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モテたい彼と依存する彼女 第9話
1話目はこちらから(下部に全ページリンクあり、全11話です)
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莉々華の強い口調から、一瞬クラスが静かになる。
「そうだよー愛奈ちょっとやりすぎ。知那ちゃんべつに悪い子じゃないじゃん」
C組の女の子が一言声を上げる。それが引き金になったのか、他の子からも声が続く。
「そうそう、うちらも知那ちゃん誘ったけど、愛奈に嫌がらせされるかもしれないからって断られたんだよ、そういうのわかってる?」
「あんまりひどいことになってないからと思ってたけど、その音声はヤバいよ。普通にいじめじゃん」
ざわざわと愛奈たちへの批判の声が大きくなる。愛奈は驚いた顔をして、固まっていた。クラスメートから大きな批判を浴びることは想定外だったのだろう。そんな空気を壊したのは、昼休みを終わらせるチャイムだった。
C組の扉の外に集まった外野は、その音につられて続きを見たそうにしつつも授業に遅れるわけにはいかないと減って行った。郁斗はどうしようか迷ったが、知那と莉々華が出てきたときに知那と目が合った。知那は郁斗を見て頷いたので、郁斗は「一緒に行こう」と解釈して一緒について行くことにした。気づくと吉川と陸、直哉も一緒だった。
「どこ行く?」
「体育館裏とか人いなさそうじゃない」
外に出るには制服姿だ、校内の人がいない場所が良かった。外も天気がいいし、陸の提案に乗って体育館裏を目指す。
先生たちが教室へ向かう中、「授業始まるぞー急げー」と声を掛けられて「はーい!」と応えて急ぐ。担任だとさすがにばれるから、会わないことを祈りながら。
体育館裏について、どこからも見えないことを確認する。体育館の裏口のところは段差になっていて、そこに座る。
「授業さぼったの何気に初めてだ」
「私もー」
と次々にいう直哉や吉川を見て、知那が「じゃあ、単位は大丈夫だね」とちょっとズレたことを言ってみんなが笑う。
知那と莉々華が高揚している気持ちを抑えられないように見えた。郁斗たちにもそれが伝染していた。それくらい、最後のC組の批判に、ここにいる全員が救われた気分になっていたのだろう。
「みんな、ありがとう。色々と、迷惑かけてごめんなさい」
知那が郁斗たちに向かって改まって謝罪する。
「なんか、解決しそうでよかったよ」
陸が言う。なんとなくだけど、陸は色々察していたのだと思う。郁斗にはわからなかったことも。
「話せるところだけ話すね。この子は山本 莉々華。一年の時、一番仲が良かった子」
莉々華が頭を下げる。
「前にも、教室来てたよね」
と郁斗が問うと
「やっぱり、バレてたか」
とバツの悪そうな顔をした。それに知那が「教室?」と聞くと、「後でね」、と莉々華が言う。
さっきまで固い顔をしていた莉々華は、凄く柔らかい表情をしていた。
「入学したころ、ちょっと話題になってたよね、モデルみたいな子がいるって」
「そう、それが莉々華」
吉川の言葉に、郁斗は陸に「知ってた?」と聞くと「全然」と返ってきた。直哉だけが「あ、名前聞いたことある」という。
莉々華がなにかを決意したように顔を上げて、言う。さっきの固い顔になっていた。
「知那、私言うね。今まで黙っててくれてありがとう。知那を守ってくれた人たちなら、信じられると思う」
「莉々華……大丈夫?」
「大丈夫、ここまで巻き込んでおいて、言えませんじゃ失礼だよね。ちゃんと話します。ちょっと長くなるけど聞いてくれるかな」
*
「高校に入学して、一番最初に仲良くなったのが知那だった。私が仲良くなりたくて、話しかけに行ったの」
莉々華がみんなに説明をはじめる。それを聞きながら、知那は一年前に思いを馳せる。
当時知那は、誰と仲良くしたらいいか、合いそうな人たちは誰か、冷静にクラスを見渡していた。誰に声を掛けようか……と思った時に、声を掛けて来たのが莉々華だった。莉々華はクラスでも一際目立っていたが、まさか自分に声を掛けてくるとは思わず知那は一瞬固まった。席が近いわけでもなく、色んな人から声を掛けられているのにも関わらず知那のところへ来た莉々華に、知那は疑問を感じた。でも、純粋に声を掛けてくれるのは嬉しかった。誘われるままに一緒にお昼を食べたり、移動教室を共にするようになった。
そのうち、愛奈たちの三人グループに声を掛けられるようになった。いろんな場面であるグループ分けを考えると、五人くらいで固まるのも悪くないと思い、五人で一緒にいることが多くなった。
「愛奈は、明らかに莉々華と仲良くなりたがってた。だから声を掛けて来たのは私にもわかってた」
知那が続けると、吉川が「ああ、いるよね、そういうタイプ。とにかく目立つ子、可愛いこと一緒にいたがるって言う子」と納得してくれた。そう、まさに愛奈はそういうタイプだった。
「正直に言うとね、私は他の三人はどっちでもよかった。私は知那と仲良くなれればそれでよかった」
「それがね、私もそうだったの」
五人グループなのに、二人で一緒にいることが多かった。遊びに行くのも二人で行ってしまうことが大半で、愛奈がだんだんそれに不満を持っていたことも気づいていた。気づいていたけど、当時の二人にとっては些細なことだと思ってしまっていた。もっと言うと、ほかの三人とは莉々華と同じように仲良くなれるとは思っていなかった。
莉々華とは、最初は全然違うタイプなのに、なぜ? と思ったけど、不思議なほど気が合った。一緒にいるだけで、なにもなくても楽しい。全く疲れず、気も使わず、ずっと一緒にいたかった。そんな気持ちにさせられたのは初めてだった。
はたからきっと見ると不思議なくらい、二人は仲が良かったし、クラスメートからも「ほんとに仲いいねー」と声を掛けられることが多かった。それは好意的な言葉がほとんどだった。
知那も莉々華も、お互いが特別に仲が良いだけで、他のクラスメートと話さないわけではなかったし、特に問題ないと思っていた。
「私もね、悪かったの、愛奈に誘われても、莉々華がいないなら行かない、とか言ってたし……」
今思い返すと、本当に周りが見えていなかった。だけど、知那は莉々華といるのが楽しくて、他の三人といることがだんだん苦痛になって行った。愛奈たちといると、話題が大体恋愛と他人の悪口ばかり。当時恋愛もしていない知那にとって、提供する話題もなく、ただただ三人の話を聞くだけに終始していた。悪口に至っては、ほとんど聞いていないくらいだった。莉々華と二人でいるほうがよっぽど楽しい。二人でいると、なんともない日常の会話が尽きることがなかった。それは本当に不思議な感覚で、莉々華と出会えたことで、もう知那の高校生活は楽しいことでいっぱいだった。
「今思うとね、私は莉々華に依存してた。莉々華がいたらいいって、本当に思ってた。恋愛なんてひとつも興味がなかった」
ただ、莉々華に彼氏ができたらどうしよう、応援したいけど、もうこんな風に一緒にいられなくなるのかな、そんな不安がよぎった。そう思った時、自分の莉々華に対する気持ちは、もしかしたら普通じゃないのかも、と不安になる。莉々華はどうなんだろう、莉々華におかしいと思われたらどうしよう。
「汐見知那は同性愛者じゃないか」。そんな噂が出たのは、知那が莉々華への気持ちに不安を持ち始めたときだった。
噂のもとは、すぐにわかった。愛奈たちだった。
それはある意味、愛奈から知那への決別の証でもあった。「あんたは仲間じゃない」という意思表示だ。
「あんなに仲が良いのは異常だ」と、愛奈たちは言う。
なぜ「二人が異常に仲が良い」という話なのに、莉々華ではなく知那なのか、それも明らかだった。愛奈たちは莉々華を手放す気はなかった。ただ、知那が邪魔だったのだ。
愛奈にとっては、莉々華は美人で一緒にいると人目を惹く、一緒にいて欲しい存在。知那は、自分たちの話にも誘いにも乗らず、莉々華しか見ていない、莉々華を独占する邪魔な存在。
「私は、愛奈に直接言われたの。知那は異常だって。異常なほどの執着心を持ってるから、一緒にいたら危険だよって」
ふふっと話しながら莉々華が笑う。知那は、これ以上先をどういう顔で聞いたらいいのかわからなかった。
「なにも見えてないんだなあって思った。執着してたのは、異常だったのは、私の方なのに」
知那は俯きながら首を横に振った。精一杯の主張だった。
***
そんな噂が流された日、知那は放課後、莉々華と一緒にいた。いつものことだった。カフェで話したり、公園で話したり、お互いの家に遊びに行ったり。買い物するのも、遊びに行くのもいつも二人だった。
その日は莉々華の家にいた。莉々華の家族は共働きで、夕飯の時間になるまでは帰ってこない。自然に莉々華の家に遊びに行くことも多くなっていた。家族とも、何度も顔を合わせていて、「いつも仲良くしてくれてありがとう」と莉々華の母親に言われることも一度だけではなかった。
莉々華は、中学の頃少しだけ友達関係でトラブったことがあり、学校へ行くのが苦痛だった時期があったという。だからか、知那の存在に莉々華の母親はとても安心して、知那の話をすると喜ぶらしい。
「私たち、一緒にいすぎなのかな、異常なのかなぁ……」
知那がそう言って莉々華を見ると、莉々華は俯いていた。その普通じゃない姿に、知那は焦った。肩が震えているように見えた。
「……莉々華?」
そういえば今日一日、莉々華は様子がおかしかった。噂のせいで元気がないだけだと思っていたけど、そうじゃなかったのかもしれない。
「莉々華、大丈夫?」
「知那、ごめんね」
そう言って顔を上げた莉々華は、顔が真っ白だった。
「私のせいで……あんな噂」
「何言ってるの、莉々華のせいじゃないよ! 私ね、最近、莉々華に彼氏ができたらどうしようって思ってたの、その気持ちはなんか、ちょっとおかしいのかなって思ってて、だから愛奈の言うことには反論できない自分もいたんだ」
少し前に悩んでいたことを、一気に話してしまった。この際だから、すっきりしたかった。
「私は莉々華がいればいいって思ってたから、莉々華といるのが一番楽しいし、それだけで高校生活良かったなあって思っちゃってて。ちょっと浮かれてたのかもしれない。愛奈たちにも、態度悪かったなって」
「知那、聞いて」
知那の言葉を遮って、莉々華が意を決したかのような声を上げる。
知那は黙って莉々華を見た。なにか、知那の思うより強い気持ちがあるのだと思った。それがなにかはわからなかったけど。
「私は知那が好きなの」
莉々華はゆっくりそう言って、知那を見た。
「え、うん、私も莉々華が好きだよ」
「そうじゃなくて!」
またも知那の言葉を遮る。振り切るような言葉。
気づくと莉々華は涙を浮かべていた。
「同性愛者は私。私はずっと、知那のことが、恋愛対象として好き」
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