MOTを知る特別講座2019 「多職種連携のためのコミュニケーションデザイン」 聴講メモ
○MOTについて
https://school.nikkei.co.jp/special/mot_tit/
○講師
環境・社会理工学院 教授 西條美紀
○序論
・多職種=色々な職種
→組織内ではなく組織外の連携のことを言う
・コミュニケーションデザイン
→元々アカデミックな言葉ではなく広告業界で使われていた。
→コミュニケーションをしない人はいないが、それをある程度定量的に使ったり、
世の中に変化を与えていく。
アカデミックな理論と実践的な側面を併せ持つ。
・今日のテーマ
・MOTにおける多職種連携の位置付け
・多職種連携のキモは疑心暗鬼の解消にある
・疑心暗鬼はどういう時に生じるか
・コミュニケーションデザインとは?
・目的をデザインするとは?
→コミュニケーションデザインにおいて大事な部分
広告業界と定義が違う。多職種連携では目的の構築。
多職種連携の失敗は目的の構築失敗がほとんど。
・どういう目的で
・誰がどうなって
・目的が達成されたことをどうやって測るか
・ケーススタディ:多職種連携の意見交換会のデザイン
・価値観の違いは調整できない。人は変えられない。
→人の目指す方向、一緒に働く目的は作ることができる。
差がある正義感を持ちながら、どうやって協働していくか。
・社会言語学とは?
・言語学:1文までを扱う学問。
・社会言語学:文が連なったものを扱う学問。
→人が話す時に「どういう言葉を使って」「どのように工夫しているか」
メタ言語を使って考察してみた。
・お茶大から東工大へ来たら周りは理工系の研究者ばっかり。
→理工系は発話の意味は自分が決められると思いがち
→発話の意味は相手が決める。それがコミュニケーション。
→自分は当たり前と思っていたが、そうではないと分かって面白いと思った。
技術をどうやって社会に根付かせていくか、
・エンジニアは役に立ちたいと思っている。
→自分が作ったり設計したりしても人に使われないと意味がない
→人がどう使うかまで考えるのは難しい。
→シーズがあっても中々ニーズとマッチしない
→エンジニアがそういうビジネスを考えられるようにしたい
→ESDコースを作った。
○多職種連携のMOT
・技術経営:技術を事業に結びつけ、経済的・社会的価値を創出するマネジメント
・多職種連携:組織内外の複数の専門職が協力して目標に向かうこと
・これらを合わせる
→特定の目的に向けた技術の事業化が複数の専門家の強力によって実現し
経済的・社会的価値を創出できるようにマネジメントすること
・多職種連携の道のり
・問題の可視化
・目標の設定
・ターゲットユーザーの設定
・技術のユーザービリティ評価
・事業組織の検討
・コミュニケーションとは?
・コミュニケーションとは意思疎通?
→意思疎通はできないと思う
・発話の意味は聞き手が決める:コミュニケーションの基本
・意味や意義を話し手と聞き手が共同で構築する
・文脈なしには成り立たない
・文脈あれこれ
・今皆さんはこの話を真面目に聞いているのは
皆さんがお金を払って何かを得ようとしている。目的が共有されている。
だからこの講義が成り立っている。一般の立ち話より価値が高くなる
→これが文脈。
・話し手と聞き手のバックグランドは異なる
→導管メタファーは起こらない
・共同構築モデル
→発信者が意図していない意味も受信者によって付与されうる(意味は受信者が規定する)
→双方向で意味を調整・構築する
→私が言ったことがそのままみなさんに届くことはない
→aをいろんな見方で言ったり、「これはどうですか」と問いかけたり意識的に働きかけ
その場で共同の意味を構築していく。
・普通のコミュニケーションはなぜ上手くいくのか?
→ほぼ文脈が決まっているから
→コンビニで買うのは言葉少なくても済んでしまう。
→同じ職場の人も文脈が近いので伝わりやすい
→違う職種では共同の文脈が少なく、中々伝わらない
「なぜ伝わらない?」ではなく「伝わるのは貴重」
・グライス 会話の皇潤
①量の公準
②質の公準
③関係性の公準
④様態の公準
→これを満たすことはできない
・会話はCP(Cooperative Principle:協調の原則)に則って行われるという前提
・CPとは、会話参加者は会話の目的、あるいは一定の方向に向かって
トークの交換するものであるという考え方
・会話には含意(言外の意味)があるので公準が守られていなくても会話は成立する。
(車が動かなくなってBに近づき)
A:I am out of petrol.(ガス欠だよ)
B:There is a garage round the corner.(あそこにガソリンスタンドがあるよ)
→どの公準に違反するか?(グループワーク)
→今やったことが共同の意味を構築するということ
→協調の原理は満たしている。がグライスの公準は満たしていない。
(会社の廊下で)
A:あ、これから会議なんですけど、会議室の鍵、
持ってませんか。いつもの所になくて。
B:持ってます。でも、持ってますけど、持ってないんです。
→違和感はあるが、ある意味公準は守っている
→Bは協調の原理に反している。どのように反しているか(グループワーク)
→Aは鍵自体を求めている。だけどBは自分が所有しているかどうかを答えている
助けてほしいというAの求めに対して答えていない。
→Bはちゃんと答えている。が、Aの含意に答えていない。(Bはエンジニアだった)
→間違ったことは言っていないのでグライスの質の公準は満たしている。
・コミュニケーションで一番大事なのは「協調の原理」
・コミュニケーションデザイン
= 文脈が顕著に違う間柄での問題解決
○コミュニケーションデザイン定義
・何のために誰にどうなって欲しいのか、誰に何をさせたいのかを明確にし、
そのための方法を考案して実行し、結果について考察して目的をフィードバックしていくこと。
・文脈を共有しない間柄で協働の目的を構築することで問題を解決するサイクルのこと。
・GPIOサイクル
目的(G):何のために
計画(P):誰にどうなって欲しいか、どうしたらそうなるか
実践(I):方法を考案して実行
考察(O):目的を達成できたか。次に何をするべきなのか。
・GPIOに基づいた自己紹介(1分スピーチ)(ペアワーク)
・相手にどうなってもらいたいかを常に考えており、巨万の富を気づく職業
→詐欺師。談話管理的。
・オレオレ詐欺:相手から100万円を引き出すのにかかる時間1分44秒。
→巧妙に談話が管理されている。談話管理にはそれだけの力がある。
→詐欺は悪しきことだが、良きことに使えば社会をよりよくできる。
・2025年の高齢化問題
・全人口の30%は高齢者
・ベビーブーマーの虚弱化予防が社会的な問題
→高齢化しても虚弱化しなければサスティナブルな社会となる
→このままでは上手くいかない
・要支援1-2:排泄や食事は何とかなるが、身の回りの世話が必要
・要介護1-2:排泄や食事もおぼつかなくなる
・要介護3-5:歩行・移動が困難になり、理解の低下や問題行動となる
・虚弱化予防は介護士に任せているだけでは上手くいかない。
多職種連携で何とかしないといけない。
虚弱化予防はこれからの日本にとても大事な問題
・住民サービスを考える人は皆考えるが中々打ち手がない。
・掛川市の例
・行政が市民を巻き込んでいろんなことをやっている
→掛川モデルと言われ、いろんなところで参考にされている。
・高齢者割合は30%を超えている。虚弱化予防を何とかやろうとしている。
・地域健康医療支援センターを作った
医療、保険、福祉、介護を一つに集めてワンストップセンターを作ろうとした
→背景としては医師不足。
一次医療:コンビニ化。二次医療:労働条件の悪化
・「地域包括ケアシステム」を作る
→概ね30分以内に駆けつけられる圏域で、個々人のニーズに応じて、
医療
・どうやって共通の目的を持つか?
・それでやったのが意見交換会。
・H25年に掛川市と福井市の市立病院の統合。
→市民にとって良い施策と思い反対を想定されていなかったが、行政のありきの計画と反対された。
・東工大に何とかして欲しいと依頼がきた。
・何が問題なのか住民にヒアリング
→「疑心暗鬼を解消したい」
・理念を共有していても疑心暗鬼があると物事は進められない
・「疑心、暗鬼を生ず」の略。疑心が起こると何でもないことまで恐ろしくなる。
・疑心暗鬼はどういう状況でなるか?(グループワーク)
ケース1
・上層部が良かれと思った提案
→裏があるのでは?と思われる。
・状態の非対称性
→上層部はもっと情報を持っているのでは?
→対称はあり得ないが「非」を広げないことが大事。
→想像力の欠如
Goalの問題
ケース2
・クライアントはいつも自分は正しいと思っている
→提案する側は知恵をしぼる
→結果は達成したが、損が残る
Planの問題
ケース3
・人事評価の変更
→いいこと書いてあるが難しい
「実はコスト削減が目的?」と思われる
→何をどう伝えるか?
Implementの問題
・掛川市の場合
・職種の違う参加者でグループを作り意見交換会
→市役所、医者など。
→失敗すればリスクが大きい。賭けの施策。
・最初に5分部長が話す
→これは業務なので真剣に話しましょう、という文脈ができる
・経緯説明
・アイスブレイク「自己紹介」「掛川の好きなところ」
・誰にどう見られているかということを可視化する
→想像力が欠けているのだから可視化する
・6事業主体の課題
→当事者が思う課題と他者が思う課題を付箋に貼っていった。
→大事なのは「1個の付箋に1個のことを書く」
・センターの概要説明
・意見交換会はとても成功した
→いきなりセンタの説明ではなく、
アイスブレイクと6事業主体の課題可視化を先に行ったから。
アイスブレイクも非常に大事。
・問題意識の共有
→問題意識をマッピングする
・課題の共有
・コレスポンデンス分析
To行列とFrom行列
「Rで行うコレスポンデンス分析」が詳しい
・1年後にどうなったか
→以前よりも問題意識を共有している。
→一定期間に渡って同じ調査をすることで、状態を時系列に観察できる。
・多職種連携のコミュニケーションのために、疑心暗鬼の本質は何か?
・現在のふくしあ
→市内5箇所に設置され厚生労働大臣優秀賞を受賞した。
・課題を可視化して一つずつ対処していった。
○まとめ
・多職種連携のためには、問題の可視化の中から当事者が共通の目的を設定することが必要
・問題の可視化のためには、コミュニケーションデザインという考え方と
付箋紙法やコレスポンデンス分析といったスキルが大切。
・多職種連携によるMOTにはこのほかに、ターゲットユーザーの設定や技術ユーザビリティ評価も必要。
・時系列で記録することが大事。効果が測定できるようになり、以前の課題に戻る必要もなくなる。
・問題の可視化と課題の可視化とアーカイブ。
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