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相分離生物学の冒険 相分離というファシアからの発想の転換

 生化学の代謝マップにおける反応はなぜ順序通りに円滑に進むのか? ファシアのように何らかのネットワークによって連結されているのではないか?  ファシアのない細胞の集積した状態でも水分子が代謝など細胞機能を制御しうるしくみがあるのではないか? 当たり前のようだが、不明な点、素朴な疑問が実は未解明である問題は少なくない。そうした疑問に応えてくれる分野が現れていたのを知らなかった。相分離生物学という分野だ。

相分離生物学の冒険
――分子の「あいだ」に生命は宿る
白木賢太郎  みすず書房
2023-02-20  

 本屋で立ち読みしているときにたまたま見つけたのですが、なんか面白そうだなと思い少し読んでみると非常に重要な感じがひしひしと伝わってきました。4,5年前から専門書は出ているようなのですが、基礎から遠い臨床医の立場では、こうした分野があること自体知りませんでした。 代謝が円滑に進行するためのメタボロンの概念や、がんにおけるシャペロンの意義、神経細胞になぜアミロイド蓄積が見られるのか、またそれと長期記憶保持の関連についてなどなど。これまでの生理学、生化学では明快な説明がつけられていない箇所の解明は、目から鱗です。またアルギニンやATP産生に関わるコエンザイムQ10などの物質の意義も、従来のサプリの知識以上の解釈が出来そうです。 現在は基礎的な分野なので、こうした飛躍は嫌がる研究者も多いのでしょうが、個人的には注目の分野となりました。 冒頭にも書きましたが、ファシアとの関連が個人的には大きく考えさせられたところですが、これは本書では一切触れていない私の独断的解釈なのでご注意下さい。 ただこれまで未解明だったルート(経絡)を、全く新しいモノではなく従来からあるモノの再解釈で解明していく、というのはまさにメタボロンにおいても同様なものを感じます。とりわけオシュマンによるエネルギー医学の総論においては、解糖系などの代謝ルートを何らかの細胞骨格などの線維で説明しようとしており、それなりの妥当性を感じてはいました。しかし、現在に至るまで全くそうした進展を耳にすることはなかったので、さすがに無理も感じていました。 そうした中でのメタボロンの仕組みはなるほど納得でした。これであれば近年、解糖系によって生じた乳酸が一度細胞外へ出てから、再度細胞内に入りミトコンドリアへと取り込まれるという知見と矛盾しないことになります。 またすべてをファシアで説明しようとしていたのとは違い、より細胞機能の多様性が示されたような気がします。ファシアのようにかなり有力な論が登場すると、それによりほかの現象も説明づけたくなるものです。しかし、ホメオパシーなどを説明するには、場合によっては相分離の概念の方がしっくりくるのもまた事実。 相分離は、代替医療、統合医療領域にも大きなヒントを与えてくれる概念だと思いました。とくにファシアとの関連はまた別の機会に、あらためてここでも書いてみたいと思います。

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