臨床ファッシア瘀血学(2)三木解剖学との関連

 前回は、ただの結合組織や生体膜ではない、ひとつながりの意味を持つファッシアとしての理解をするために、各臓器との連続性、もしくは器官の連続性などから、主に「筋膜マニュピレーション」における理論を参考に解説しました。
 今回は、そうした「ファッシア」の概念を三木成夫の解剖学と連携して考えてみたいと思います。こうしたファッシアの基本的概念の問題を考えてから、もう一つの重要な概念である「瘀血」を扱っていきたいと思います。

 三木の著作(『ヒトのからだ』等)の総論において、アリストテレスの四階建ピラミッド(人・動物・植物・四大)が解説されていますが、この中でプシケのあるもの(生物)とないもの(無生物・四大)ということで、西洋では完全に壁によって隔てられているとされています。
 そして現代医学では、ここでいう生物でさえも、次第に「生」が失われ無生物化しつつあると警鐘を鳴らしています。(解剖学が骨学からはじまるのはそのためだと三木は述べています)

 対して東洋では、この壁が取り払われ、同一線上に並べる思想(陰陽五行説)により、すべての要素が「生」を保っているといいます。
 ここに三木が東洋医学を礼賛する理由があるのでしょうが(晩年の三木は鍼灸師の資格を取ろうとしていたという発言もあります)、これを解剖学的な構造に結び付けることも可能に思います。それが「ファッシア」の概念です。

 当時の解剖学としては、まさに「除去すべきもの」だったファッシアが、こうした論の流れに登場するというのは、著者の三木にとっても意外に感じられるのではないでしょうか。

 動物系は、「感覚ー実施」という神経を基盤にした、いわば電気信号ベースの情報です。そして植物系は、食物から得られる栄養素、つまり化学物質といえる物質です。では四大のところは何か。それはまさに、物理的な「力」です。つまり、押されたら、その圧力(剪断力、張力)など力学的な力が、その内部に伝わります。これは生物でもそうでなくても、共通です。その意味で、無生物としての生物への影響となります。こうした力学的影響を伝達するのが「ファッシア」であるのはいうまでもありません。
 つまり「皮膚ーファッシアー内蔵(これは内部臓器に限らず筋肉などいわば「内蔵」されたもの全て)」の伝達路により、外側から内側への情報の流れとなります。これの仮想的なルートが「経絡」となるわけですし、整体やカイロ、あらゆる徒手技法の基本となりうるものです。

 それゆえに三木の言う中心的な役割のものとしては、動物系の神経系、植物系の循環系、さらにその基盤にファッシア系があると位置づけられます。この観点で、三木解剖学を読み返すとまた新たな解釈が可能ですが、ここではとりあえず、ここで議論を止めます。
 
 こうした見方は、人体における信号伝達システムとして捉えることもできます。神経・脈管・ファッシアの3つのシステムです。
 これら3つに関しては、『アナトミートレイン』においては、理性・感情・信念の3つに対応するのではないかと解説されています。ファッシアは特に空間における身体の感覚を表しており、身体観に大きな影響を与えています。神経・脈管・ファッシアの3システムの相違などを考慮しながら、今後このあたりを深堀りしていきたいと思います。

ヒトのからだ―生物史的考察画像

ヒトのからだ―生物史的考察
三木 成夫 うぶすな書院 1997-07T

アナトミー・トレイン [Web動画付] 第3版 徒手運動療法のための筋筋膜経線画像

アナトミー・トレイン [Web動画付] 第3版: 徒手運動療法のための筋筋膜経線
板場 英行 医学書院 2016-05-30

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