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【シナリオ】額縁に窓を描こう

人 物

小原晴人(25)会社員
小原雪子(27)小原の姉・無職
小原峰子(53)小原の母・主婦
宝田皐月(26)画家
同僚
上司 

本 文

○オフィスビル・外観

都市部のオフィスビル。二十階建て。
窓がずらりと並んでいる。
ビルの正面には緑豊かな広めの公園。

○オフィスビル・中

一面にデスクが並ぶ。パソコンに向かうスーツ姿の社員たち。
小原晴人(27)が歩いている。右手にコーヒー入りの紙コップ、左手に書類の束。
壁掛け時計で時刻を確認してから、腕時計でも時刻を確認する。
小原は一番窓際のデスクの前にやってくる。窓を覗いて、公園の入り口付近のベンチを見る。誰も座っていない。
やや落胆した顔で、席に着く。

○同・中

小原がデスクで作業をしている。
紙コップのコーヒーは半分くらいになっている。
小原、バソコンの時刻表示を確認してから、再び腕時計で時間を確認する。
首を伸ばすようにして、窓を覗き、公園の入り口付近のベンチに目をやる。
ベンチには、宝田皐月(26)が座っていて、キャンバスに向かって絵を書いている。涼しげな白いワンピースを着ている。
小原は微笑みながら皐月を見つめる。
小原のすぐ隣にある内線電話が鳴る。
小原は気づく素振りがない。
向かいに座っている同僚が気づいて、

同僚「小原、電話来てるぞ」

その声に小原は、やや大袈裟に肩をびくつかせて反応する。

小原「あ、ごめん」

小原、慌てて受話器を取ろうとする。
手が紙コップに当たってしまい、コーヒーがこぼれる。書類が濡れる。

小原「やばっ」

同僚「なーにやってんだよ」

あたふたする小原。

○小原のアパート・中(夜)

1DKのアパート。部屋は綺麗。
小原は部屋着でソファに寝っ転がって
テレビを見ている。番組は偉大な画家の特集番組。
部屋の本棚には何冊か画集が並ぶ。
小原のポケットに入っていたスマホに着信。
ちょっとびっくりする小原。
相手の表示は「母」。
小原は電話に出る。

小原「もしもし」
峰子の声「(困り声)もしもし、晴人」
小原「どうしたの、母さん」
小原、体を起こして姿勢を正す。

○小原家・リビング・中(夜)

食卓にご飯や箸が配膳されている。肉じゃがが入った大鍋が湯気を立てている。
食卓の側で、小原峰子(53)が携帯を耳に当てている。エプロン姿。困り顔。
峰子は耳打ちする感じで口に手を当てて、

峰子「雪子のことなんだけどさぁ」
小原の声「姉さんが、どうかしたの?」
峰子「ちょっと口喧嘩しただけなのに、部屋から出てこなくなっちゃって」
小原の声「姉さんが部屋に篭ってるのは、いつものことじゃない」
峰子「三日も出てきてないのよ? ご飯も食べてないし」
小原の声「ああ、それは、大変かも」
峰子「晴人の方から何か声かけてくれない」
小原の声「な、何かって……」

峰子、リビングから続く廊下の方に目をやる。薄暗い廊下の突き当たりに閉まった扉がある。

○小原家・雪子の部屋(夜)

明かりはついていない。デッサンが施されたコピー用紙が辺りに散らばっている。大きなキャンバスには書きかけの絵。窓は分厚いカーテンで塞がれている。
部屋の中央で小原雪子(27)が体育座りでスマホを見ている。パジャマ姿で、すぐ隣にはスナック菓子が一つ。
スマホに着信。表示は「はると」。

○小原のアパート・中(夜)

小原はソファの上に正座し、耳にスマホを当てている。緊張した声で、

小原「もしもし。ね、姉さん? もしもし」
雪子の声「……なに?」
小原「あの、えーっと、ほんとになんでもないんだけどさ、偶には、外に絵を描きにいくのはどう? ほら、公園とかさ……」
雪子の声「……」
小原「いや、別に、嫌ならいいんだけど」
雪子の声「何それ。お母さんになんか言われた?」
小原「いやいやいや、そんなことなくて」
雪子の声「(叫ぶように)放っておいてよ」

電話が切れる。
小原はため息をつく。

○オフィスビル・中

小原が窓を覗いている。
例のベンチで皐月が絵を描いている。
小原、真面目な顔で小さく頷く。
小原は廊下の方へ歩いていく。上司のデスクの前に止まって、

上司「どうした?」
小原「トイレに行ってきます」
上司「お、おう」

小原、廊下に出る。

○オフィスビル・正面

オフィスビル一階に入っているコンビニから小原が出てくる。コーヒーの入った紙コップとシュークリームを持っている。
横断歩道を渡り、公園へと向かう。

○公園・ベンチ付近

皐月がキャンバスに絵を描いている。画材は本格的。風景の線画が完成しており、今まさに色をつけようとしているところ。
皐月の元へ忍足で近づく小原。背後につく。
皐月は気づいていない。

小原「あのー」
皐月「うわ!」
小原「うわああああ!」

驚いた小原はコーヒーをこぼしそうになる。

小原「アッ」
皐月「大丈夫ですか」
小原「だ、だぶん」

皐月、苦笑い。

小原「あ、あの、お上手ですね」
皐月「ああ、ありがとうございます」
小原「風景画ですか……」
皐月「夏の公園って、美しくないですか?」
小原「は、はい!」

必死に頷く小原。
今度は素直に笑う皐月。

小原「あ、あの、変な意味じゃないんですけど、実は、いつも窓から、あ、あそこ」

小原、オフィスビルを見上げて、自分のデスクを探すも、見当たらないようで、

小原「えーっと、えーっと」
皐月「窓から、なんですか?」
小原「ああ、えっと、僕のデスクから見えるんですよ。いつも同じ時間に、このベンチで絵を描いてるの」
皐月「(微笑んで)そうなんですね」
小原「はい、いや、こんなにすごい絵を描いていたとは……」
皐月「絵がお好きなんですか?」
小原「は、はい! 姉がよく絵を描くんで」
皐月「へぇ。いいですね」
小原「あ、これ、よかったら」

小原、シュークリームを差し出す。

皐月「いいんですか? 大好物なんです」
小原「よ、よかったぁ」

皐月、シュークリームの包装紙を開ける。

小原「じゃ、じゃあこれで。頑張ってください!」
皐月「はい。ご馳走様です」

小原、逃げるように去る。

○オフィスビル・中

廊下から小原がオフィスに入ってくる。

上司はそれを見て、

上司「腹、壊したのか?」
小原「しゃ、社員食堂行っていました」
上司「は?」

小原、そそくさと自分のデスクへ戻る。窓を覗くと、ベンチで皐月が作業しているのが見える。

○(フラッシュ)小原家・雪子の部屋(夜)

雪子が部屋の中央でスマホをいじっている。

○オフィスビル・中

小原、ハッとして頭を片手で抑える。

小原「あ、あれ聞くの忘れてたなぁ」

小原、ため息をつく。

〈了〉

*  *  *

 画家を目指す姉を巡る家族の人間関係が、主人公である小原晴人の目下の悩み。解決の鍵は、オフィスビル前の公園に現れた女性の絵描...…かもしれない。

 特に電話シーンは滑らかに柱を打っていくことができたんじゃなかろうか。雪子を巡る家族の状況を絵とセリフでわからせる運びが上手くできたと思う。

 小原くんは気が弱いけど几帳面で正直者。気遣いができる人。嘘がつけません。行きは「トイレに行く」って言ったのに帰りは「社員食堂」と言い訳が食い違っているところがチャームポイント。

 全体的に質が高いのではなかろうか...…! (自信作)

毎日コメダ珈琲店に通って執筆するのが夢です。 頂いたサポートはコメダブレンドとシロノワールに使います。 よろしくお願いいたしますm(_ _)m