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豆腐の話(2) 生しぼりと煮しぼり

「美食地質学」入門 和食と日本列島の素敵な関係(巽好幸著)という本を読んで、豆腐についての長年の謎が解けたのだった。この本は日本独自の食文化と、日本列島の成り立ち、地形、地質から切り込んだ、とっても面白い本だった。

生しぼりと煮しぼり

豆腐(豆乳)の製法には、生しぼりと煮しぼりというものがある。
◉生しぼり→大豆をすり潰した呉を生のまま圧搾して豆乳をしぼり取る。
◉煮しぼり→大豆をすり潰した呉を煮てから圧搾して豆乳をしぼり取る。

日本のほとんどの豆腐は煮しぼりで作られているが、実はこれ、ほぼ日本だけで発達した方法で、豆腐が生まれた国、中国をはじめ、韓国や東南アジアのほとんどの国では生しぼり製法が一般的である。大豆をすり潰した呉を加熱してから搾った方がたくさんしぼり取れそうなのは、素人でも何となく考えられるので絶対やっていたと思うのだが、それでも頑なに生しぼりで作るということは、もしかして生しぼりのほうが美味しかったからなのか?何か他に理由があるのではないか?というのが、実は長年の謎だった。

生しぼりを強く推す日本のメーカーの一文では、「中国では豆腐の苦み・渋みを嫌い、それが出ない「生しぼり製法」が主流だそうです」って書いてあったりするが、それホント?今まで普通に豆腐を食べて、そんな不快な味を感じたことないんだけど。むしろそれが大豆の味なのでは?とも思うんだけども。

それに、中国では豆腐を生で食べることはほとんどなくて、炒めたり煮込んだり、しっかり味付けして食べることが一般的なので、そこまで豆腐の味にこだわるとは思えないんだけどなぁ、、、てなことを考えていたら、「美食地質学」入門(巽好幸著)という本に出会う。

かいつまんで解説すると、日本は活発な火山活動と地殻変動によって急峻な山地ができたことで、川や地下水の流れも急となり、ミネラルが溶け込む時間が短くなるので軟水が多い。日本の煮しぼり製法は、そんな軟水の多い日本だからこそ出来た製法だったのだという話。

どうして軟水と煮しぼりが関係あるのかと言うと、まずは豆乳を固めるための前知識から。豆乳の中でバラバラに存在しているタンパク質を結合させるのが、マグネシウムイオンとカルシウムイオンで、これが凝固剤である「にがり」と「すまし粉」の主成分である。

中国大陸のほとんどの水は硬水だそうで、硬水を使って作った豆乳を加熱すると、硬水に含まれているミネラル分(マグネシウム、カルシウム)によって、タンパク質の凝固が始まってしまい、搾り取れる豆乳がとても少なくなってしまうのだそう。そのために硬水の中国では生搾りをしているという理屈だった。何だ!そうだったのか!

日本でも生搾りで作られているところで有名なのが沖縄である。沖縄はサンゴ礁が石化した石灰質地盤なので、そこで湧き出る水は硬水であるという。ゆえに生でないと豆乳を搾れないのだ。

先述の生しぼりを強く推す日本のメーカーは、まぁ企業なんで宣伝文句は大事なんだろうけども、「生」って言う言葉に弱い日本人。さらに「古来」からの製法とか、「伝統的」製法という文言。これによってなんとなく生しぼりの方が良いと言う風潮に持って行ってるんじゃないの?とか、天邪鬼な自分は思ってしまった。


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