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通商白書の裏を読む サプライチェーン強靭化と産業政策復活は叶うのか

7月も後半に入り、個人的にはようやく講義の着地のタイミングとなってきました。少なからず、院生・学部生個々人にとって役にたってくれるとよいなと切望しています。テキストはそこそこに、映像コンテンツや企業のHP上の公開報告書を使って、内容を視覚的かつ、実際に企業がどのように活用しているのかの流れを理解できるように努めました。

感覚的には(あくまでイメージです・・・)、平面を超えてディスニーランドのフィルファーマジックのような立体感を目指し、アンケート(今は、教育支援ソフトのおかげで、瞬時に実施できます)からは、少なくとも現代版の講義に少なからずなったと感じてくれた学生がそれなりに居たのは励みになりました。

さて夏と言えば、私が毎年度着目しているのが、通商白書。先月公開されており、既に概要を確認された方もいらっしゃるかと思いますが、2022年度版は、ウクライナ侵攻により、まさにテールリスク(まれにしか起こらない想定外の暴騰・暴落)のオンパレードともいえる冒頭の分析となっています。

https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/pdf/2022_gaiyo.pdf

詳細は、各自でご覧いただくとして、私としては少々、METIの立場に立って裏読みしてみたいと思います。

まずはサプライチェーンの強靭化についてです。強靭化の遡及は、2011年の東日本大震災、タイ洪水以降年々高まり、2017年のトランプ政権発足(当時)以降、米中摩擦が先鋭化してその要因が強まりました。今回、少なくとも機微分野については、共通の価値観持つ国•地域にサプライチェーンを寄せるべきというトーンが強まっているように読み取れます。これまでは、共通の価値観のない国・地域があっても、「指導」・「注意」レベルでしたが、今回は、経済安保促進法が国会を通過し、施行を待つのみの段階です。フレンドショアリング的な動きにそぐわなければ、「警告」さらには、「反則負け」もあり得るレべルに、引き上げられたとみることができます。

次に、産業政策についてです。
これは、中国のお得意分野です。中国でどの産業に政府補助金が入っているか、力の入った分析がなされています。これは、恒常的にマンパワー不足になっている民間シンクタンクではなかなかできず、人を集める力のある官庁でない流石のリサーチです。半導体、電池などでは、それに触発されて、米国、さらに欧州も多額の補助金を投入する動きがあることは事実です。日本国内に、日本も国家主導の産業政策・・・そういう声は、少なくともメディア上では散見されます。METIの産業政策に巻き返し、やる気、本気を感じさせる分析との見方はできます。

ただし、産業政策は、1960~70年代に、うまくいった時代はあったことは事実ですが、日米貿易摩擦が激化した1980年代以降は、諸圧力の中で日の目を見なかった案件は少なくなく、学術的な検証もなされています。官が強く参画すれば、航空機を日本は世界に送り出すことはできるのか?アジア新興国で完成した大規模工業団地、クーデターが起きても、官が入っていれば問題ないのか?これらは、いずれも官の資金が少なからず入っており、厳しい結果は出ています。慎重を期す場面も必要というのが筆者の見解です。

中国は、土地が国有であり、その土地を事実上管理しているのは地方政府。地方政府は、土地開発で収益を上げて、それを産業振興資金にしている面がありますが、失敗すれば地方政府債務を抱えます。その綻びが、随所に露呈しているように見えることも、産業政策の陰の部分として見ておく必要があるでしょう。

最後に、ASEAN・インドへの関与についてです。
中国とASEAN・インドの貿易は、付加価値貿易でみても、着実に中間財が伸びてます。米中貿易をみても、中国は付加価値貿易でもハブになっており、これは、中国が、事実上、ICT貿易の中核であることを意味しています。

日本がASEAN・インドを重視しても、それはあくまで表層に過ぎず、結局は中国とASEAN・インドの関係重視につながることになります。そのため、付加価値の高い部品をASEAN・インドで振興できるかどうかがカギです。そのような令和型誘導が、上記のサプライチェーン強靭化や産業政策の復活と絡んで可能なのか、それとも昭和型アプローチに過ぎないのか、決まるのはこれからです。

皆さま、是非、通商白書を深読みしていただけますと幸甚です。

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