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臨床現場の統合医療(1) 所見と検査の応用

 最近の知見を加えて、久しぶりに症例を見直してみたいと思います。60代女性、血液疾患の診断を受けている方です。
 当院の受診歴は2年ほどで、大学病院での診療を受けながらの統合医療併用を希望されて来院されました。化学療法と併用する形で、栄養補充のサプリメントと漢方処方に加えて、体調管理を目的とした鍼灸治療を行っていました。当院では、主たる疾患の治療を妨げない形で、各種伝統医療などを取り入れた統合の形式を取り入れています。

 化学療法の進展や、健康状態の変化に伴い、これまで様々なアプローチを行ってきましたが、最近は、白血球、血小板の大幅な低下を伴う汎血球減少により、鍼灸などのやや侵襲的な治療が行えずにいました。
 ご自分でも何か健康に良いことを、ということで、食べ物などの工夫に加え、腰腹を中心とした身体の温めを丁寧に行っておりました。(こうした腹を中心とした温めだけでなく、プロバイオティクスやプレバイオティクスを用いた腸内環境の立て直しも同時に行うとより効果的でしょう。特に本例では自前の腸内細菌を助けるプレバイオティクスが有効と考えます。温めとの相乗効果で免疫機能の向上が期待できます)

 化学療法との併用、並びに原疾患による体調の変動が激しく、ご自分で行っているセルフケアの方法に、これで正しいのかというような不安を抱えるようになってきました。当院でも非侵襲的な治療を中心に行っていたので、何か、現状を肯定する方法はないものかと思い、良導絡を用いてみました。これは治療法としても有効ですが、経絡(良導絡)の様子を知るには簡便で、かつ客観性もありとても良い方法です。

 ファシアの研究や勉強をするようになって、さらにこの良導絡の意味するところが明確になっていたので、理論的に再評価していたところでした。経絡の計測において、ファシアを想定することで電気的な測定の意義がはっきりしてきました。
 実際に計測すると肝経(F2) 胃経(F6)の高値と、腎経の低値ならびに左右の乖離が測定されました。腹診においても胃部と胸脇部が固く触れる所見で、刺さない鍼である打鍼により軟化するものの、良導絡の測定結果を示すものとして捉えるができます。
 実際のメカニズムの説明としても、上部消化管の不調が反射弓を介して関連痛ならびに硬結といった形で反映していると考えられるので、打鍼により軽快するシステムも説明できます。また、このメカニズムは当然、このブログで言うところの「ファシア瘀血」も形成してくるので診断的治療も可能になります。現在であれば、観血的な方法をとらずとも、QPAなどの波動的治療(低周波)を併用することも良いように思います。この仕組みからは、振動により瘀血での赤血球連銭形成の解除や、細胞レベルでのドロプレットの解除に伴う代謝や遺伝子発現の変化なども期待できそうです。

 本例においては、ご家庭で常に温めているところを中心にお灸などで温め、瘀血が疑われところに軽めのカッピングをかけるなどの非侵襲的なアプローチを行い、施術後に再度、電気的な測定を行いました。
 これにより、施術前の値が落ち着きデータの左右差の改善も認められ、セルフケアにおける腎への温めの効果も肯定的にとらえることができ、大変喜んでおられました。全例このようにうまくいくわけではありませんが、うまいタイミングで検査という介入が功を奏することはままあります。

 いろいろな検査機器はありますが、こうしたセルフケアをサポートする役割も検査としてはとても大切なものです。大学教官時代は、こうした検査による健康増進機能を「未病臨床検査」として研究していたので、早期発見の意義のみならず、臨床の一技法としても評価しております。
 当然こうした電気的な変化は病態把握にとっても重要な情報ですが、日々の治療やセルフケアの再評価としても、見直す良い機会にもなりました。
 こうした事例において、逆にめったやたらと検査するマイナス要素も当然考慮されるべきです。波動的な検査は、その出力される情報量も多いので、すべてが合理的に説明されるわけではありません。こうした際には、実際に施行する医療者の説明技量が問われてくるので、ただ行うというわけにはいかないことになります。
 統合医療領域において、伝統医療的もしくは代替医療的説明のみならず、現代医療的な説明が求められる一要因でもあるのです。


統合医療の考え方活かし方
―新しい健康デザインの実践



小池 弘人

中央アート出版社


2011-07-10

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