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【毎週ショートショートnote】シンリンヨク(お題:違法の健康) 

 ソファに深く座り込んだ時の、部屋全体と対面している感覚を満喫する。親友と肩を組むように両手を広げて。このソファは見た目以上に座り心地が良い。

 あたりには桃の香りが漂っている。駆け出しのOLが出勤した直後だろうか。廊下の方を覗き込むと、突き当たりに玄関があって、ドアスコープが見えた。典型的なワンルームである。でも、僕にはこの部屋の個性がわかる。

 棚や机の高さ、ゴミ箱の位置、色の組み合わせ。揃いも揃って、僕の基本的な感覚と微妙にずれている。これが、心地よい。この部屋はまだ僕のことをよく知らないのだ。

 同じ部屋に住み続けると、だんだんと物や壁なんかが、僕に馴れ馴れしく囁きかけてくる。

「足の踏み場はここだよ」
「持ち手はこの位置さ」

 何だか掌握されているようで、誰かの濡れた手指で頬が撫でられたときのように不快である。

 三日に一度、知らない人の部屋にお邪魔する解放感は、滝つぼのある涼しげな森林へ迷い込んだようだ。お隣の部屋はどんなだろうか、侵隣欲と言う訳だ。

 そんな幸せのひと時に、玄関の方から鍵が開く音一つ。

〈了〉

*  *  *

  初めてのショートショートです。お題があるとひねくれた解釈をしたくなってしまうのは人間の性。
 同じ部屋に居続けることで精神的に不健康になる主人公が侵隣欲を満たす話です。

 こちらの素敵な企画に参加しています。


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