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《第16話》昆虫界の唯一無二な存在 -福井 敬貴- 「1/1ゴライアスオオツノハナムグリ」

ソータ(@SOTA170317)がカプセルトイでいかにリアルに生物を表現できるかに挑戦している「アニマリエコレクション」
その中でも昆虫シリーズの第2弾【1/1ゴライアスオオツノハナムグリ 】が発売発表となりました。
 
前回【1/1フンコロガシ 】の監修を依頼した【福井 敬貴】さん(@fukuinsect)に今回は原型製作から監修までをお願いしました。

1/1エンシフェル (紺)
1/1ケンランタマオシコガネ



【標本製作師】という一般的にあまり馴染みのないお仕事。
美大を卒業後、他にも昆虫に関わる様々なお仕事を手掛けられている福井さんに、お仕事の内容や昆虫への想いについてお話しを聞かせて頂きました。
 

福井さんがメインでされている仕事が、【標本製作師】という研究者やコレクターの方から依頼を受けて「昆虫標本」を製作するお仕事です。
その中でも特に福井さんが評価されているのが「展足」と呼ばれる技術で昆虫の脚や接触を左右対称に整え、綺麗に開いた状態で見せることで昆虫をより正確に観察することが出来ます。


「 展足 」


その展足を応用させたものに「立体展足」という技術があり、昆虫があたかも躍動して生きているように標本にすることも出来ます。

「 立体展足 」


 
特に福井さんにこの技術があり、節足動物の関節の動きを熟知しているからこそ、昆虫フィギュアを作る際に、「どのように表現すればリアルに近づくのか」を知り尽くしていると言えます。
 
その他にも書籍の出版や昆虫における展示協力なども手掛けておられます。共著で書籍を出版させていただいたこともある九州大学総合研究博物館の「丸山宗利」さんの影響を受けて昆虫の素晴らしさを伝えていくことの大切さを実感しているとの事。

■ BRUTUS No.952 珍奇昆虫 (協力)



■「とんでもない甲虫」(幻冬舎)丸山宗利・福井敬貴 著


■ 21_21 DESIGN SIGHT「 虫展 -デザインのお手本― 」(企画協力)


「 虫展での展示物 」


 
またアーティストとして作品の発表をおこなう福井さんの代表作に「I think」シリーズがあります。ダーウィンが描き残した系統樹のスケッチを立体に起こし、多様性を象徴する標本群を配置する作品なども手掛けられています。

「 I think 」

 特に話しをお伺いしていてすごいと思ったのが一度も就職したことがなく卒業後、すぐにフリーランスで活動されたとの事です。
大学卒業してからできるだけ楽して、遊ぶことばかり考えていた僕と人生プランの違いに感心しました(笑) 

また彫刻家・佐藤正和重孝さんの影響を受けて、多摩美大の彫刻科で金属鋳造で昆虫モチーフの作品の制作をしておられました。現在、造型に関しては主にZブラシ(3Dモデリングソフト)を使って製作されています。

「 学生時代の作品 」


よく色んな作家さんにアナログからデジタルへ移行したときの苦労をお伺いするのですが、元々手原型をされていた方は、元々頭の中での立体把握について訓練されているので、比較的すんなりデジタル上でもスキルの高い造形物をいきなり作ってしまうことが多いですね。
今回、福井さんに初めてデジタル原型を製作して頂いたのですが、細部までよく作り込まれており、商品化して全く余りあるものでした。

「 3Dモデリングで製作したゴライアスのデータ 」


 

3Dモデリングについての印象


「手原型だと粘土や木彫の製作過程で必ず粉塵が出てしまいます。標本を参考にしながら作るのでどうしても標本が傷んでしまっていたのですが、3Dモデリングに変えてから大幅に改善されたことにデジタルの良さを感じています。

また昆虫はシンメトリーの部位が多く、片方だけ造形し、反転技術を使ってモデリングすれば手原型よりもかなりスピーディーに作ることができる相性の良さを感じています。」

昆虫を専門に製作している福井さんならではの視点で《そんなメリットがあるのか》と新たな発見でした。
 
他社を含めて昆虫フィギュアの監修を何度かされていた福井さんですが、今回初めて造型も手掛けられた事で今までの監修との違いについても語って頂きました。

「フィギュア監修への限界を感じていました。伝えることの難しさを実感しており、それならば自分で作ったほうが早いのではと思いました。」
 
それまではデジタル造型の技術を全く持っていなかった福井さんですが、SO-TAの依頼を受けて自身でモデリング技術まで身につけ、しかも商品化できるディティールにまで持っていくのは、元々あった手原型の技術が存分に活かされていると思いました。


ゴライアスをガチャ化した想い


「今回、ゴライアスをガチャ化に選んだ理由としてはリアルな造型として商品化できる確信があったからです。
世界で一番重い昆虫とも言われていて、ハナムグリの仲間では世界最大です。カプセルトイという制限の中でいかに重厚感と迫力を表現するかが重要なポイントでした。」

「最初に3Dスキャンを試しましたが理想には程遠く、スキャンデータでおおまかなバランスを確認し、多数の標本を観察しながらモデリングを行うことで理想の形を追求したものになりました。」

3Dモデリング制作過程①


「脚や触角の太さもほぼ実物と同じサイズでデフォルメを極力避けました。
またカプセルに入る最大サイズにまで大きさを担保しました。何と言っても迫力と重厚感を重視しているのでカプセルいっぱいのサイズになってしまします。」


3Dモデリング制作過程②

「迫力のあるポージングには【展足】の技術が存分に活きています。
【展足】をおこなうにあたって軟化という作業があり、水分を含ませて脚などを動かせるようにします。
昆虫は外骨格で可動範囲が決まっており、昆虫ごとにどのように脚が動くかを細かく観察できるので、それがポージングに役立っています。」

 

3Dモデリング制作過程③

・太い脚
・同じ形で豊富なカラーバリエーション
・コレクター人気が高い
・1/1でもなんとかカプセルに納められるサイズ
・迫力のある立体展足のようなポージング

ゴライアスオオツノハナムグリ 原型
シラフオオツノハナムグリ 原型
オオサマオオツノハナムグリ 原型
カタモンオオツノハナムグリ 原型


企画は2021年12月に立ち上がり、福井さんご自身で造型を手掛けられ、ようやく今回の発表までにこぎつけました。


今後ガチャ化したい昆虫としてはゾウムシなんか可愛いだろうと思いますとおっしゃっていました。

圧巻のゾウムシ標本


昆虫への想い


福井さんのこだわりは【 空想の昆虫は作らない 】
 
必ず実在する昆虫を題材にするかもしくは昆虫そのものを使っています。
 
「昆虫のことを知ってほしい、興味を持って本物を観察して欲しい」という想いで作品や標本を作っておられます。
 
「将来は3Dモデリングを鋳造へのプロセスに繋げられたらと思っています。素材やジャンルに拘らず、昆虫の面白さを伝えたい。
そして最終的には発信するものをきっかけに本物に目を向けてもらえたら嬉しいです」

と熱い想いをお話し頂きました。
 
 
「アートと研究」それぞれの良さを「造型物と標本」の技術を使って独自の表現方法で、視覚にダイレクトに訴えかけるものをつくる福井さん。
 
アプローチの仕方にオリジナリティがあるので、色んなところからお声がかかるのもよく分かります。
 
昆虫業界で唯一無二の人でした。
そしてクールな人です(笑)
 
 

2022年 9月 2日
 SO-TA/ソータ    安藤 こうじ


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