データから身体を推測する 化学的マトリックスの一例として
統合医療関係の採血検査というと、どうも遺伝子検査や副腎疲労関係の米国での検査を思い浮かべる方が多いようで、時折、当院にも問い合わせがきたりもしますが、そうした珍奇な検査群はほぼしていないのが現状です。それらが悪いという事ではなく、通常の検査項目ですら、しっかりと説明されずに理解できていない方がほとんどの中で、それほど高度な専門性の高い、そして高額な検査をするまでもなく、通常の項目でかなりのことがアドバイス可能です。
いわゆる臨床検査医学領域で使われるリバースCPCの方法を用いて、カウンセリング的な診療の中に取り込んでいくことで、栄養的なアドバイスはかなりのレベルで可能だと思います。そこで、少し検査データに関してご紹介とまとめをしてみたいと思います。どのような観点から、身体をみていくかという一つの参考にして頂ければ、と思います。
1)全身状態・栄養状態
いわゆる総蛋白やアルブミン、ヘモグロビンやコリンエステラーゼ、さらにはWBCや血小板などから総合的に判定可能です。とりわけ栄養状態は、通常のアルブミンのみの判定よりは、BUNや尿酸、コレステロールや中性脂肪、血糖関連の指標も併せて評価することで、具体的な食事内容まで踏みこめる情報の宝庫です。とくにタンパク摂取に関しては一面的な評価ではなく、タンパク分画などを用いた複数の視点により、摂取の不足を指摘できることが多くあります。また、糖質に関しては従来の糖尿病コントロールの観点を超えて、食後高血糖や機能性低血糖の存在などにも複数のデータの組み合わせから推測が可能です。脂質に関しても同様で、血小板などから血管内病変の存在を推測しながら、コレステロールや中性脂肪の数値を考察することで、また違った視点を得ることもできます。
栄養状態の評価に関しては、入院時の栄養管理とは異なり、日常生活における細かな注意、アドバイスにつながる情報は意外に多いので、血液からの情報はかなり奥深いと思います。
2)感染・急性炎症・慢性炎症
何らかの感染が現状のデータに影響することも多いので、こうした影響を考慮することも重要です。WBCやCRPに加え、末梢血塗抹標本も多くの状態(左方移動や異型リンパ球)を物語ります。CRPやSAAを用いた急性炎症の評価のみならず、慢性炎症の評価も統合医療領域には必須です。いわゆる慢性疾患や未病の評価としてタンパク分画を中心に、好感度CRPやフェリチン、血清銅なども参考になります。複数の視点から、くすぶった「ボヤ」状態を把握し、診療の道標として活用できるわけです。通常の内科視察における感染症診療とは少し異なりますが、長期的な健康維持として、こうした視点は非常に重要なものとなります。
3)臓器障害
臓器障害の度合いは、通常の内科診療においても重要なものであり、予防・未病対策としての統合医療診療としては、症状を自覚していない方々の潜在的な障害を発見することにもつながります。いわゆる肝胆膵機能、腎機能に加えて、心臓をはじめとした他臓器にひろく適用されます。また、身体評価の観点からは、通常の臓器障害の視点からだけではないデータの別解釈も重要です。ASTやALTからのビタミンB濃度の推測や、尿素窒素からのタンパク摂取量の推測がそれに当たります。
4)電解質、その他ビタミン類など
ナトリウムやカリウムといった汎用される項目のみならず、マグネシウムやリン、鉄・亜鉛・銅なども栄養状態をしる大きな情報源ですので、評価しておくと良いと思います。とりわけサプリメント臨床においては鉄と亜鉛が大きな役割をもつので、特に重要な指標と言えます。その他、25ヒドロキシビタミンDの測定なども、慢性の不定愁訴などには大きな参考になりますし、継続する少量の尿中潜血からも、ビタミンE欠乏予測のきっかけとなりえます。
5)血算
赤血球・白血球・血小板の3系統の評価になります。赤血球に関しては鉄代謝関係のみならず、ビタミンB12や葉酸の代謝、溶血の有無からの推測。白血球はリンパ球数に代表される栄養指標としての意味や、顆粒球数とリンパ球数の比率から、自律神経とりわけ交感神経の緊張状態も推測できます。血小板は、血管内での消費亢進から全身状態を推測しうるし、血液中のセロトニンのほとんどが血小板に含まれることも興味深い。血小板との関係でいうと、凝固系や線溶系との関連もまとめて理解しておくと整理しやすく、いわゆる瘀血状態の評価としてDダイマーなども参考になりうるでしょう。
加えて当院では、毛細血管観察と新鮮血観察を併用して、末梢循環の状態をよりリアルに理解できるようにしてあります。末梢血には一般に知られるより、より多くの未知の情報が含まれていることを指摘しておきます。
その他の項目も、少し視点を変えれば、未病や健康増進を目的とした統合医療的な多くの情報を有しています。新たな検査に目配せすることも大切ですが、これまでのいわばルーチンに近い項目にも、再度関心を払って、新たな身体理解の一助としたいものです。
ちなみに通常の検査事項であっても、化学的マトリックスと称したのは、生化学的な反応や測定を介して「身体」への一つの「まなざし」としていることに由来します。化学反応をあくまでも媒介として、我々は身体情報を得ているから、でもあります。