左ポケット、ない。右ポケット、ない。後ろポケット、ない。財布の中、ない。カバンの中、ない。巾着袋、ない。お弁当の中、ない。どこにもない。また無くした。
6月最終日。あの目の前にあるスーパー銭湯。いつかタイミングが良いときに行こう。そう思いながら1ヶ月。行くなら今日じゃねえか?ふと、そんな気持ちになる。ちょうど6月も終わりを告げる。1ヶ月お疲れ様。そして2024年も半年が経った。半年間お疲れ様。この間についた穢れを落としたいじゃないか。そんなことを思い小雨が降る中入店。100円返却式のロッカーに靴をしまい、チケットを買って場内へ。更衣室でささっと脱衣。いざお風呂へ。だがしかしここは初めてのスーパー銭湯。僕は目が悪い。眼鏡を外すとほぼ何も見えない。ぼやけた視界を人影や扉の方向なんかを頼りに入っていく。多分きっとたいていの場合そうであるように温泉は露天の方にあるだろう。体を洗って室内のお風呂には脇目もふれず(見えてないけど)露天風呂へ。扉を開くといくつかのお風呂がぼんやりと見えてくる。透明っぽいの、黒っぽいの、五右衛門風呂みたいなの。なんにせよ時間は夜で余計に何も見えない。とぼとぼと歩みを進めて目の前にあった人数的にも入り込みやすそうなお風呂へ。右足、左足、そして体を沈めていく。ぷはーーーーーー。これはきっと間違いなく温泉成分が入っているであろうお湯だ。説明文は読めなくとも、体はじんわりとほぐれていくことがわかる。黒湯らしい。暗いから黒いのか、もともと黒いのか。なんにせよ目が悪い僕にはわからないが、体はリラックスしている。気持ち良い。しばらく入って、次の狙いを定める。あの奥にある屋根の下には寝湯があるはずだ。とにかく寝転がりたい。体の背面だけをお湯につけて寝転がりたい。背中をじんわり感じたい。狙い通りの寝湯へダイブ(静かに)気持ち良い。背中の感触を確かめるみたいに寝転がる。たまらん。そして出戻り黒湯。なかなか満喫できた。さあ、ここから家まで1時間半はかかる。満足できたので帰り支度。靴をしまったロッカーまでたどり着いて鍵を探す。左ポケット、ない。右ポケット、ない。後ろポケット、ない。財布の中、ない。カバンの中、ない。巾着袋、ない。お弁当の中、ない。どこにもない。また無くした。先月もmiiさんのお姉さん一家とチームラボに行った時の体験中に家の鍵を落とした。体験後いつもの右ポッケに鍵がないことに気がつきやべえやべえと内心焦る。さあご飯でも食べに行きましょうってこのタイミングで、空気読めてない鍵の紛失。鍵をなくしたなんて言えない。ひっそりmiiさんに鍵がないことを伝える。もう諦めようかと思いつつ(おいおい)気づかれぬよういそいそと受付のお姉さんに聞いてみる。
あのぉ、鍵の落としものってありませんでしたか?
どんなケースでしたか?
ポールスミスの黒いやつなんですけど
届いていますよ
世界は優しい。さて、時間を戻そう。僕は今お弁当箱の中にも鍵がないかを確認したところだ。きっとどこかに忘れたかもしれない。ひとまず更衣室に戻ってみようと思う。今度はスーパー銭湯入場口に受付のお姉さんに聞いてみる。
あのぉ、靴の鍵忘れたかもしれなくてぇ…
(なくしたとは素直に言えない)
はい、何番の鍵でしたか?
(おや????なんだこの自信ありげな問いは。ちょっと期待が膨らむ。)
2448番です。
はい、こちら届いてますよ。更衣室に落ちてたみたいです。
ありがとうございますぅぅぅぅぅ
世界は優しい。よく物をなくすがよく見つかる。いつも届けてくれる心優しい人たち。ありがとう。そんなわけですっかり体も緩んで、穢れ的なものも洗い流してのんびり家路に着いたのだ。コンビニでコーヒー牛乳を買ってぐびぐび飲んでたらふと思い出す。そう言えばあの帽子どこ行ったんだろ。
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