見出し画像

「グリーンスムージー」(クロコライダーズ!②)

#ポップス大作戦2

             こい瀬 伊音



 この服もあの服も自前で、何パターンも用意して。こっちは真剣だっていうのに「学生ちゃんのバイト」って感じで軽くみられる。好感度感知センサー搭載の最新たれ目量産型メイクは、すればするほど自分から遠ざかっていく。
 あたしは嘘がうまい。罪悪感もない。そう思うことでかろうじて歩いてきたのに、「なんかつまんないんだよね」とばっさり切られてしまった。次から来ても来なくてもいいよ。いちばんいらない選択権を握らされて。
 むかつく。あんたみたいやつに、もう二度と笑ってやんない。シャッター音に合わせて、心のなかでスプライトをぶちまけた。パシャ。バシャッ。
 その日からあたしは読モの肩書きと見せかけのタピオカを捨て、プロテインとグリーンスムージーを飲みはじめた。筋肉は裏切らない、らしいから。
「りんのシーンさ、評判いいんだよ。ちょっと長めにまわすから、あとひとつふたつなんかポーズ入れてくんない?なるべくふつうのママがまねできそうで、パパもドキッとするやつでよろしく!胸チラなら特典映像の目玉になんだろ。ヨガマットとかウエアとか、タイアップでもう一儲けできんじゃねえかな」
 佐々さんはいつも調子がいい。あたしみたいなの使って、少ない元手で大風呂敷を広げてる。
「誰の評判がいいんですか?今日とりはじめたとこなのに。佐々さん?おじさん?このゲームはファミリー向け、なんですよね?」
 あたしの物言いに、周りのスタッフさんがたじろぐ。売り出し中の女の子は、だれだって指示に素直に従うものだと思ってるから。
 視線がうるさいよ。
 このからだはあたしが育てたもの。収縮も弛緩も隆起も全部あたしの指示で動く。このボディーイメージは、全部あたしに帰属するものだ。そんなあたりまえのこと、鍛えだすまで知らなかった。
「金出すのは親だろ。まず、欲しいって大人に思わせるんだよ。下地を作ったあとで、子どもに買ってーって言わせんの。そのためのヨガ!そのためのおっぱいでしょ!」
 まぁそうね。お金持ってるのは大人。それはわかる。そういう言葉での説明なしに、あたしは動かない。若さの安売りは、もうごめんだ。
「一発当てたらおれが見込んだとおり、りんはスターだよ。そしたらグリーンライダー・りんのスムージー!とかって商品化してさ。コラーゲン入りのとプロテイン入りのと、こども用にバナナ多めのやつ作ってさ。緑の野菜なんていつもぜんぜん食べないのに、これはすっごい飲むんですーってママさんに感謝されてさ!いいじゃん!みんなおいしくてさ。ほら!そのためのポーズ!」
 佐々さんは調子がいい。
 まっすぐに欲望を口に出すところがいい。
 あたしの存在で、三人家族がもっとしあわせになるような絵を、全力で描いて見せてくれるところがいい。
 ばかばかしい地図なのに、信じてついていきたくなる。必要ってほんとう?他の子でもいいんじゃなくて?本当は自信がないこと、わかってるぞって目だけで言ってる。泣いてしまいそうにいい。
 芝生にヨガマットを敷いて、はとのポーズ。胸を大きく開いて空へ、一直線になる。
「笑顔もあれば中高生も落とせるぞー」
 あーあたし今、笑いたくなんかないのにな。
 おおきく息を吸って目を閉じた。あと二秒だけ。二秒だけ好きにさせて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?