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いざ鳥取稽古会

2泊3日5連休
「12月の鳥取稽古会に一緒に行きませんか?」
フォロワーさんのBALUSAさんからDMを頂いたのは10月のこと。「実現に向けて、仕事と家族の都合を調整します!」と即答して私は静かに動き出した。

まずは10月。病欠の緊急出勤が求められれば出動したし、エアコンのフィルター掃除、提案したスキルアップノートの設置、新人社員のフォローなど、地味に地道に下地を固めて、12月1~3日の希望休を勝ち取った。実は11月30日がたまたま休日というシフトマジックで、4連休なのだ。後に、同僚からのお願いでシフトを交代したら5連休になったのは鳥取の神様のお導き。鳥取には足を向けて寝られない。今もこれからもずっと私は死んでも北枕。

お名前シールと名前ペン
私が不在の間、認知症の母をひとりにはしておけないので、ケアマネさんに相談をして、近所の福祉施設にショートステイを予約した。母は1分前の会話を忘れてしまうので繰り返し説明すると、旅行に行くみたいだとその都度笑った。
自分の荷造りの前に母のお泊まりセットの名前つけにとりかかった。私が息子たちの入学セットにしたように。母が私にしたように。
私が鳥取稽古会への参加に悩むことなく準備を進めたのは、介護があるから諦めるということをしたくなかったからだ。諦めればそれは母に失礼だ。私の日々の暮らしの中には家事や介護や仕事や剣道があって、どこかに比重を置けばバランスは崩れる。誰かに助けてもらいながら多少揺れながら、私の暮らしはまっすぐに立てておきたい。
母のケアプランの書類には、「長女さんが鳥取県に剣道でお出掛けになる期間、長女さんもご利用者様もご心配なくゆっくりお過ごし頂く」と記載されている。
ケアマネさんも施設長さんも、鳥取県は剣道が盛んなんですね、とおっしゃっていた。そう、鳥取県のあの稽古会は最強のパワースポットなのだ。

待ち合わせは姫路
夫も私も実家は県内なので、電車移動の里帰りをしたことがない。夫はサービス業に従事していて、曜日やお盆、年末年始に関わらず、シフト勤務で3日以上の連休がない。だから家族で遠距離の旅行をしたことがない。父がキャンプ好きで嬬恋に小さな山小屋を持っていたり、スキーの季節は越後湯沢に常宿があったりで、とにかく要するに私は、ホテルを予約するとか新幹線に乗るとか電車を乗り換えるという経験値がとても低い。
さらに、地理と歴史は赤点ギリギリだったものだから、「待ち合わせした姫路とは何県?」と家族を困惑させた。それでも難なく姫路までのひとり旅が出来たのは、スマホのお陰だし、とにかくいつも絶妙なタイミングでお誘いしてくれるフォロワーさんのBALUSAさんとかりがねさんには大感謝なのだ。お二人とも真摯に剣道と向き合う方で、とても力強くて美しい剣道をされる。だから、なかなか人を誘うことが苦手な私に、絶妙な間と間合いで声を掛けてくださるし、一緒にいても心地よい距離感で時間を共有できる。私は高校の部活で少しだけ剣道を経験しただけなので、竹刀を持ってキャスターバッグを転がすと、合宿に向かう女子部員みたいで、とにかくお二人は私の憧れの女性剣士で、一緒にいる空間は女子部室で、その中ではしゃいでいられるって、ねえ、どう?大人になるって素敵だよ!って、部活をサボってばかりだった17歳の私に見せつけたい。
ちなみにBALUSAさんは晴れ女、かりがねさんは雨女。ふたりの実力は五分五分で、移動も観光も晴れたり降ったりを繰り返し、雲の切れ目には必ず太陽が見えていたし、晴れ間が広がっても必ず黒い雲は存在していた。ここまで実力のある晴れ女、雨女に出会ったことはない。この勝負はなかなか見ごたえがあった。かりがねさんは剣道も雨女力もかなりお強い。剣道でバッサリ斬られるのはむしろ気持ちがいいから、お願い、お天気の方は手加減して。

いざ鳥取稽古会
さて、いよいよ稽古会!
いつか必ずお目にかかりたいという気持ちを紡ぎ続けたきくぞう先生、憧れ続けていた鳥取稽古会、それがいかに豊かな時間であったのか、もう敢えて私は書かない。
きくぞう先生も、とらのすけ先生も不良中年先生も、お稽古してくださった魅力的な先生方も、X(旧ツイッター)の中にいらしたそのまんまで、逆に、「うわあ、本当に皆さん、実在されていたのか!」という衝撃を受けるくらい、出会えたことが奇跡のようだった。あまりに嬉しくて涙が出るかと思っていたけれど、感謝が溢れると大笑いしちゃう、というおかしな状況だった。夜、ホテルで寝るときに「目が覚めても鳥取でありますように」と私は祈った。
え、本当に稽古会のこと、書かないの?って、はい、書きません。もったいないもの。あの空間、あの時間を言葉にすることなんて、出来ないもの。じゃあなぜnoteに投稿したのかって、自慢したいからに決まっているじゃん。きくぞう先生が案内してくれた鳥取砂丘がいかに広大かとか、皆で出掛けた食堂の舟盛りがいかに美味しいかとか、それも絶対に書かない。よくおすすめのお店とかスイーツとか、おしゃべりの話題になるけれど、ここは絶賛ナンバーワンについて、私は絶対に喋らない。ケーキの一口交換とかしたくないし、食べたくて頼んだランチパスタのシェアはしたくないし、体験稽古で竹刀貸してあげてと言われても自分の竹刀は差し出さないし、とにかく私はそういうタイプなのだ、わはは。

私にとって剣道とは
私にとって剣道とは、自分の成長の場であるとか、ずっと続けたい習い事であるとか、剣道を通しての交流の場であるとか、体力や気力を維持するための時間とか、いくつか思い浮かぶけれど、どれもが今一つしっくり来ない。
宿泊したホテルの部屋で、テーピングを剥がして湿布を貼り、玉子サンドを食べながら缶チューハイを飲んで、緩んだ中結を締め直しているときに、私にとっての剣道は「許し」なのだと思った。
Wikipediaには、ゆるしとは、願いを聞き入れること、許可すること(許し・聴し)、または、罪・過失・無礼などをとがめないこと(赦し)を意味する、と記載されている。
高校で始めた剣道を中途半端に2年半で引退したことも、何をやっても集中力が続かずに逃げる癖がついていることも、突飛で不用意な発言をしちゃうことも、とっ散らかった人間関係でじたばたすることも、剣道によって私は許されている、と感じたのだ。
自分の剣道の実力がどうこうと卑下せずに、行きたいから行く、会いたいから会う、ただその気持ちだけを優先したら鳥取稽古会に参加できた。剣道の神様が私に許しを与え、道を開いてくださった。鳥取稽古会の先生方は私を温かく招き入れてくださり、竹刀を交えた。
それがどんなに有意義な時間だったか、それはやっぱりここに書かないけれど(しつこい)、私はこの旅を絶対に忘れない。

因幡の白兎
帰宅して、きくぞう先生に頂いた砂丘の砂の可愛らしい小瓶を見せびらかして、不良中年先生に頂いた八頭バウムとネギポン酢が美味しくて悶絶して、BALUSAさんとかりがねさんに頂いたクッキーとチョコレートにも手を伸ばした家族に、白兎神社のお土産のお守りの白い石をひとつずつ分けてあげた。
そしたら今年還暦を迎えた兎年の夫がビール片手に「結局、鳥取には、俺が導かれたんだな」と訳のわからないことを言った。3日間の私の不在を当たり前のことと受け止めてくれたから、まあ、いいか、わが家の白髪兎。

https://youtu.be/LwhnxXjVQcI?feature=shared