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アジアのサプライチェーンはどうなる(4)インドへの生産移管の考察

クアッド、IPEFに参加しており、民主国家として、俄かに注目が集まっているのが、アジアのもう一つの大国であるインドです。
日本企業としては、同国が米国との関係が良好さを維持できるどうかが、ポイントといえるでしょう。

インドへの生産移管について、米印関係の視座で
まず、安保面考えてみましょう。
安保では、脅威になるかどうかがポイントです。

インドにとっての脅威は、隣接するパキスタンと中国と言ってよいでしょう。米国にとってはインドは脅威とは言えないでしょう。米国は中国が脅威と明言するようになっています。したがって、米印は、安保面では、協調関係といえそうです。クアッドは決して「だて」ではありません。

他方で、インドは、防衛装備の半分程度がロシア製(出所:ストックホルム平和研究所)とされており、加えて、ロシアらの調達はルピー建てである(出所:元駐日インド大使)ことが知られています。ドル不足のインドにとって、当該分野で、米印が連携できるかどうかは不透明です。

米国からすれば、インドが権威主義の方にに行かず、米国側寄りにいてくれればよい、それだけでも、パワーバランス上は優位に立てるというスタンスではないでしょうか。あちらにいかれて、一時的に世界の耳目を集めたBRICS集結の中核になられたりすると、少々困るということでしょう。

ただし、インドの現政権は、マジョリティのヒンドゥをやや重視する傾向は否めないという見方はありますので(以下参照)、本来は人権問題などの点では、懸念も内包しているようには思います。

https://www.wsj.com/articles/india-handle-with-care-modi-china-russia-narendra-democracy-hindu-america-blinken-11654539987

 

次に、経済(主に貿易)面ですが、インドは幸か不幸か、財貿易においては米国との貿易摩擦を起こすほどの輸出競争力を持っていません。そのため、米財務省が半年ごとに公表する為替操作国認定などの圧力もほぼありません。サービス貿易では一定の存在感があり、米国の雇用をインドが奪っているという指摘は少なからずありますが、総合的には、経済面でインドが米国の脅威になるリスクは、低いといえるでしょう。

上記をまとめると、確かに、安保、経済(主に貿易)、両面で、インドへの生産移管は、大きなのりしろが広がっているようにみえてきます。

課題は、インドのインフラであり、中国が3年できることを、ASEAN主要国で10年かかるとすれば、インドでは数十年かかる・・・かもしれません。インドでは、例えば、最大の商業都市のムンバイとモディ首相のおひざ元であるグジャラート州の州都アーメダバード間の新幹線の計画がありますが、完工時期はなかなか見込めまていません。背景には、土地収用が困難であることがあります。

しかしながら、曙光はあります。インドへの生産移管に積極的なのは台湾勢で、台湾系EMS(製造業受託生産)の大手はインドシフトシフトで先行しており、そこには、米国も載ってくる流れができる(できつつある)かもしれません。既にIPhoneの中低位機種は、インドで生産されるようなっていますし、インド政府も、少なからず、製造業振興をサポートしています。課題のインフラも、デリーの地下鉄は東京並みに延伸しとり、土地のしがらみがなければ、伸びていく素地はあります。
 
結論としては、安保面では強権側に行かないように、米国はインドを引き留め、脅威を共有する点では協調が続く目算。経済面でも、脅威にならない。インフラに課題があることは変わらないが、EMSが流れを変える動きをみせる点は期待できる。というところでしょうか。

 日本企業にとっては、インドは、自動車、重電、医療、保険など、特定分野の関与が目立ち、エレクトロニクスでは、あまり人気があるとは言えません。マクロ経済には脆弱性が残り、為替も変動幅は大きいといえます。それでも経済安保の時代、消去法で考えると、インドは残ってきそうです。他方で、RCEPから離脱するなど、保護主義傾向が目立つ、独自路線も目立つインド。同国とどのように付き合っていくのかは、長く続きそうな経済安保時代の宿題といえそうです。

以下ご参考まで。


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