短編小説 ツイてる自分は欲しかった自分?
あなたは、今日ツキます。
月を手に入れたあなたにほんの些細なツキを堪能してください。
月はそう話していた。ついてない自分にツキを作れるのだと。本当か?嘘つけ、きっと眠たくて夢見てるんだ今。
もう一度寝ることにして、俺は月を置いて寝た。
目が覚めるとそこには月は無かった。夢だなと確信を持って、今日も背広に腕を通して、重苦しい時計をつけて、見たくもないスケジュールを眺めながら、乗りたくない電車に乗るんだなと、起きたての頭はもうネガティヴだ。
家を出て電車に乗る。
満員電車でしんどいだろうなって思った中、目の前の席が空いた。
おっラッキーと思いながら座らせてもらい、今日のスケジュールを見ると朝最初の予定が人事異動に関する説明という予定に変わっていた。
あれ?こんな時期に異動?誰だ。俺か?もしかしたら
そうこうしてるとエレベーターは止まり、目の前に現れたのは辞表を出したはずの後輩だった。
先輩おはようございます。
そういうと彼はボタンの前に立ち止まった。
辞表、通ったのか?
そう聞くと彼はこう言った。
自分のミスで辞めるって、なんか幼稚だと思って、もう少しやってみたくなりました。先輩がクライアントに頭を下げてくれて、俺も後輩のために頭、下げれる人になりたいんで。
それを聞いて自分は顔面に突然水をかけられたくらい、びっくりした。
俺の知る限り、そういう事を考えず、辞めると思っていた。
まあでも、穴埋めや引き継ぎのこと考えると、まあ良かった、のか。
そして箱から出てみると人事異動の件で周りがざわついている。
人事異動は俺だった。
しかも念願だった、エリア部長だ。
すると後ろから大きな手が俺の肩を掴んできた。
えっ。社長?
社長は俺のことを高く評価してくれていた。
何より、後輩を庇い、頭を下げている自分を見て、この異動を決定付けたという。
今日は引き継ぎだけで仕事は終わった。
この気持ちを伝えたい人、自分はスマートフォンを取り出して、トーク画面を開く。
するとそこには
別れる
その一言だけが書かれていた。
電話をかけたが返事もなく、何を何度送っても、既読もつかないトーク画面を、ただただ眺めているだけだった。
ツイてるんじゃなかったのか。
夢の話をふと信じた自分が情けない。
所詮夢だ。たまたま、昇進しただけで肝心なことはダメダメじゃないか。
家に着き、鍵を回し、扉を開けて、靴を脱いで、電気をつけると、
机には月があった。
ビー玉サイズの月。
どうでしたか?ツイてましたか?
ツイていたか。わからない。
もし、彼女との別れがツキによるものなら、じゃあどうしてこんなに心は苦しいのか。
昇進したのに嬉しくないのか。
ツイってなんなんだ。
ツキというものは人によって様々です。あなたはこれから、彼女との別れをあれはツイ出たんだな思う日が、来ると思います。
お世話になりました。あなたの心にいつも満月がありますように。
月は消えた。
そこには何もなかったかのように。
月、ツキ
ただの洒落か。
完
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