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「商標の類否」判断の3要素はなぜ外観・称呼・観念なのか


■ 重要論点「商標の類否」と伝統的な3要素

商標法には「商標の類否」という代表的な論点があります。
この論点は、その名のとおり、2つの商標が類似しているか否かを検討するもので、権利化(出願)の場面でも紛争(侵害訴訟等)の場面でも問題になる重要な論点です。

さて、商標の類否は、以下の分かるような分からないような基準から判断されます。

対比される2つの商標が、同一又は類似の商品又は役務(サービス)に使用された場合に、その商品又は役務(サービス)の出所(提供元)につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否か

そして、上記判断基準に従った判断をするための伝統的・代表的な要素として、以下の3つが挙げられます。

① 外観(商標の見た目)
② 称呼(商標の読み方)
③ 観念(商標から思い浮かべる意味内容)

もちろん、上記3つはあくまでも「要素」であって「要件」ではないため、「どれか1つが類似していれば商標も類似している!」というものではなく、出所(提供元)の誤認混同が生じるか否かを判断するための事情にすぎません。
ただ、上記3要素は、伝統的にピックアップされてきたもので、現在でも必ず検討する程度には基本的かつ重要な事情であると捉えられています。

では、なぜ上記3要素はこれまで着目されてきたのでしょうか。

■ 前提としての「離隔的観察」

まず、前提として、商標の類否を判断するに際しては、問題となる2つの商標をどのように観察することを想定するかという問題があります。

 ▷ 離隔的観察

1つ目の考え方は、「離隔的観察」という観察方法です。
離隔的観察では、異なる時間・異なる場所で、観察者がその記憶を元に2つの商標を対比することを想定します。

 ▷ 対比的観察

2つ目の考え方は、「対比的観察」という観察方法です。
対比的観察では、同じ時間・同じ場所で、つまり2つの商標を並べて対比することを想定します。

 ▷ どちら観察方法よる?

現実の取引においては、2つの商標が現に並べられて対比できる場面もあるかもしれませんが、目の前には片方の商標しかなく、記憶を辿って商標の異同を判断する場面が多いでしょう。
そのため、後者の場面でも商標の自他商品・役務識別機能や出所表示機能が守られるよう、商標の類否は「離隔的観察」によって判断されます

(※ 商標の4つの機能についてはこちらのnoteを参照。)

■ 本題:なぜ外観・称呼・観念なのか

さて、本題として、なぜ商標の類否において外観・称呼・観念が重要な3要素として着目されてきたのでしょうか。

前述したように、商標の類否は「人の記憶を頼りとした方法」によって判断されます。
そうすると、人が商標に接したときに、どこに着目して商標を記憶するのかがポイントとなりそうです。

以下では、以前書いたnoteに登場した「めちゃう米」(めちゃうまい)と、それと対比される「むちゃう米」(めちゃうまい)という2つの商標を題材に、人の記憶と3要素との関係性を見ていきたいと思います。

 ▷「めちゃう米」の記憶

ある日、スーパーのお米売り場を物色していたAさんは、「めちゃう米」商標が付されたブランド米を発見しました。
何気なく「めちゃう米」を手に取ったAさんは、①ひらがなで「めちゃう」+漢字で「米」というデザインを確認し、②頭の中で「メチャウマイ」と読み③「すごく美味しい米的な意味かな?こんなダジャレみたいな名前のお米があるのか。」と「めちゃう米」商標の意味内容を理解しました。

Aさんは手に取った「めちゃう米」を棚に戻し、スーパーを後にしました。

 ▷ ①外観の記憶

さて、このケースでAさんは、「めちゃう米」商標に接したとき、①ひらがなで「めちゃう」+漢字で「米」というデザイン、つまり「めちゃう米」商標の外観を記憶しています。

すなわち、商標には視覚的なデザインがあるため(音の商標は除く)、商標に接したとき、人はそのデザイン=外観を記憶するわけです。

そのため、例えば、後日スーパーへ行ったAさんが、「むちゃう米」という商標が付されたブランド米を発見したとします。
この場合のAさんが「めちゃう米」と「むちゃう米」とを比較するときには、記憶の中の「めちゃう」+漢字で「米」というデザインと、目の前にある「むちゃう」+漢字で「米」というデザインとが比較されることになるのです。

ひらがな部分の「め」と「む」以外は同じ

上記のとおり、外観に関しては、ひらがな部分の「め」と「む」が相違する一方で、それ以外の部分は同一です。

 ▷ ②称呼の記憶

次に、Aさんは、②頭の中で「めちゃうまい」と読むことで、「めちゃう米」商標の読み方を記憶していました。

すなわち、商標には読みがあるため(無いこともありますが)、商標に接したとき、人はその読み方を記憶することになります。

そのため、後日スーパーへ行ったAさんが「むちゃう米」を発見した場合、Aさんは、記憶の中の「メチャウマイ」という読みと、目の前の「ムチャウマイ」という読みを比較することになります。

「メ」と「ム」以外は同じ

上記のとおり、証拠に関しては、最初の「メ」と「ム」が相違していますが、音数も含めそれ以外の部分は同一であり、また相違点である「メ」と「ム」も子音は m で同じ音になっています。

 ▷ ③観念の記憶

さらに、Aさんは、③「すごく美味しい米的な意味」として、「めちゃう米」に込められたダジャレ、すなわち意味内容を理解し、記憶していました。

すなわち、商標にはそれに込められた意味があるため、商標に接したとき、人はその商標から思い浮かべる意味内容を記憶するのです。

そのため、「むちゃう米」を発見したAさんは、記憶の中の「めちゃう米」の観念=すごく美味しい米という意味内容と、目の前の「むちゃう米」の観念を比較することになります。

どちらも同じ意味のダジャレ

ここで、「むちゃう米」の観念について見てみると、「むちゃう米」は強意の「むちゃ(無茶苦茶)」と「米」とをくっつけたダジャレであると考えられます。
そのため、上の表のように、「むちゃう米」も、「めちゃう米」と同じく、「すごく美味しいお米」という意味内容を有するものであるといえそうです。

 ▷「めちゃう米」と「むちゃう米」の比較

さて、「めちゃう米」商標と「むちゃう米」商標につき外観・称呼・観念の3要素を比較してきました。
3要素から判断する場合には、これを基に、冒頭で示した判断基準、すなわち、「両商標が同一又は類似の商品(例えば米)に使用された場合に、それらの出所(提供元)につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否か」という基準から2つの商標の類否を判断することになります。

「めちゃう米」商標と「むちゃう米」商標の類否は、肯定されるでしょうか、否定されるでしょうか?

どう思いますか?

■ おわりに

というわけで、商標の類否の3要素にも、それぞれ着目される理由があり、その理由が商標の類否の判断基準・観察方法と結びついていることを整理してみました。
特に注目せずとも問題のない内容ではありますが、整理がわかると3要素も少し色づいて見えるのでは?と思い、このnoteを書いてみた次第です。

ちなみに、商標の類否判断における重要な事情として、上記3要素以外に「取引の事情」があります。
この「取引の事情」が商標の類否判断においてどのように考慮されるかが気になる方は、以下の雑誌記事もチェックしてみてくださいね(宣伝)。


  • 雑誌記事「画像比較ですっきり理解!『知財侵害』回避のための着眼力 第4回 商標の類否判断における取引の実情とパロディ商標」(ビジネス法務2021年1月号)


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