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改札前で悶々としている男女

終電間際の改札前で、こんな男女を目にすることがある。まだ帰りたくないとは決して口に出さないが必死に目で訴える女。無言でただひたすら男を見つめ続ける。ジリジリと強い視線。なぜかうっすら涙目。アイメイクが崩れて、上目遣いが怖い。
男はこの状況にすっかり飽きてしまっていて、女の視線をなんとか交わすように天を仰いで嘆息する。もしくは、駅の柱などの模様をじっと見つめて耐え続けている。側からみるとなんなんだこの戦いは?!と思う。周りを見渡すと、そこにも、あそこにも、同じような男女が次々と発見できる。悶々とした空気がすごい。こういう生き物が生息している地域にわたしが迷い込んでしまった感覚に陥る。しばらく立ち止まりどう展開するかを観察してみるのだが、数分経っても状況は変わらない。いよいよ終電時刻も迫ってくるので、わたしもその場を後に改札に入らないといけなくなる。今夜はまだ帰りたくない女と、今夜はもう帰りたい男。果たしてどちらが勝つのか?!今夜もどこかの改札前で、男女の戦いが繰り広げられるのだろう。
#創作大賞2023 #エッセイ部門