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剣道女子と女子会 3

「大人になったら、素敵なイタリアンでお酒を一緒に飲みたいなあ」と10歳の女の子に言われて、「そうね、あと10年後ね」と笑っていた夢がついに実現した。

今回は、高校受験に合格したらお祝いの女子会をしたいと約束をしていて、見事に志望校に合格を決めてきた中学生二人と、高校生二人と、6年前に道場を卒業した大学生と私が集まった。5人編成チームと監督という感じだ。

「合格おめでとう!イタリアンのお店のランチコースを予約したので、保護者の許可をとって、自分の部屋を片付けて、帰宅時間を宣言して、おしゃれをして出掛けて、モリモリ食べよう!」と私がグループLINEに書き込むと、みんなはスタンプではしゃいだ。当日はいつもの剣道着の雰囲気とは違うそれぞれの個性が溢れたスタイルで、目元にはキラリと愛くるしい色味をつけて集合した。

「せんせー、私はもう飲めるんだよ」と久しぶりに会えた大学生がニヤリとメニューを広げる。
「せんせー、ビール?ハイボール?サワー?」と聞いてくる彼女に、「待て待てそこの女子大生、10年ごしの夢の乾杯なんだから、メモリアルなんだから、生フルーツジャーカクテルにしようよ、してよ、しなさいよ、映えたいのよ」と、大人の私が駄々をこねる。そして感動の乾杯をして、「フルーツ甘ーい!」と叫んで、「2杯目からはワインにしよう」と大きなジャーを飲み干す。おしゃれカクテルを甘いという大人になった彼女は、10歳の頃と変わらず素直で朗らかで逞しい。

春から高校生になる二人はそれぞれ、将来の仕事を目指すコースを選んだり、憧れのダンス部に入部することを希望したり、自分の未来を真っ直ぐに見据えて楽しそうだ。
「せんせーは剣道だけでいいの?って聞くけれど、男の先生たちは進学したら剣道部入るんでしょ?って聞くの。そういうことじゃないんだよね」と二人は言う。
「剣道を続けるか辞めるかっていう選択肢は私たちにはなくて、出来るときにやれば良くて、出来なければ休む、って感じなの。期限は特になし。」だそうだ。「私たちはせんせーと同じく、ガチ勢ではないもん」だそうな。ガチ勢ではない生温い剣道の私は、「せっかくだからみんなは四段を目指して、指導者という立場からも剣道を見て欲しい。私がみんなから宝物を頂いたように、そこには自分の未来に役に立つものがあるから。」とちょっと真面目に話すと、「せんせーは私たちのことをずっと待っていて」と、また10年後の待ち合わせみたいな約束をしてしまった。

私は高校のときに、ふらりと剣道部に入部してしまって、顧問の先生はほぼ不在で、先輩方の指導の下で2年半しか稽古をしていない。同期の女子は十数名いて、その半分が子どもの頃から道場に通っていた。剣道部に入部して私が出会った剣道の上手な同級生は、時を超えてあなたたちだったんだね、と、娘のいない私は剣道の娘たちの成長に涙腺がゆるゆるだ。

そして、高校生の二人が叫ぶ。「さあ、今日の本題!私たちは彼氏と別れた。っていうか、捨ててきました!」と「大会3回戦で負けてきた!」みたいなテンションで失恋を語る。自分にはこれはダメだという基準があって、それに外れたらもうダメ。ラインからはみ出たらもうそれは反則、と潔い。そして、元カレなんていうのは変な話で、友だちとか先輩という肩書きに戻ればいいそうだ。元カレという特別感すら捨てたい様子だ。
そして、どんな人と付き合うかという前に、自分のスペックを上げることが大事だと、ワイン2杯目の女子大生がアドバイスを送る。
自分のコンプレックスがクズ男を寄せ付けてしまうなら、コンプレックスを1個ずつ解消するか、それを打ち消せるくらいの何かを纏えばいい、とみんなの頼もしい姉さんは拳を握る。
「それって、せんせーが言ってた品格もそう?」に対して、姉さんと私が大きく頷く。
剣道の娘たちは、力を抜いて真っ直ぐに構えて、いつでも正直に私の前に存在する。私は、彼女たちをずっと側で見ていたくて、剣道を続けてきたのだと思う。

ピザもパスタもドルチェも平らげて、二次会のカラオケも行こう、行こう、ママには言ってきたもん、という流れになって、「せんせー、大丈夫!今日は昭和に寄せるから!」と、私はカラオケ店の階段をみんなに押される。大人の階段昇るシンデレラたちは、ひらひらしてキラキラして、若いっていいな。