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アインシュタインのディスり

量子は複数あると量子もつれという不思議な現象を起こします。2つの電子を考えます。電子はスピンという性質を持っていて、上向きか下向きの2種類あります。2つの電子のそれぞれは上向きと下向きのスピン状態が重ね合わさっていますが、互いにスピンが逆向きのとき、量子もつれの状態になります。上向きの状態を$${|↑>}$$、下向きの状態を$${|↓>}$$で表します。2つの電子について、片方が上向きの状態$${|↑>}$$、もう一方が下向きの状態$${|↓>}$$と、片方が下向きの状態$${|↓>}$$、もう一方が上向きの状態$${|↑>}$$を作ることができます。この2つの電子スピン系は全体として、$${|↑>|↓>}$$と$${|↓>|↑>}$$の2つの状態が重なり合っています。
ここで、2つの電子を遠くまで離します。片方の電子を観測して、スピンが上向きの状態$${|↑>}$$だとわかると、もう一方は下向きの状態$${|↓>}$$と分かります。逆に、片方が下向きの状態$${|↓>}$$だとわかると、もう一方は上向きの状態$${|↑>}$$だと分かります。片方の電子を観測したときに、そのスピンが分かり、その瞬間にもう一方のスピンも決まることになります。これは、片方のスピンの情報が、観測された瞬間にもう一方に伝わったのでしょうか?光よりも速いスピードで伝わったのでしょうか?アインシュタインの相対性理論によれば、光速を越えるものは存在しません。そのためアインシュタインはこの現象を嫌い、量子もつれを不気味な遠隔作用と呼びました。量子力学は不完全であるとしたのです。

量子もつれのイメージ(出展:理化学研究所ホームページ)

そして、1935年に、アインシュタインは同僚のポドルスキー、ローゼンの二人ととも量子論を批判する論文『量子力学による物理的実在の記述は完全だろうか?』を発表します。この論文は3人の著者Einstein、Podolsky、Rosenの頭文字をとってEPR論文と呼ばれています。
この量子力学に対する批判について共鳴したのがシュレーディンガーで、「シュレーディンガーの猫」という思考実験で量子力学の不完全性を主張しました。
しかしながら、EPR論文は、量子力学への問題を提起した論文にも関わらず、その後、ほとんど脚光を浴びることなく忘れ去られていきます。
EPR論文の引用回数を見てみましょう。1970年頃までほとんど無視されているのが分かりますが、1970年以降、引用回数が急激に伸びています。何が起きたのでしょうか?


EPR論文の引用回数
(出展:physical review online)

EPR論文の発表からほぼ30年後の1964年、欧州素粒子原子核研究機構(CERN)のベルが、EPR論文が正しければ成り立つ数式を見出しました。「ベルの不等式」と呼ばれています。ベルの不等式は、世界中の研究者が実験的に検証を行いましたが、アスペによって「ベルの不等式」の破れが見つかりました。1982年のことです。つまり、量子もつれは実際に起きている現象であることが分かりました。2つの電子は十分な距離を持って離れていても、2つでワンセットになっているので相関はなくならないのです。今では、量子もつれの検証はその距離が100㎞以上にまで及んでいます。

EPR論文によって、量子力学の不完全性を主張したアインシュタインですが、逆に量子もつれの重要性を示すことになりました。量子もつれは、量子コンピュータや量子暗号などにも使われようとしています。アインシュタインの量子論ディスりは、今日の量子情報技術の発展に寄与することになるのです。

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