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韓国映画『宝くじの不時着』

 もしも宝くじが当選したらと考えたことは誰しもあるだろう。何に使おうか、誰にどこまで打ち明けようかと思いを巡らせるのは楽しいが、現実には様々なトラブルがつきまとう。

 今作は、そんな宝くじにまつわるトラブルを、朝鮮半島の南北問題にまで発展させたドタバタコメディだ。

 ふとしたきっかけで一等当選くじを拾った韓国軍の兵士チョヌ。喜びも束の間、くじが風に飛ばされ軍事境界線の鉄柵を超えて、北朝鮮兵士ヨンホの手に渡ってしまう。

 紙切れの正体がわからないヨンホが同僚に見せると「これは南朝鮮人民の血肉を搾り取る、極悪非道な資本主義のシステムだ」とつれない返事。だが万に一つの可能性もあると興味本位で調べてみたら、57億ウォン(六億円)の一等当選くじだとわかり、事態は予想もつかない方向へ二転三転していく。

 邦題はドラマ『愛の不時着』のパロディだが、今作はどちらかというと2001年の韓国映画『JSA』のパロディだ。

左は『JSA』、右は『宝くじの不時着』のパロディポスター

 両作品に共通しているのは、JSA(共同警備区域)で韓国と北朝鮮の兵士たちが国籍を超えた友情を育むところだが、今作はそこへ至るまでの駆け引きが面白い。欲に目が眩んだ両国の兵士たちが、薄暗い灯りの下、小さなテーブルを挟んで向き合う姿は、『JSA』の純粋な友情とは対照的だ。

 宝くじの所有権を主張する北朝鮮の兵士に対して、どうやって換金するつもりだと詰め寄る韓国の兵士。それならやむなしと一旦韓国側に渡すも、まだ信用できないため、互いの国の兵士を一人ずつ人質として交換することになった。韓国の兵士が銀行でドル紙幣に換金したら人質を解放し、全員で山分けするという作戦だ。

 目的と利害が一致してから、彼らは急速に友情を深める。文字通り現金な男たちだが、一等当選くじを前に一喜一憂する姿は、可笑しくも身につまされるものがある。

 果たして彼らは無事賞金をゲットできたのか? 結末はここでは書かないが、小さな夢が叶う程度の大金がちょうど良いのだと思わせてくれるラストに、胸が温かくなった。

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