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「黒子、ライダー」(クロコライダーズ!③)

ポップス大作戦#3 


              こい瀬 伊音



「影絵もーん。未来がわかるならさぁ、儲ける株教えてよ。2020年夏に仕込めばちょうどいいやつ」
「は?佐々おまえなめてんの?のび太か?情報なら自分で探せや」
 なんだよ、影のくせに偉そうな口きききやがって。
「限定のどら焼き、あげねえよ?」
「どうせコンビニだろ。お供え物ならとらやとか持ってこいや」
 まじうぜえ。自分で食うんだからいいよ。パッケージのぎざぎざを開封するまえに、除菌ウエットシートで袋をマルっとふいた。一応。時節柄。
「うわ!それ、辻利の抹茶コラボじゃん!もらっとくよ」
 あん?ひっかかったな本物志向め。
「儲ける株」
「言わねえ」
「んじゃこれやんない」
「おれもう買いにいけねんだよ!」
 知ってる。コンビニに入っても、だれも気づかない。なんもつかめない。
「ヒントくらいならギルティフリーなんじゃねぇの」
 でかい頭の計算機が、カチャカチャ数字を弾いてる。おれのスマホのほうが小さくて薄くてよっぽどスタイリッシュだけど、過去はいくらでも洗い出せるのに未来だけはわからない。あのくそださい頭には、まだまだ未知が詰まっていて、おれはそれを引きずり出したくてたまらない。
 それは会いたくて、と同じ意味だ。
 それにしても墓石の上で、時空警察に逮捕されずにどら焼きを食べる方法を考えるって、ガキなんだか大人なんだかわかったもんじゃねえな。ガラスを割ったらおじさんに怒られる、昭和のセオリーは遠い昔。
「製薬会社。ワニのマーク。ゲーム。出せるヒントはこれで全部だよ」
 お。いいねえ。おれと同じ見解。ワニとゲーム。
「おまえはもう仕込んだの?」
 どらやきを渡してやると、ニヤリ、と右の口角を上げた。薄汚れてんなぁこいつ。ブラックの缶コーヒーのプルトップを開けてさしだしてやると、カコン、と高い音が響いた。
「子どもに夢を与える仕事、もうやめたんですかぁ?」
 首だけじゃなく、わざとからだごと右にひねって聞いてやった。真面目な話も茶化して、大人ってやっぱ不便だよな。
「どの口がいってんだよ。でもまあ、もうけ出してなきゃ売る夢も作れないからな」
 うわ。なんだこいつ。今になっても地べたから、子どもに見せるきれいな夢作ってんのか。やべえ。
 やっぱかなわねえな。
 やっぱ。
「あちーな。水、かけてくんねえの?」
「あ、忘れてたわ」
 おれはコーヒーとどらやきを急いで腹のなかにかたづけてから水をぶちまけ、固い背中をたわしでこすってやった。
 来年の夏にも、おれのところに帰ってきてくれよ。
 なすとキュウリで、すげえバイク作るからさ。

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