【一輪劇場】紅色のゴミ袋(3枚)
登場人物
吾妻理子(13)新中学一年生
小森一馬(27)新米教師
○学校のゴミ置き場
吾妻理子(13)と小森一馬(27)がゴミ置き場を背に並んでいる。
スーツ姿の小森は両手にスイートピーの詰まったゴミ袋を一つずつ持っている。げんなりした顔をしている。
セーラー服姿の理子は左手に同じゴミ袋を一つ持っている。
小森 おかしいな。ゴミ漁り犯を注意していたはずなんだけど
理子 ミイラ取りがミイラになる、です
小森 え、これどうするの
理子 うちの花屋に運びます
小森 これ全部?
理子 全部ドライフラワーにして、売り物にします!
小森 ……あ、そうなんだ
理子 ……なんですか?
小森 こんなに沢山ドライフラワー作るの大変じゃない?
理子 全部縁側に吊るします
小森 血みどろのナイアガラみたいになりそう
理子 文句は受け付けていません!
小森 あと、卒業式の飾りだったものを売り物にするのはどうかと
理子 一度飾っただけの花を捨てるのもどうかと
小森 うーん、まあ、ねぇ
理子 スイートピーの花言葉を知っていますか
小森 知らない
理子 今日もうだつが上がらない、です
小森 え、うそ
小森、スマホで調べる。
小森 いや「門出」じゃん
理子 お父さんが言ってました
小森 それ盛大な皮肉だよ悲しいな
理子 先生、「うだつ」ってなんですか
小森 ん、「うだつ」っていうのは防火壁のことで、建築費用が高いから、富の象徴という
理子 えーっと
小森 あー、つまり
理子 いつまで経っても副担任から抜け出せないってことですか
小森 ん? 的確だな?
ビニール袋に詰め込まれたスイートピーがドアップに。
理子 まあ、めげるな
小森 教頭先生と同じこと言うね、吾妻さん。(早口で)あと憐れむような目でゴミ袋の中のスイートピーを見つめないでほしいな
理子 失礼しました
小森 うん
カメラ、引き。
小森 まあ、僕も毎年もったいないなとは思っていたんだ
理子 訴状案件ですね
小森 君さっきから語彙が小六じゃないけど
理子 中一です!
小森 春からだけどね
理子 制服も着ています
小森 うん、似合っているよ
理子 ほんとですか!
小森 なんだか、君とは今日でお別れって感じがしないな
〈了〉
毎日コメダ珈琲店に通って執筆するのが夢です。 頂いたサポートはコメダブレンドとシロノワールに使います。 よろしくお願いいたしますm(_ _)m