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小さな診療所から(3)改:刺絡療法・バトソン静脈叢うっ血・腹部打鍼

 乳がん術後、化学療法中の様々な不調に関してのケースを見ていきましょう。
 60代女性、Aさんです。
 タンパク質の意図的な増量により、栄養状態が改善され、抑うつ気分が解消、現状の治療に対しても前向きに取り組めるようになってきました。

 表現しがたい全身の不快感や、落ち込みの解消により、今度は、具体的な体の不調が現れます。頸や肩の痛み・コリ、背中の痛み、腰痛など、局所的な症状です。
 身体としては、言葉で表現することができない、つらい状態から、はっきりと表現できる状況へと変化していったとみることができるでしょう。

 こうした症状の時には、当院ではまず鍼灸をお勧めしています。
 特に、当院の特徴としては「刺絡」を用いるというところです。鍼灸・刺絡に関しては、当院では医師である私自身が施術しています。

 刺絡は出血を伴う手技ですので、行われているところも少ないのが現状です。一部、強い治療と思われて敬遠されている面もありますが、実際はそうではありません。
 治療に伴う出血量も、いわゆる通常の採血量よりも少ないですし、治療の強さを加減することで、幅広い不調に対応することもできます。また安保・福田理論によると、自律神経と免疫の調整が可能で、がんの統合医療として大きな役割を有します。

 また、この刺絡治療の適応でない状態であれば、通常の細い針による鍼灸や、皮膚を刺すことのない「てい鍼」なども併用します。
 とりわけ、あまり刺絡向きではない腹部の調整としては、このてい鍼を用いた腹部打鍼を通常、行っています。

 Aさんに対しても、栄養状態の十分な改善を確認してから、痛みやコリの場所に加え、「カッサ」を用いて瘀血のある場所(痧点)をあぶりだして(こすりだして)それらに少量の刺絡を施術します。
 これによりコリや痛みの改善のみならず、脊椎近傍の静脈(バトソン静脈叢)の血流改善をはかることで、腹部内臓に出入りする交感神経の異常な刺激を調節することができると考えています。これは静脈弁を有しないバトソン静脈叢でのうっ血が、背部のうっ血に関与するという考えにより、自律神経の調整(交感神経異常興奮の抑制)を行うというものです。

 またそうした神経の走行を伴っての、ファッシアの異常な緊張も緩和できるので、内臓に良い影響を与えられるという治療です。その他、局所的な瘀血も改善されるため、全身の血流改善に幅広く寄与する治療でもあります。(この辺りの詳細な理論は、現在このブログ内で「臨床ファッシア瘀血学」として週に1~2回で連載しておりますので、お読みいただければ幸いです)

 こうした刺絡治療により、Aさんの首や背部の痛みは改善され、自覚症状が改善されるだけではなく、内臓の状態、ひいては全身の免疫状態をも、改善に導くことも可能になると考えます。これはがん治療に限定されるものではなく、その他、関節リウマチなど膠原病や、アトピー性皮膚炎の体質改善にも応用しております。

 また刺絡は主に背部を中心に治療をしていますが、腹部へのアプローチとしては、てい鍼を用いて調整を行い、身体の前面と後面の両面から、内臓を含めた全身へと栄養を及ぼす治療を行っています。これは自律神経や血管が、背部から腹部へと回り込む解剖学的知見を応用し、背中を強いアプローチ、腹部をソフトなアプローチとしていることによります。(東洋医学的に陰陽で説明することも可能です)

 Aさんは現在も、栄養状態の改善に引き続き、こうした刺絡療法を中心とした鍼灸治療を継続しておられ、化学療法の併用と再発防止に努めていらっしゃいます。

 難病治療への刺絡療法は、当院の特徴的治療法とも言えるもので、これまでなかなか改善の見られない症状でお困りの方は、是非一度ご相談ください。(特にへバーデン結節など難治性の関節痛の方にも、漢方薬との併用で、疼痛改善が可能です。こうした症状のケースについても、稿をあらためてご紹介していきたいと思います)

 小池統合医療クリニック、お問い合わせはこちらまで

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