春と調布とアルペジオ

いよいよ春になって、ぼくが思い出したのは、去年新人たちを迎えるために横浜の親友と準備をしたことや、新入社員のときの入学式だった。
社会人になってからの思い出ばかりを思い出すことに気がついた。それより前のことは、昔観たすごく影響を受けた映画なんかのようになっている。
何年か前に聴いて、いつかそのときが来ると思った「やがてぼくらが過ごした時間や 呼び交わしあった名前など いつか遠くへ飛び去る 星屑のなかのランデヴー」。小沢健二はすごいなあ。ぼくがいまあんまり思い出せない大切な思い出たちに思うのは、まさにこの歌詞だ。


高校から長いドライブをしながら会社に戻りながらぼくはいくつかの音楽をかけた。小沢健二のアルペジオを聴いたときに、思い出したのは、2018年の春。ぼくは泣いていた。毎晩眠れずご飯も食べられない。女の子にふられて。小沢健二は何度も歌った。アルペジオはぼくのための曲だと思っていた。調布の牛タン屋さんで親友の誕生日を祝った後、いまは潰れてしまった居酒屋でも泣いた。「本当の心は 本当の心へと 届く」ぼくは祈りながら泣いた。
それから季節がめぐり2022年の春。ぼくは調布の牛タン屋さんで、また親友の誕生日を祝っていた。ぼくのとなりには、横顔をルーブル美術館に飾れるガールがいた。

「きっと魔法のトンネルの先 君とぼくの心を愛すひとがいる」ぼくは久しぶりに泣いた。社用車の軽の中で。

いまは飛び去ってしまった、星屑のなかのランデヴーたち。調布駅にトリエができる前の風景はもう思い出せないけど、そのすべてがつながって、ぼくはいま、満足している。
日比谷公園の噴水が春の空気に虹をかけたら、誕生日を祝ってください。

#エッセイ #小沢健二

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