短編 寝顔
寝顔とは不思議なものだ。
疲れてる時は少し眉間にしわを寄せ、いい夢を見れてる時は口がほくそ笑み、
時には口を開けていて羞恥というものはどこへ行ったものかと考えさせられる。
彼女の寝顔も様々な面を見せてくれた。
先に説明すると、彼女はよく眠る子だった。
夜眠りが浅くちょっとしたことで目を覚ましたり、今考えると、カフェインの影響とか、不安障害とか、あったのかなとも思う。
電車の中は手を繋いでぐっすり、家で遊んでいる時も大体夕方頃(仕事の休憩時間が大体そのあたり)に私の布団で、すやすや眠り、電話の途中突然寝ては寝言で会話をしたり、仲良くさせてもらっていた当時から居眠り姫だなと私は心の中で名付けていた。
その姫さんはある日、休憩時間に私の膝で仮眠を取った。
よく言う膝枕、よく考えると彼女にしてもらうより、彼女にしてあげることが多かった気がする。
そしてその時も寝ていたが、彼女の寝息を私はただただ聴きながらスマホを触る。
今なら本を読むかもしれない。
そして約1時間くらいだろうか、彼女は目覚めた。
寝るつもりはなかったけど気付けば寝てしまったと言いながら目を覚まし身体を起こした。夢を見ることもなかったらしい。
彼女の寝ていたところには大きな円の紋様があった。
よだれですね。
彼女は謝ってきたが私は笑って許した。
それだけ心地よく、夢を見ることもなかったこと、よく寝てくれていたことが私は嬉しかったのだ。
そして彼女また仕事に行く。その背中に対して、私は頑張れという言葉を手の中で強く握った。
今、その背中を私は追いかけてるのかもしれない。
社会に出ることも遅く、私よりも先に先に走っていく彼女。
今も前を走り続けてくれている、と思うし、願う。
私は最近やっと、一度大きくつまずいて、手を借りることなく自分で立って、また走り始めた。
ただ、前と違うのは、真ん前を走っていたはずの彼女が、少し斜め前の違う道を走ってるということ。
その道走り続けてればまた交わるのか。
走ればわかる。
たまに昼寝しながら、私は、走り続けよう。
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