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アジア通貨危機から25年 今は昔の話か否か(3)

ロシア制裁強化でなんとかまとまったG7が終わってみると、サハリン2の日本の権益の譲渡をロシアが迫る展開になっています。サハリンは日本からは目と鼻の先、輸送コストが割安であることもあり、LNG輸入の1割を占めます。夏以降の電力不足に拍車をかける非常に由々しき事態です。

この情勢は欧州も同じで、特にロシア依存度の高いドイツに関してはより深刻といえます。せっかくの脱炭素流れを阻害しかねず、エネルギーおよび食料大国であるロシアがグローバルトレードから欠けることの意味は極めて重く、両方を豊富に持つ米国と、日欧は立ち位置が大きく異なりますので、日欧、特に日独がどう出るのか、世界がその動きを注視していることになります。

短期的には、日本の電力需給は綱渡りが続くことは避けられませんが、長期では、原発再稼働が困難ななか、再エネに舵を切るしかなさそうです。ここは、ストックを積んだ太陽光を蓄電池で活かし、新たに海上風発、さらには、潜在力のある水素など、いわば何でもありで、乗り越えていく知恵が必要です。

さて、今回はアジア通貨危機シリーズの第3回目です。

2010年代は、アジアのインフラへの注目で、世界金融危機を乗り越えたアジアの時代が再度始まりました。しかしながら、金融危機以降の先進国の金融緩和マネーが再度注目されるようになったASEAN主要国などのアジアへと流れ込んで、成長を支えていた面がありました。

ところが、2013年に、米バーナンキFRB議長(当時、中銀総裁に相当)が、金融緩和を終了するかもしれないと発言しました。時期尚早というのが市場のコンセンサスになっていたため、ネガティブサプライズとなりました。アジアから一挙にマネーが引き上げられるとの懸念が高まり、その思惑が通貨安をもたらします。所謂バーナンキショックと言われるものです。

無論、ASEAN主要国は変動相場制になっていましたし、各国の中銀は機動的な利上げも行いました。アジア通貨危機のような通貨暴落にはならず、一定のレンジ内での通貨安に留まったのですが、通貨の弱含みは2014年まで続きました。

それでもASEAN主要国は、これらの危機を結局は乗り越えました。大国となった中国がそのアンカー役となった面があります。2013年に、習近平主席と李克強首相のツートップがASEAN主要国と中央アジアを訪問して、「一帯一路」構想を発表したことは、記憶に新しいところです。2014には、アジアインフラ投資銀行(AIIB)構想が打ち出され、2015年には発足します。

2010年代後半になると、中国は世界金融危機直後に打ち出した4兆元の財政拡大策の後遺症にも苦しみます。地方政府が巨額の借入を行いながら開発を進めましたが、投資効率の悪い案件も含まれていたことが背景にあります。それでも、中国全土は、高速鉄道網で連結されるようになり、名実ともに巨大市場になったことは確かでした。「一帯一路」構想は、その延長線上として、中国と近隣国の連結性強化に重きが置かれました。

さらに、中国は独自にデジタル化も進めていきます。そのけん引役となったのは、BATH(バイドウ、アリババ、テンセント、ホアウェイ)で、彼らはデジタルプラットフォーマーとなって、中国の内需拡大に寄与したと言えるでしょう。

そして、BATHは、ASEAN主要国にも進出していきます。中国の影響力が強まって、ASEAN主要国は、その経済と資源、中間財貿易を通じてゆるやかに連結していくようになっていきます。

2020年以降、コロナでまたしても世界的な金融緩和、2022年になり米国先導で金融引き締めとなっています。ASEAN主要国は、資金流出に身構えてはいますが、これまでの機動的な対応を学んだ経験は活かされ、影響は限定的です。米国もまた、サプライズはできるだけ避けようという配慮が従前よりは一定程度はみられることもあります。

アジア通貨危機から25年、駆け足で振り返っていきましたが、格付け会社のASEAN主要国の格上げが示すように、経済の足腰は強くなり、手(中銀の手腕)もまた巧みにかつ素早く動かすようになり、アンカー役として中国という存在もできました。この辺りが、変わった点でしょう。

ただし、変わらなかったこともあります。ドルが実質的なアジアの基軸通貨であり続けていることです。有事には、ドルを保有しているかどうかがものを言います。ユーロを持つ欧州とは、決定的には違います。対米依存は続いているという見方はできます。

さらに、強過ぎる中国へのリバランスとして、米国、およびその同盟国の日本への期待は高まっています。

これから25年後、私は、アジア通貨危機50周年というコラムを書いていれば、どのような内容になっているのか、2047年の姿をいずれ大胆に予想してみたいと思いますが、少なくともこの25年間で、アジアはかなり立派に成長して、危機への耐性が高まったのは確かでしょう。




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