ドルガバのベルト
19歳になる年の大学に入って初めての夏休みだったと思う。大学までの片道が1時間半かかることや朝の通勤ラッシュが苦痛すぎて大学に行くのが嫌になっていた(理由は他にもたくさんあるんだと思う)大学生になって数ヶ月。もう辞めようと思った。なにかやりたいことを見つけたいと思い大学に入ったが勉強が楽しいわけでもなく、やりがいを見出せたわけでもなく、それでいて高校時代に環境に馴染めなかった鬱憤を発散しようといわゆる陽キャを演じてすっかり疲れ果てていたし、酒浸りな飲み会に参加しても、出ていくのはお金を払って飲んだお酒の嘔吐ばかりでなんだかなにも満たされないまま時が過ぎていた。何かやりたいことを、見つけたいと思った時に起業することが浮かんだ。浮かんだと言うより高校時代の友達と話していてそういう選択肢があることを知った。(今何をしているんだろうと思って友人を調べてみたら、食材の輸入販売をする会社をやってるみたいだった。友人は自分で起業して友達と仕事をするのが夢だった気がする。それが叶っているのかどうなのかわからないがとにかく元気そうだったのでなんだか嬉しかった。)
それでその友人経由で知り合ったのがイサカさんだった。歳はひとつかふたつ上だったと思う。すらっとした体型でよくスーツを着ていた。髪型は長髪まではいかないが、襟足が長くウルフヘアー。日サロに行っているからか日焼けしていて、いわゆるギャル男な出立だった。僕はイサカさんによく懐いていた気がする。なんだか面白い人だったし、決して人の悪口を言わない人だった(それは僕が知っている限りのことだし、もしかしたら僕には言わないようにしていたのかもしれない)からすごく信頼をしていたんだと思う。この人は僕のことをきっと悪く言わないだろうなと。
確か誕生日プレゼントだったのかもしれないが、イサカさんはある日からドルガバのベルトを身につけるようになった。バックルに大きくDとGの文字がゴールドに輝いているベルトである。パチモノではなく本物だったと思うのだが、なんでかそのDとGの大きさがアンバランスで面白く妙にいじられはじめた。イサカさんの細身でスタイルの良い体型が仇となり逆にDとGの主張がより激しくなったのだ。パチモンとかドルガバ〜と名前がパチモンやドルガバになりつつあったイサカさんだったが、そんな罵詈雑言はもろともせず、ある日、仁王立ちで煌々と輝くDとGを見せつけてこう言った。
ドォルガァバァァァ!!!!
場は一瞬静まり返ったが、拍手喝采大爆笑が起きたのだ。僕もその勇姿を目撃した当事者のひとりだ。やべぇ、なんて面白い人なんだと爆笑した。気に入って身につけてるものをいじられても決して心折れないその屈強な精神を目の当たりにして、僕は大爆笑しつつ尊敬もした。
ちなみに僕はイサカさんと2人で玉金(焼き鳥屋)でただただ普通にお酒を飲みながら談笑していた。しかし、2杯ほど飲んだところで急に気持ち悪くなりトイレに駆け込み吐いたのだ。なんで?と言われ、分からないが限界だったと答えた。コールをかけられたわけじゃない。ただただ普通にお酒を飲んで談笑していたのだ。確かそのあたりを境にお酒を飲むことを僕はやめた。そしてしばらくしてイサカさんには子供ができて、地元に戻って職についたことをあとあと知った。ぱたりと会わなくなってしまったが、あの時のドォルガァバァァァの一言で腹を抱えて笑ったことを僕はこれからも忘れない気がするのだ。
ゾイ!と呼んでくてたのがなんだか懐かしい。
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