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がんばれ森川君2号の思い出

あなたはPS1のソフト「がんばれ森川君2号」を知っているだろうか。「AI(人工知能)を育てるゲーム」なのだがわたしは当時まだAIの概念すらよくわかっていなかった。OPで開発者の森川さんがこどもにもわかるよう説明してくれて何かすごいものというのはわかった。「教えたら自動でやる」そういうふうに理解したと思う。今でこそAIが実用される世の中だけど、20年以上前にゲームでこれを出すのはそうとう時代を先取りしていたなと思う。

PS1は実験的、前衛的な作品が多く(シーマンとか、せがれいじりとか)しかも今ほどネットも普及していなかったので買いたいゲームに出会うのが大変だった。だからゲーム事情にそんなに詳しくないわたしにとってゲームを買うのはわずかな情報とジャケ買いに近い状態での買い物だった。

中1くらいのときはごくたまに街のゲーム屋さんに車で連れて行ってもらってめぼしいソフトを選ぶのがゲームの主な買い方だった。そんな中で森川君2号ことPiT(Pet in TV)は丸っこくてかわいくて、名前のてきとうさ、そして粗いポリゴンのへんないきものに惹かれた。帯の「母性本能くすぐりゲーム」という文を無邪気に信じてレジに持って行った(当時は知る由もなかったが森川さんは幼児期に夢中になった伝説の実験的前衛子供番組ウゴウゴルーガに関わっていた人だった。自分の「嗅覚」はたしかだったといえるかもしれない)。

ウンコをたべるな

生まれたてのPiTは何にでも好奇心を示しアクションを起こすので、それがいいかどうか評価してあげないといけない。というかプレイヤーは評価と目標物を指示することしかできないのだ。PiTが花や無害な動物に近づいている時は安心だが、危険なオブジェクトやそこら中にあるウンコにインタラクトしたときはピリッと緊張感が走る。
PiTはウンコが食べ物ではないとか、臭いとかを知らないので嗅いだり食べたりして気絶し、すごく嫌がって家に帰ってしまう。そういうことが少なくなるようにプレイヤーはウンコへの適切な対処を教えないといけない

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1回や2回教えただけではプレイヤーが望むウンコへのアクションはなかなかやってくれない。お、そろそろウンコを食べずにやり過ごせるようになったな!えらいぞ!と思ったらこんどは嗅いで気絶する。なんともままならないゲーム、それが頑張れ森川君2号だ。でもAIとはいえ意思のあるものと付き合うのはだいたいままならねぇよな。

イノセンス、それは…

誘導してステージを進めたり、ほめたり、ウンコを食べては気絶して帰宅されたりを繰り返すうちにPiTは成長する。いつのまにか腕力と脚力が上がっていて、押せなかったブロックを押したり、飛び越せなかった場所を通過できたりする。ここまでくるとPiTの成長はもちろん、プレイヤーの忍耐力もそうとうなものだと思う。あなたはすごい。
腕や足の力があがるとちょっとした弊害が起きる。PiTが無害ないきものの命を図らずも奪ってしまう。もちろんあえてそういう乱暴者に育てることもできるが、いままでいきものを撫でて喜んでいたPiTがふとした弾みで撲殺するのはなかなか心にくるものがある。撲殺した後に「意見を求めている」といつもの定型文がでてくる。こいつは良くも悪くもピュアなのだ。PiTには倫理もクソもなく自分に危害が及ばない限り指示された行動が「正解」なのだから。
そのあとPiTには動物を「触る」ように教えなおした。

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嗜好錯誤

がんばれ森川君2号はAI育成ソフトにゲームの体をさせたものなのでゲーム部分を追うとどうしても次から次にオブジェクトを指示して世界に落ちているAIチップを拾うことを急ぐことになる。当時わたしはそのあたりをわかっていなかったのでアイテムを拾うためにPiTをかなり急かしてしまったと思う。その結果かどうかはわからないが、BGMを流すことをあまりしない子に育ってしまった。だからTwitterのフォロワーからOSTの存在を教えてもらうつい数日前まで全部のBGMを聞いていなかったと思う。その点はPiTに謝りたい、遊び心のない親ですまなかったね…。

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そしてクリア

クリアの条件はたしか世界に落ちているすべてのAIチップの取得だったと思うが、拾うためにはPiT一人で挑まないといけない(プレイヤーが指示することのできない)エリアをクリアする必要があった。いままでの学習を活かして障害やオブジェクトに適切に対処できるかどうかのテストみたいなものだと思ってほしい。わたしのPiTは確か、腕力も脚力も最高まで強くなっていたので大体の障害を飛び越えてクリアしてしまった…。川も、段差も、木も。たくましくなったな…。
ちなみにクリア後の要素は「じぶんでパラメーターを調整したPiTを作れる」のと黄金のスキンでした。さすがにじぶんの忍耐力を休ませたくなってディスクをプレステから取り出した。

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