いつつも苦悶の表情を浮かべ、その場を離れる。

エンジ「……それでいい」

エンジは少しだけ微笑む。

エンジ(ったく、ゲームなら、ちょっとは難易度調整しろよ……)
エンジ(俺みたいな雑魚相手にエンカウントさせていい相手じゃねえだろ……)

エンジ「……ちくしょう」

エンジ(ほらな……やっぱり現実はクソゲーだ……)

地面に叩きつけられるエンジ。
※冒頭のシーンとリンク

エンジ(痛え……あぁ……俺は死ぬんだな……)

「人間体験プログラムお疲れ様でした~」

上から見下ろすように、無表情な女がそんなことを言う。

「は……?」

(えーと……)

エンジは白い何もない空間の中にあるカプセルのようなものから、むくりと上体だけを起こす。
横には無表情な銀の髪の女※が立っている。
※髪、ミディアムくらい。半眼気味で、瞳は金。155cmmくらいのスレンダー。15歳くらいの見た目。非常に整った顔立ち。白いローブのようなものを羽織っている。
※エンジ自身も全体的に脱色された感じで神秘的になっている。

エンジ(…………)

エンジ(あ、そうだ……俺、天使だった……)

【17年ほど前――】

【"観測者"の使者……人間の言語に直すなら"天使"といったところだろう】

エンジ「いやー……しかし、暇だなぁ……」

【その天使の一人……エンジは暇だった】
【担当する地球では天使の姿に模した知的生命体の発生を終え、マンネリ期に入っていた】

ダラダラと退屈そうに地球を眺めるエンジ。

エンジ「あ、そうだ!」

エンジは何かを閃く。

……

エンジ「なぁ、ミカ、俺は人間体験をすることにした!」

ミカ「……はい?」

ミカと呼ばれた女(前のシーン登場の女と同一人物)は気だるそうに聞き返す。

エンジ「だから、人間体験だって……! できるだろ?」

ミカ「はぁ……まぁ、できますけど……」

……

カプセルに横たわるエンジにミカが尋ねる。

ミカ「オプションはどうしますか?」

エンジ「何があるんだっけ?」

ミカ「天使の記憶の有無や体験時の人間の能力も"天才、優秀、凡人"などから選べますが……」

エンジ「じゃあ、記憶はなし。凡人で頼む」

ミカ「また随分とハードモードを……」

エンジ「そうでないと一般的な人間体験とは言えないからな!」

ミカ「はい……それじゃ、頑張ってくださーい」

エンジ「ちょ、え、もう……!?」

ミカは大して興味なさげにスイッチを押し、エンジは意識を失う。

……

母に抱っこされる赤ちゃんエンジの描画。

【そして、現在――】

ミカ「で、どうでした? 人間体験は?」

エンジ「いや……えーと……そうだなぁ……」

エンジ(自分でハードモードを選んでおいて、担当の箱庭をクソゲーというのも気が引ける……)
エンジ(しかし、まさか自身が高次元存在だったとは特大ブーメラン……)
※エンジの分以外にもカプセルがあって、誰かが寝ている描画

エンジ「まぁ、ぼちぼちだな……(モンキラはおもろい)」

ミカ「そうですか……(もんきら?)」

※すでにここより前でも使ってますが、「」や()の中の()は吹き出し外で小さく手書きで記載される書き文字のイメージ。

ミカ「それにしても貴方の体験中になかなか興味深いことが起きましたね」

エンジ「……あぁ」

【知的"無生物"……AIの発生】
【そして現実のゲーム化である】

エンジを殺した狼の描画。

【ゲームは人類の生命を脅かすだけではない】
【攻略者には目の眩むような報酬も用意されているのだ】

逆にモンスターを狩る人間の姿の描画を背景に、
ボスリストの描画。
=========================
階級:BIG4
アシル(モデル:ファンタジーRPG)
┗報酬:覇の王冠 ―― 所有者は人類に強制力のある命令ができる

ゼリウス(モデル:モンスター育成RPG)
┗報酬:ゼリウス ―― ゼリウスを支配できる

モック(モデル:アクション)
┗報酬:不老の葉 ―― 老いなくなる

トキノシン(モデル:ハンティングアクション)
┗報酬:蘇生の雫 ―― 任意の人間を蘇生する
=========================

ミカ
「AIは人類をまるでおもちゃのようにしていますね」
「彼らは"こちら側"に似てきている」

無表情ミカと神妙な顔付きのエンジ。

エンジ「なぁ、ひょっとして"神器"って……」

ミカ「えぇ……我々がAIへの牽制措置として、投入しました」

エンジ「やっぱりか……」

エンジは顎に手を当て、何かを思考する。

エンジ(そう言えば……凪人の奴はどうなったかな……)

エンジは地球に目をやる。

エンジの葬儀の描画。エンジの遺影。
「弟さんを助けたとか……」「立派だったじゃない」みたいな参列者の声。
凪人は心ここにあらずといった茫然とした表情。

……

凪人が両親に抱きしめられている描画。
両親も涙している。

母「ごめんね……ありがとう……エンジ……」

その様子を神妙な顔で観るエンジ。

横にいた父の発言。
父「凪人が……"凪人が"生きていてくれてよかった」

はっとするような凪人の描画。

母「あなた……」

父「あ、あ……す、すまない……」

……

エンジ「そりゃーそうだよな……」

少し切なそうなエンジの描画。

エンジ「凪人……頑張れよ……」

エンジは囁くように言う。

ミカ「随分とその人間に入れ込んでいるようですね……」

エンジ「まぁ、多少はな……」

ミカ「ふーん……で、感傷に浸っているところ悪いのですが、その人間、直近の死亡リスクが点灯してますよ?」

エンジ、一瞬、きょとん。

エンジ「え゛!?」

一週間後――

凪人は学校を出ようとする。@学校の下駄箱

友「なぁ、凪人、野球部、辞めるのか?」

学校を出ようとする凪人を友人※が引き留め、凪人は振り返る。
※野球のユニフォーム姿、短髪、パッと見、モブっぽい雰囲気だけど爽やかな感じ。

凪人「あぁ……」

友「そうか……」

友人は複雑そうな表情を浮かべる。

友「何が起きたか知ってるけど、お前がいれば全国にも……!」

凪人「悪い……」

凪人、無表情。

友「っ……」

友人、気まずそうな表情。

友「すまん……だけど……また……気が変わったらいつでも戻って来いよ!」

凪人「……あぁ」

凪人はそう言って、背を向ける。

凪人(戻ることはないさ……)

帰り道を歩く凪人の描画。

凪人
(兄貴が死んで、二週間が経った)
(だけど、世界は何も変わらない)
(なんだか気持ち悪くすら思える)

幸せそうなカップルやたむろする学生などの日常風景の描画。
自身を守り、血まみれとなるエンジの後ろ姿の描画。

★軽く回想。生前のエンジ。(苦笑いするような表情)
エンジ「ったくよ、お前は本当にできた弟で心底、嫉妬するぜ」

凪人(っ……兄貴……、俺のことが疎ましかったんじゃないのか?)

凪人、唇を噛みしめる。

そうして凪人は足を止める。
眼前には
"ここから先、浸食領域。許可なき侵入禁止"(大きい文字)
"許可なく侵入した者の救助要請は受諾されないためご注意ください"(小さい文字)
"浸食拡大のリスクがあるため周辺地域への不要不急の接近も避けてください"(小さい文字)
と書かれた看板あり。
向こう側には不気味なオーラに包まれた廃墟群。
※今更ですが、序盤の舞台は東京の豊洲周辺を想定。

息をのむ凪人。

凪人(特例を除き未成年……18歳未満に許可が降りることはない)
凪人(だけど、統計的に浸食領域周辺では神器が発生しやすいらしい……)

凪人「……」

結局、凪人は浸食地帯に背を向ける。

帰途。

凪人(焦るな……俺が死んだら目的は果たせない……)

凪人(だが……それまでに"あれ"が誰かに奪われないとも限らない……)

凪人「っ……」

凪人は歯がゆそうに唇を噛む。

凪人(兄貴は俺のこと上位1%なんて言ったけどよ、それでも上には3000万人もいるんだぜ?)

と……

???「うわぁあああああああ!」

突然、悲鳴が聞こえる。

凪人「っ!!」

凪人は一瞬、戸惑うが、そちらの方へ向かう。

……

凪人「……!」

凪人(マジかよ……)

目の前には、先日、エンジを殺した大型の狼のような獣。
そして、その前には尻餅をつく少年とそれを庇うように立ちはだかる少女がいた。
※少年7歳くらい、少女10歳くらい。どちらも栗色の髪。

凪人(なんでこんなところに子供だけで……?)

獣「ウガァアア゛アアア゛ア!!」

獣が激しく咆哮する。
立ちはだかっていた少女も腰が抜けたようにへたり込む。

そして、獣は少しだけ後ろに仰け反るようにして、今にも少女を襲いそうな描画。

ガキン

獣「っ!?」

凪人が神器のレプリカの棒で獣の突進をなんとか抑える。

凪人「逃げろっ!!」

少年・少女「っ!!」

凪人「逃げるんだ!!」
※凪人を逃げさせたエンジと重ねるような描画

戸惑いつつも少女が少年の手を引き、その場を離れる。

凪人(はは……なんだこれ……)

凪人「っっ!!」

獣に突き飛ばされる凪人。
後ろの塀にぶつかり、そのまま倒れる。
しかし、なんとか立ち上がる。

凪人(こんなはずじゃなかったんだけどな……)

正面に迫る獣の描画。相当な威圧感。

凪人(っ……)

凪人、恐怖の表情。

凪人
(こんなやばい奴に)
(兄貴は立ち塞がったんだな)
(俺も少しは兄貴みたいになれたかな……)

凪人は目を瞑る。

と……その時であった……

???「力が欲しいか?」

凪人の脳内に語り掛けるような声が響く。

凪人「え……?」

???「これ、一回やってみたかったんだよね」

凪人「はい……?」

???「あ、いかんいかん、再度、問おう。力が欲しいか?」

凪人「…………欲しい」

???「よかろう……ならば……俺を手に取るがいい……」

凪人「……!」

凪人の目の前に刀のようなものが出現する。
※鞘がない状態。

凪人(これは……"神器"……?)

凪人は驚きの表情を見せつつも、すぐに覚悟めいた目に変わり、刀を手に取る。

獣「……?」

獣は一瞬、不思議そうな顔をするが、すぐに襲い掛かってくる。

一閃――
※野球の左打ちみたいなモーション

獣は上下真っ二つになり、激しい断末魔と共に消滅する。

肩で息をしながら、振り返るようにその様子を見る凪人。

空間ディスプレイが出現し、
"白狼を討伐しました。報酬として『若返り草』を入手しました"
"若返り草:三日分、若返る"
と表示される。

凪人は自身が手に持つ刀に視線を移す。

と……

刀が煙状になり、手から離れていく。

凪人「っ……!」

更に、その煙が人型へと姿を変えていく。
そこには白銀の髪の美少年がいた。

???「……やぁ」

少年はそんな風に挨拶する。

【数分前――】

エンジが狼と対峙する凪人を観察する描画……
無表情で眺めるエンジ。

★軽く回想(前シーンの凪人の回想には続きがある)
エンジ「ったくよ、お前は本当にできた弟で心底、嫉妬するぜ」
凪人「ふーん、だけど俺は……兄貴に結構、憧れてるけどな」
エンジ「っ……! ったく、社交辞令まで完備ってか?」
凪人「は? ちげえよ!」

回想終了

エンジ「……」

エンジ
(なぁ、凪人……お前……)
(なんで俺なんかのこと憧れてるって言ったんだ?)

エンジ「……」

覚悟めいた表情。

……

ミカ「はぁ? また地球に戻る? 血迷いましたか?」

ミカは怪訝そうに眉をひそめる。

ミカ「ひょっとして、あの人間にほだされたんじゃないでしょうね?」

エンジ「え? いや、そんなこと……ないっすけど……」

ミカ「……」

ミカは目を逸らすエンジをじーっとを見る。

ミカ「臭いです」

ミカ、鼻を押さえる仕草。

エンジ「えっ!?」

ミカ「人間臭いです」

ミカ、真顔。印象的なカットで。

エンジ「っ……」

エンジ、一瞬、怯む(自覚がなかった表現)。

エンジ「まぁまぁ、別にいいだろ! 今回はあの場所に、なるべくハイスペックで頼む!」

エンジ、少し誤魔化すように、苦笑い気味に。

ミカ「そうは言いますけどね、ハイスペックにし過ぎると目立ち過ぎる懸念がありますので、上の承認が必要ですよ」

エンジ「え、まじ? そんな時間ないんだが……」

悩むエンジ。

エンジ「あ……そうだ……! 神器! 神器ならすでに実績があるし、いけるっしょ?」

ミカ「え……まぁ……」

ミカは痛いところを突かれたような表情。

エンジ「よし来た! それで頼む! って、あぁ、やべえよやべえ! 急いでくれ!」

エンジはカプセルに入る。

ミカ「ちょ、待ってください! 貴方自身が神器になるんですか!? それに、見た目のスペックとかどうするんですか!」

エンジ「えっ!? 時間もねえ! もうミカの好みで決めてくれていいよ!」

ミカ「はぁ!?」

ミカ、お怒り。

エンジ「頼む……ミカ」

エンジ、急に真剣な表情でミカを見つめる。

ミカ「……っ」

ミカ、ぐぬぬ。

エンジはカプセルに入り、意識を失う。

ミカ「……なんて無茶苦茶な……どうなっても知りませんよ!」

ミカは憮然としながらも、カプセルの操作を始める。

エンジはふと窓ガラスに映った自分の姿を確認する。
白銀の髪で前回のエンジと比較すると、無茶苦茶整った顔の少年であった。
※身長150cmくらい。白銀の短髪、ネコ目に青い瞳、白いローブ

エンジ(うわっ、これ俺かよ……)
エンジ(ははーん、ミカはこういうのが好みなんだな……)

エンジはニヤニヤする。

凪人「あ、えーと……貴方は……」

エンジ「あ、なぎ……」

言いかけてエンジは止まる。

凪人「……?」

エンジ(俺が凪人を知っているのは流石におかしいか……天使の存在は守秘しなければ……)

エンジ「初めまして、俺は神器の……」

エンジ(神器のなんだ? えーっと……えーっと……)

エンジ「神器の……えーと……"あれ"だ」

凪人「アレン……さん?」

エンジ「え? あ、そうそうアレン!」

凪人「人みたいに喋る神器なんてあったんですね……初めまして、俺は凪人って言います」

エンジ改めアレン(なんか凪人、妙に敬語だな)

アレンは少し笑ってしまう。
少し不思議そうな凪人。

凪人「それで……えーとアレンさんは俺の神器になってくれるんですか?」

アレン「え……そ、そうだな……うん、そうだ」

……一瞬の間。

凪人「っしゃぁあああ!!」

凪人は人目をはばからず、滅茶苦茶ガッツポーズする。

アレン(え……?)

アレン「あ、え? 凪人……くん、そんなに神器が欲しかったの?」

アレン(……そんな風には見えなかったんだけど……(ってか、そんな熱い奴だっけ……))

凪人「えぇ……そうなんです……つい最近なんですが人生の転機というか……大きな目標ができまして……」

アレン(俺の件だよな……)

アレン「その目標って……?」

凪人「BIG4の"トキノシン"を倒すことっす」

覚悟めいた顔。印象的なカットで。

アレン「っ……!」

背景に下記、描画。

=========================
階級:BIG4
アシル(モデル:ファンタジーRPG)
┗報酬:覇の王冠 ―― 所有者は人類に強制力のある命令ができる

ゼリウス(モデル:モンスター育成RPG)
┗報酬:ゼリウス ―― ゼリウスを支配できる

モック(モデル:アクション)
┗報酬:不老の葉 ―― 老いなくなる

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
トキノシン(モデル:ハンティングアクション)
┗報酬:蘇生の雫 ―― 任意の人間を蘇生する
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
=========================

アレン(完全に俺を蘇生するためじゃないかぁあああ!)
アレン(え? ってか、これ、俺に使われたら何が起こるの!?)
アレン(いやいや、それ以前に、BIG4は流石にやばすぎるって……!)

アレン「あ、えーと……凪人くん……ちょっと落ち着こ……」

???「誰を倒すって?」

アレン・凪人「「!?」」

アレンが凪人をなだめようとしかけた時、後ろから誰かが声をかける。

アレンは咄嗟に刀へと戻る。※鞘がある状態

???「あれ……? おかしいな……ここに救助要請があったはずなんだけど……」

長身、フォーマルな恰好に白衣を羽織っている、ディープブルーのウルフヘア、切れ長の目に銀縁眼鏡、たばこをくわえ、二又の槍を肩に乗せるようにして持っている男性(イケメン)がそんなことを言う。

凪人「あ、貴方は……!?」

【凪人はその人物のことを知っていた】

凪人(主級遊士の深山さんだ……(すげぇ、本物か?))

【深山 凛久(みやま りく) 主級遊士】

ミヤマ「君、刀なんて持ってるけど……なにか知ってる?」
※漢字2文字でパッと見で凪人と区別しづらいので、カタカナ表記

凪人「あ……はい……MAMONOは自分が倒しました」

ミヤマ「っ……!? あれ、おかしいな……大型のMAMONOだと聞いていたんだがな……誤通報だったのかな?」

凪人「……白狼というMAMONOでした」

ミヤマ「っ!? またまた~」

深山は一瞬虚を突かれたような顔をした後、苦笑いする。

凪人「……」

凪人は真顔である。

ミヤマ「え? マジ……?」

その時……

"本日の最新世界ランキングを発表します。"

凪人・ミヤマ「「っ!?」」

ちょうど最新の世界ランキングのために、二人の目の前に空間ディスプレイがポップアップする。

"天宮 凪人さんの最新世界ランキングは333位です。"

凪人「えぇえ゛えええ!?」

ミヤマ「ど、どうした?」

凪人の驚きっぷりに深山も驚き、その拍子に凪人のディスプレイを見てしまう。

深山は目をこすり、そして、もう一度、ディスプレイを確認する。

ミヤマ「は……?」

深山は咥えていた煙草をポロリと落とす。

ディスプレイに謎の文字が羅列される感じの演出。

【監視対象"天宮エンジ(死亡)"の実弟に当たる"天宮凪人"へのアプローチの結果、神器の発生を確認】
【確率論に反する結果。非実在性意思"観測者"の可能性を否定できず】
【高い懸念をもって注視を継続する】

ズームアウトして、凪人が助けた少年の眼の中に上記が映し出されている演出。
片膝をついて少女と少年を抱き締める母親。
母親の両肩の上でそれぞれ顔を出す少女と少年。
少女は涙を流し、少年は真顔である。

●2~3話へのリンク


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