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BBQでのアルコール引火事故のニュースをきいて…

ニュースで報じられている、専門学校でのバーベキューでの事故の件。正直なところ、最初に耳にしたときはあまりに痛ましく感じ、私は胸が詰まって声も出ませんでした。

なんてことを……

きっと、多くの人が思ったことでしょう。そう感じたことでしょう。
そう、多くの人は「なんでそんなことをしたんだろう?」って思ったハズです。
でも残念ながら、すべての人がそう感じたということでもないのだと思うのです。「へー、そうなんだ。そんな風になるんだ」なんて思った人も、わずかながらいることでしょう。

ただ、今回の事故のニュースを聞いて気づけたのならまだ良い方です。
このニュースを耳にしていない人のなかには、燃えている火に向かってアルコールを噴霧するとどうなるのか、まったくイメージがつかない人もいるのでしょう。

私はかれこれ17~18年ほど、ボーイスカウトで指導者をしています。
で、10年ちょっと前、ボーイスカウト隊(中学生年代のスカウトが所属する隊)の隊長をしていたときのこと、訓練キャンプのなかで「キャンプの危険を知る」というテーマのもと、実際に様々な危険行為をやってみて、その怖さを理解するというプログラムを実施したことがありました。

その当時、ポケットコンロの誤った使用法によるボンベの爆発事故や、テント内などで火器を使用している際に、不注意からテント素材に火がまわり、溶けたビニールが身体に付着して大やけどを負うといった事故が増加していたんです(これらは残念ながら、これらは今でも耳にする事故ですが…)。
そこで、実際にガスボンベが爆発したらどうなるのか、またテントに火が回ったらどうなるのか、十分に安全を確保したうえで実験を行うことにしたのです。

はじめにガスボンベの実験。安全のため、スカウトたちには10mほど後方で待機してもらったうえで、私は加熱したダッチオーブンに、あらかた使い切ってほぼ空になったポケットコンロ用のガスボンベを入れ、厚さ3mm超のバーベキュー用の鉄板でフタをして、その上に重石として軽量ブロックを1個乗せました。
その仕掛け終えたると猛ダッシュで退避しましたが、スカウト達のそばに駆け寄ってから約30秒後、バンッ!という大きな音が響き、軽量ブロックと鉄板が50cmほど浮き上がりました。
とびあがって驚くスカウトたち。安全を確認したうえで、恐る恐る現場に近づくと、浮き上がったブロックは、落下の衝撃で2つに割れ、バーベキュー用の鉄板は、衝撃でゆがんでしまっていました。
そしてガスボンベはというと、ダッチオーブンの中には残っていましたが、継ぎ目のところに大きな亀裂が入り、見るも無残な状態に。
スカウト達は、その惨状を目に焼き付けるかのように、茫然と見つめていました。

続いて、テントの燃焼実験。
たまたま古くなって廃棄を予定していたフライシート(ナイロン製)があったので、最後のお役目をはたしてもらうことにしました。
今度はスカウト達にも手伝ってもらい、たき火を用意して、そこに竹棒でつるしたフライシートを近づけていきました。
ある一定のラインを超えると、フライシートが縮みだします。そして火にかかってしばらくすると引火、もうもうとした煙とともに、液状になったナイロンが、流れるように地面に落ちていきました。
ナイロンの軟化点は約180℃、溶融点は約215℃~220℃とされています。解けたナイロンが身体にかかればどうなるか…。スカウトたちは目で見て、容易にそれを想像したハズです。

ガスボンベが爆発した時の、あのバンッ!という音、フライシートが燃え、もうもうとした煙が立つ光景、独特のキツイ匂い…これらはきっと彼らの記憶のなかに深くふかく残っていることでしょう。

ガスボンベに引火したら、大変なことになる。テントやフライシートに引火したら、大変なことになる。そう、それをきちんと理解する。そうすれば、それを他の人にも伝えるようになる。それが究極的に広まっていけば、痛ましい事故はこの世の中からなくなるはずです。
きっと彼らはその役割を今も果たしてくれていることでしょう。

たき火やバーベキューで、火起こしにあたってアルコールに火をつける、ホワイトガソリンに火をつける、灯油に火をつける、着火剤に火をつける……これらはごく自然なことかもしれません。もちろん、分量には気を付けなければなりませんし、揮発性の高いものを取り扱うときには、十分な注意を払わなければなりません(できればこれら抜きで、焚き付けをつかって上手に薪や木炭、練炭などに火をつけて欲しいところですがね)。

ただしこの逆、火に対してアルコールやホワイトガソリン、灯油を加えたり(ふりかけたり)、着火剤を投入するということはあってはなりません(布などに含ませて、分量や投入時に十分な注意をはらったうえで……ということは考えられるのでしょうが、それでも本来はするべきではありません)。

痛ましい事故がなくなるように……きちんと理解して欲しい、本当にほんとうにそう思います。

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