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無性に叫びたくなる日もある

 なんだかカラオケに行きたいなと思う時がある。だがしかし、なんだかカラオケまで行くのは少し億劫な気もしてくる。観光客の帰宅ラッシュの時間帯にホームで一緒に並ぶのはなんだか気が引けるし、2駅先のカラオケまで行くには少し熱意が足りない。いや、実際には鎌倉駅近くにもカラオケは一店舗あるのだが、いかんせん料金が提示されておらず、一度入ったことはあるのだが妙に高かった気がして、ぼったくられてるような気分になったのでそれ以来行ってない。(実際の金額は覚えてないが若干観光地価格だったのだ。というよりやっぱり料金出ていないことでどうしても足を遠のかせる)
 そんなわけで、どんなわけかこの日は汗を思う存分かいて散歩する日になっていた。やっぱり日常では汗かきすぎないように身体をコントロールしようとする(それでもこの暑さなので結局汗だくに変わりはない)がそんなことは気にせず、スポーツウェア的な速乾性のあるシャツを着てジャージな出立ち、首元にはタオルを巻いて、コンタクト装着。虫除けスプレーも忘れずにといった具合で歩き出す。大抵山方面に向かうのだが、いつものルートの途中トンネルが2つある。いつもそのトンネルに入ると声を出して歌い出したりする。汗を思いっきりかくことと、思いっきり声を出すことはある意味セットになっている。だが、もちろん条件がある。まずは人気の確認。後ろを振り向き自転車でトンネルに向かってる人はいないか目視、それとある程度の車の通りがあること。そうすると良い感じに車の通過音と声が混じり合って、万が一人が現れても歌っててもバレないのだ。(ような気がしている)それで新たに思いついた技が口元を厚めのタオルで覆って声を出すこと。そうすると少し反響が小さいような気がした。
 そんな感じでトンネルを抜けていくとタチンダイ(北条政村の邸跡)がある。森の入り口のような場所でハイキングコースにもつながっている。ハイキングコースの道へ曲がらずに進むと広い草むらに出る。そこに邸跡があって、開けていて気持ちの良い場所だ。坂道を登っていくのでここを2階と僕は呼んでいる。今年は雨が多かったからか、土砂崩れがあり現在2階への道は立ち入り禁止になっているので、最近は1階の木陰で裸足になったりしてゆっくり過ごす。ここもあまり人気がない。僕はやっぱり歌いたくなった。なんでか知らないが、そもそもしっかり聞いたことがないのにMrs. GREEN APPLEの「あぁーなんて素敵な日だ」の部分だけ歌いたくなった。先ほど発見したタオル厚めにして口を押さえる作戦を実行しながら、かなり高音なこの曲を全力で歌う。歌うとより、声が出るか出ないかギリギリの音をただ、ひたすらに出してることが心地良いことに気づく。なんだか今歌いたいと言うより、僕は叫びたいんだと思った。歌詞を歌うことをやめて、叫ぶみたいに声を出して(やはり人気を気にしながら)いたらなんだか身体の中心、軸みたいなものが出来た。シュッとして背が伸びたみたいだ。喉元からあたまのあたりにかけてのモヤモヤっとした感じがスッキリしてなんだか通りが良くなった。チャクラが開いたのかもしれない。壁の薄い家の中ではわりかし静かに過ごすようにしている。他の住んでる人たちにあまり迷惑をかけないように。だからやっぱり声は抑え気味になるし、言葉の通り押さえ込んでるから鬱屈とする。子供の頃、時々無性に叫びたくなる時があった。友達といて、外で遊んでる時はうわぁー!と友達となりふり構わず叫んでたこともあった気がする。その時は恥ずかしいとか迷惑かけてるとかそんなことは通り越して、ただただ大きな声を出してることがおかしくて、笑っていたようなそんな気がした。歳を重ねて叫ぶ機会は減っていくというか無いに等しいし、きっと目撃されたらやばいやつだと思われるだろう。それでもやっぱり思いっきり声を出すそんな感覚が心地よくて、僕は時折叫びたくなるのだ。やっぱり人目を気にしながら。

足先からあたまの先まで通り抜けてく感じ。

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